【思い出の記録（スクープ編その１）】

　授業の合間の休憩時間、普通科一年一組の教室内は、妙な喧騒に包まれていた。
「な……なんじゃこりゃぁぁ！？」
　御剣 刀は机に広げられた新聞の記事を二人の生徒――橘 千歳と小山内 海と共に見ていた。
　新聞を持ってきたのは千歳であり、海は今広げられている新聞の記事の話を聞いた上で、芸術科からすっとんで来ていたのだ。
「……私も驚いたわ。まさか、こんな写真を撮られてるなんてね」
　この三人に関わる記事は二つ。
　それも、刀にとっては明らかに不名誉となる【二股疑惑】なんてものがかけられた、匿名での記事であったのだ。
『でも……これって、どうしてこうなったの？』
　首をかしげながらも、海の視線は記事の内の一つ、雨に濡れた刀と千歳が、なんとなく気恥ずかしげに座っている写真が載せられた物へと向けられていた。

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御剣氏の二股疑惑？～濡れる二人の恋模様～

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　記者は断言する。
　そう、この写真こそがかの朴念仁、御剣 刀氏の決定的な現場情報であると！
　まずはその一枚を、皆に見ていただこう。

【早朝の逢い引き、突然の雨で濡れた二人がこの後どうなったのか！？】

　どうだ、この恥ずかしげな表情！
　んん～、何か謎があるようにしか見えないと思わないか！？

　（以下、長ったらしい考察）

　――だが、もちろんこれだけじゃあない。
　記事の見出しと同じように、もう一枚、御剣氏の二股の現場も押さえているのだ！（続く）

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「どうなったのか、じゃねぇ！ 濡れ衣過ぎるだろ、これ！」
　記事を見た後に、海からの筆談による質問に必死で返答を返していたが、もう一人の被害者である千歳は、やや狼狽しながらも海と、そしてクラス内の生徒達にその状況を語る。
「え、えぇ。そう、御剣君の言う通りよ。決してやましい事なんて何一つ無いの」
　そも、前提として二人は剣道の稽古をしている最中に、雨が降ってきたから雨宿りしただけである。
　元から、千歳の下宿先が神社から近い事もあり、神主に許可を取り境内で稽古をしていたのだ。
　刀も同じように神社で稽古しており、時間が合う早朝には、たまにではあるが一緒に稽古をしている、と言った現状があった。
「あの日は……稽古の最中に急に雨が降ってきたから、少しの間雨宿りしていたわ。そうね、１０分ぐらいだったかしら？」
　その間、特に誰とも会わなかった、知り合いからの連絡もあった、と千歳は海に携帯をかざす。
　ディスプレイには、確かに通話記録が表示されており、その時の会話をした知り合いが私だと名乗りでる。
「雨が止んだ後はお互いそのまま帰ったんだ、それだけだ！」
　一部男子からは、野次というよりもどちらかといえばため息が漏れていたが、そんなモノを刀が気にしている暇は無い。
　とにかく、色々な証言と現場の情報から、まずは千歳への疑いはしっかりと晴らされていた。
「でもね、御剣君。そもそも、原因は貴方の私生活にあると思うわ！」
「は、はい！」
　びしっと刀に指を突きつけ、千歳はそのまま刀を正座させる。
　そのまま、千歳は刀に対ししっかりと説教を始めてしまい、結果として海は落ち着こうとスケッチブックに書き込みつつ、千歳を止める形を取っていた。
「――ふぅ、分かったかしら、御剣君」
「わ、分かりました……なんで俺が……」
　おそらく、現在一番の被害者である刀が、がっくりと肩を落としながら千歳の説教に耐え切る。
　――が、当然これで終わりではない。
　説教が終わったとは言え、まだ疑惑の一つである記事が残っているのだ。
『これ、ＧＷにすいぞくかんにいったときのだよね？ いつのまにとったんだろう……』
　説教を終えた千歳から離れ、海は残された記事へと目を向ける。

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御剣氏の二股疑惑？～水族館のほんわかデート～

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　さて、お待たせした。
　もう一枚、そしてこれこそが、二股と思わしき決定的な写真である！

【水族館にて激写。手を繋ぎ、仲よさげに歩く二人の関係は……？】
　どうだろう、諸君。
　青春の甘酸っぱい一枚。そう、確かにそんな一枚だ。
　だが、だが！ 先の写真を見て欲しいぃ！
　二人の女性とこんな関係、記者もうらやま人として許せるものでは無いだろう！

　御剣 刀氏。
　もしこの記事を読んだのであれば、そろそろ年貢の納め時ではないかね？
　どっちを選ぶのか、はっきりしたほうが身のためと書き、ここで筆を置きたいと思う。

記事提供：匿名

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「ど、どどどどっちってなんだよ！ それに、何で俺だけ名指しで写真付き！？」
　普段の刀の冷静さはどこへやら。
　完全に記事に翻弄されつつ、焦る態度を見せる刀に、級友の男共は記事の結果を知りたいが為にわくわくとした視線を向ける。
『う、うん。このときはね、みんながこれなくて……その、ふたりであるくことに……ね？』
　海は海で、写真に撮られたこの状況がなんであるのかを、女子の級友と千歳に説明していた。
「……相変わらずね。まぁ、御剣君らしいけれど」
　手を繋いでいるのは、人が多かった為にはぐれない為。
　そして、寒そうにしていた海に、刀がジャケットをかけてくれた事。
　恥ずかしそうに海は語るが、その表情は決して嫌そうなものではなく、自分にとって大切な思い出の一つであると、この時に買ったお揃いのストラップをぎゅっと握りながら一生懸命に語る。
　それを茶化すような級友はいない。というよりも、態度から気持ちがバレバレな為に、千歳以外は優しい笑顔と共に頷きを返していた。
　――そんな中で鳴り響く次の授業の開始を知らせるチャイムの音。
　教室の扉が教師の手により開かれ、この騒ぎは一時静まりを見せる。
　しかし、この後も一組はこの話題を今日一日引っ張り、新聞そっちのけで恋愛談義が繰り広げられたのは言うまでも無い事であった。

【思い出の記録（スクープ編その２）】

　ひょいひょいと足取り軽く、神出鬼 没は休憩時間中に教室から離れ、屋上へと顔を出していた。
　何が目的だ、というわけではない。
　ゆっくりと新聞を読みたいが為に、没はこうして静かな場所へと足を運んでいただけであったのだ。
「～♪」
　スクープ記事として掲載されている自分の記事。
　新聞のネタとして提出したのは、以前あった変態共の大騒ぎである。
　没自身は遠くから見ていただけであったが、印象深かったこの出来事を記事にしたいと、達筆な文字で一生懸命書いていたのだ。
「～♪ ～♪」
　さわやかな風が吹き抜けていく中、没は授業のチャイムを聞き流し、屋上で新聞を読みふけっていた。

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オイラは変態をみた！

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　あのね！凄いの！ビックニュース！
　だって学校に変態が現れたの！ いつもいるけど！

　でも、その時はいっつもの比じゃなかったのさ！

　いきなり「エロスは好きか！」って叫ぶから思わず駆けつけちゃったのさ。
　面白そうな匂い！ でもあれは異常だったのさね！

　皆ピンクでお面つけてるの。般若みたいな！
　絵にするとね、こんな感じ！（やけにうまい絵が挿絵として載せられている）
　しかもわらわらっといて、シャフトする姿に思わずガタガタっと震えたのさね。

　今思うと、あそこで乗り込まなくて正解だったかも？
　変態の放つ熱気に風紀委員もお手上げそうだったのさ。
　次回頑張れ、風紀委員！ あ、でもオイラのオヤツはとらないでね！

　でも変態も大変かも？
　隊長って人がお面とられそうになってたのさ。
　ダンチョーコウタイ？ハバツアラソイ？
　変態社会も奥深いさね。

　このあとどーなったのかは知らないけど、噂だと体育館の床をぶち抜いて捕まったんだって！
　きっと底が抜けるまで変態がたくさんきたのさー。

　そういえば知り合いの声に似てたかも
　今もどこかに隠れて叫んでるのかな？

　八神に詳しいことを聞こうと思ったんだけど、怒られちゃった。
　これはもしかすると、怪しいのさね！ ←事実無根だ！（八神より）

記事提供：神出鬼 没

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【広告欄：部活編その２】

　没の記事を目にしながら、この記事の中心人物である一人、横嶋 下心はあの時の思い出を振り返る。
「あの時から、だったよな。うん、そうだ……」
　振り返ったところで変態な思い出しかないのだが、クーデターによる隊長の交代、そして今自分が指揮をとっている桃色破廉恥小隊は、下心にとっても大切な物であるのだ。
「でもまだまだだ！ いまだに己の熱い情熱を持て余している人達の為にも、俺はもっと頑張らなきゃならないんだから！」
　グッと手に力を籠め、下心は広告として出したＰＥＣの記事を目にしていく。
　――募集広告を読み、新たな戦力（変態）が来てくれる事を期待しながら。

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桃色破廉恥小隊への入隊のお誘い

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　――貴方には人に言えない悩みがありますか？
　例えば男性や女性の胸部や臀部、大腿部、はたまたそれ以外の部分に目がいってしまったりする事はありませんか？
　同性同士の恋愛について真面目に考えてしまったり、時にそれらに気を取られて自分のやるべき事に手が付かなくなってしまったり……

　他の人に話して引かれてしまうのは嫌だなって思っているそこの貴方！
　是非我ら「桃色破廉恥小隊」にご相談ください！

　我々は己の性癖を語り合い、時に満たすために活動を行っています。
　顔を隠し、偽名を名乗っても構いません。
　と言うか己の性癖をアピールするためにバンバン偽名を名乗っちゃってください！
　勿論、恥ずかしくなんかないよ！
　でも同じ趣味を語る人が居なかったんだ！って素顔のまま本名での活動もＯＫです！

　隊長をやらせてもらっています俺、横嶋下心は本名での活動は勿論の事。
　隊員と組んで貞操戦隊「ドウテイジャー」としても活動しています。

この募集を読んで興味が湧いた貴方！ お問い合わせは１年３組の横嶋下心まで！

広告コミュニティ：桃色破廉恥小隊
広告主：横嶋 下心

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