【星幽塔】第七階層　消え去った情熱をもう１度｜リアクション

【星幽塔】第七階層　消え去った情熱をもう１度

●それぞれの情熱～シオ・レイゼルオークの場合～

　今までレオーネの様子を見ていたシオは、刺激によって状態が悪化するという精神状態ではないと判断して静かにレオーネへと歩み寄り、近く似合ったクッションの上に腰を下ろした。
「こんにちは、レオーネ様。私はシオよ」
　そう名乗りを上げて、ふわりと一礼をしてみせる。
「レオーネ様に会う前に、私この街を色々見て回ったんですよ。とても素敵な街でした」
　レオーネの視線が、シオへと向く。ちゃんと話を聞いている、という意思の表れだろうか。
「素敵な街の美味しい食べ物、とっても美味しかったです！　持ち帰りもいいけれど、それは思い出が蘇りこそすれ、別物です。本当の美味い地元飯は地元で食べてこそ！　最高のシチュエーション、欠くことの出来ない調味料なのです！」
　シオの言うことはもっともで、やはりご当地物はその場で調理人が作ってくれた物を、その場で食べるというのが醍醐味なのだろう。お土産で売っている物を家で作ってもどこか違う味になるのはきっとそのせいだ。
「しかしながら、更に上回るものがあります」
　どこか厳かに言うと、シオは星の力を使う許可をレオーネへ求める。レオーネがそれに頷くと、シオは肘まであるロンググローブを纏った手をかざし、土の力で自分が見てきたお土産品を再現して見せたのである。
　シオが作り出したのは、遠目から見ても綺麗なクリスマスツリーのようなもの。一見何の変哲もないそれをレオーネの前へ押し出すと、シオが唇を開いた。
「これ、よく見ると……イカ、っぽいものなんです。海の烏賊」
　知っているだろうかとシオが問えば、レオーネが知ってはいるけれど、イカ……？　という怪訝そうな表情を浮かべる。
「どう見てもイカには見えないじゃん！？」
「ステラもー、これイカなのー？　イカなのなのー？」
　東条あんずが思わず声を上げれば、ステラも身体ごと首を曲げて疑問符を浮かべている。そんな困惑の声や突っ込みの声を綺麗サッパリスルーして、シオは如何にこのクリスマスツリーもどきのイカが凄いかを語る。イカだけに。
「見つけたときに、これはナイ……そう思いました。意味が無い、必要性が無い、そして……他に無い！　完璧だ！　と」

　既に付いていけなくなってきたステラやあんずは、このお菓子美味しいねーと逃避を始めている。けれどもシオは尚もレオーネへと熱く語り続ける。
「思い付く者、生産販売する者、買う者。どうして思い止まらないのか……けれど、ありがとうと言う思いも同時に浮かぶのです。思う所有れど、情熱が無ければこれはこの場に無いでしょう」
　イカもどきを指差して頷けば、レオーネもイカもどきへと視線を移す。
「情熱……端から見ると時に滑稽で、どうして？　と疑問に思うものかもしれません。無くても生きていける人だっているでしょう。でも、あるときっと生きる事が楽しくなるのだと思います」
　情熱、それは時に醜くもあるけれど命の根底にある流脈なのだとシオは微笑んだ。
「だから、私はレオーネ様に情熱を取り戻して欲しいと思います」
　星の力を宿したロンググローブを嵌めた手で、軽くイカもどきに触れるとイカもどきは跡形もなく崩れ去る。それと同時に、柔らかな光がレオーネへと向かって消えた。
「そう……そうだな、まだ私の知らない民達の情熱の結晶がこの街には沢山あるのだろうな」
　優しく頷いたシオが下がると、口の中のお菓子を飲み込んだあんずが手を上げた。
「じゃあ、次はうちの番！」
　ゴルデンレトリバーに跨った少女は、元気よくそう言った。

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