ヒーローズ！外伝～消し得ぬ炎の上の日常～｜リアクション

ヒーローズ！外伝～消し得ぬ炎の上の日常～

　見晴らしのいい、小高い丘の上。
　そこに位置する教会の墓地を、サキリ・デイジーカッターは訪れていた。
　昔の戦友達の、墓参りに来たのである。
（尤も、墓標だけで死体は埋まっていないけどね。ただの飾りだ）
　それでも、サキリは墓の前に花束を供えると、祈りを捧げる為に瞼を閉じた。
（今日は、僕にとって特別な日だ。かつて、戦友達と約束を交わした日……）
　束の間の休息に、想いを馳せるは自らの抱える過去。
　記憶が、脳裏にぶわりと浮かび上がる。
　サキリは、テロで両親を失った孤児だ。
　物心ついた時から、彼の傍らにはずっと戦いが寄り添っていた。
　モレイビーの少年兵による戦闘部隊。
　そこでサキリは、汚れ仕事を担い、社会の裏で戦い続けたのだった。
（異能を持つ者と持たない者との確執、憎しみと悲しみの連鎖、正義も信念も無い殺し合い……）
　そんな物を散々、それこそ嫌というほどに見てきたサキリだ。
　けれど、赤い双眸に映るのは、それだけではなかった。
　共に戦う仲間達が、彼にはいたから。
（クズも沢山いたが、気の良い奴も沢山いて……あそこだけが、僕の居場所だった）
　そしてある日、仲間のひとりが、ふざけて、あることを言い出した。
　――俺達の中で最後に生き残った奴は良い事をしろ。
　――孤児院に寄付をして不幸な子供達を救え。
　――俺達を代表して罪滅ぼしをするんだ。
　その言葉は仲間達の共通の約束となり、それはサキリにとっても例外ではなかった。そして。
（戦いの中で、仲間達は全員死んだ。生き残ったのは、僕ひとり）
　やがて傭兵となったサキリの手元には、約束が一つ、残ったのだった。
　仕事で報酬を受け取っては、サキリは匿名で、孤児院に高額の寄付をしている。
（争いが孤児を産み、争いで僕は金を作り寄付する……皮肉な話だね）
　ふっ、と、サキリの口元に微かな笑みが乗った。
　目を開ける。お飾りの墓を、真っ直ぐに見つめる。
（僕は、良い人になりたいとは思っていない）
　いつか自分も、戦いの中で命を落とすのだろう。
　そんな予感が、サキリにはあった。
　けれど、サキリが『その先』に見るのは、混沌たる絶望ではない。
（その時には、胸を張って戦友達のいるあの世へ行きたい。それで、僕は）
　――僕は約束を守ったよ。
　笑ってそう言ってやるのだと、サキリは丘の上、目元をそっと和らげた。