【思い出の記録（学生生活編その１）】

　夢宮 瑠奈は、新聞を手に軽い足取りで級友達と別れ、自分の席に戻る。
　インタビューを受けた時、答えられる事と答えられない事の二つを上手く混ぜ合わせ、自分の思い出を語っていた。
　形式としてはインタビューではあったが、ジャンルとしては通常の記事として扱われ、こちらに記載されていた事だけは誤算だったが。
「うん、楽しかったよねぇ」
　のんびりと、瑠奈はそんな事を口にする。
　一度だけのステージ、しかし瑠奈にとっては忘れられもしない、思い出深いそのステージを思い出しながら。

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新歓祭ライブの思い出

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　その少女は、名を夢宮 瑠奈と言いました。
　少女は『卵』でした。
　学校内で一番有名なアイドルを目指し、それだけではなく世界に愛される歌姫になることを目指しています。
　その彼女の高校初舞台が、新歓祭でした。
　制服のようで、装飾の施された印象的な衣装であったと言います。

　――彼女が歌う舞台には魔法がかかっていました。
　ステージのみならず、講堂全体に花吹雪が舞っていました。

　生徒会長の海原さんにインタビューをしたところ、次のように語っています。
「まさか講堂全体を使うとは思わず、驚いた。どんな魔法を使ったのか……これからの活躍も期待する」
　なんとも上から目線のようなコメントですが、彼なりに賛辞を送っている模様です。

　なお、この魔法の正体ですが、夢宮さんは頑なに公開を拒んでおり、どのようにして実現したのかは未だ謎に包まれています。
「あれは魔法だから、普段の活動じゃ実現できないんです。新歓祭だけの、特別な魔法。
　皆を喜ばせるために、特別に使ったんです」

　また同じ事ができるか、というこちらの質問については、わからない、できるかもしれないしできないかもしれない、という非常に曖昧な回答を入手しています。

インタビュー回答者：夢宮 瑠奈・海原 茂
記事担当：斉田 珠喪

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【思い出の記録（学生生活編その２）】

　授業間の休憩時間の合間、特殊教室に向かう前に弓弦原 譲は屋上へと顔を出す。
「……相変わらず、ここは空が近いな」
　視界一面に広がる青は、高校内で一番空に近い場所だと譲に伝える。
　そして――ここは新聞の記事にも書いた、クラスメイトと初めてまともに顔をあわせた場所でもあった。
　過去にあった事柄は、今も譲の心を絡め取り、重く圧し掛かっている。
　この学校で自分はそれを取り払う事が出来るのかは、今はまだ譲にも分からない。
　だが、そんな感情に共感とでも言える少しばかりの安らぎを与えてくれたそのクラスメイトの姿を、譲はこの場所に来る事で思い起こしていた。
「まぁ、今日も顔を見ているがな」
　自嘲気味に薄く笑い、譲は授業に遅れないよう、屋上を後にしていた。

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通り過ぎた過去と望む今

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　――ろくに話した事もなかったが、密かに気になっていたクラスメイト。
　先日屋上で会った時は無視してしまったが、図書室では向かい合って様々な話をした。
　入学から一か月と少し経過するがクラスメイトと親しく話したのは初めてだ。

　読んでいる本や将来の事。
　ぼんやりとして掴み所のない奴だがアレはアレなりに考える所はあるらしい。

　一方、俺は……
　実家と縁を切りたいが具体案は実行に移せぬまま、親の脛を齧って星ヶ丘寮に住んでいる現実に苦々しい物を感じる。
　最も、体裁にこだわる両親に一人暮らしを願い出ても反対されるのは目に見えてるのだが。

【俺がいなくなれば全て丸くおさまる、父の会社は妹の婿養子が継げばいい】

　だが、悲しいかな俺も周りの人間もそれを望んでいるのに、妹だけが納得しない。
　そんな俺にとって、寝子島の生活は俺の望む普通に近しいものだ。
　――少なくともあの家にいた頃よりずっとマシだ。
　だから、いまだに届く妹の手紙は過去から伸びる鎖でしかない。

　屋上から仰ぐ空はどこまでも広がっている。
　でも俺達はコンクリ打ち放しの殺風景な箱庭に閉じ込められてどこにも行けずどこにも飛べない。
　フェンスの柵は檻の代わり。

　閉塞感と疎外感と孤立感。
　だがそれを無言の内に共有する相手がいるのは……まんざら悪くもない。
　――俺はこいつと友達になれるだろうか？
　なれるのならば、そう望みたいものだ。

記事提供：弓弦原 譲

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【思い出の記録（学生生活編その３）】

　ちょっとした休憩時間は、生徒達に次の授業までの一時的な平穏をもたらす。
　緋紅朱 赫乃もまた、この時間で入り口で配布された新聞を開き、ようやく自分の記事を見つけていた。
「今年も、綺麗に、咲いてくれた、ね……」
　記事に掲載された写真には、つい先日に花をつけた薔薇の花と、それを世話する自分が映っている。
　手塩にかけて育てた薔薇がこうして人の目に触れる事、そしてそれを愛でてくれることは、赫乃にとっても喜ばしい事であった。
「……え？」
　そんな赫乃に、クラスメイトの女子が数名近づいてくる。
　その誰もが花に興味を持つ生徒達であり、記事を読んだ上で赫乃と話したいと席に来ていたのだ。
　人見知りの激しい赫乃ではあるが、自分にとっての得意分野、そしてこうして接してきてくれた級友達に少しでも知ってもらいたいと、赫乃は言葉足らずながら必死で話を進めていた。
　――相手に届きますように。
　赫乃が育てている薔薇の花言葉と同じように。

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私の薔薇園

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　入学した際に、寮の庭に家から持ってきた薔薇園をまるごと移転させて、根付かせてから早数ヶ月。
　薔薇達は元気に育っています。
　丁度この時期が一番薔薇が綺麗な時期です。
　そんな時にふと、ここでお茶会をしたらどうかな、と思いました。
　人見知りのしやすい私ですが、なんとか勇気を振り絞って、招待状を作りました。
　私の薔薇園でお茶会をしましょう、と。

　同年代の方もひとつだけ上の先輩達も招待を受けて来てくれて、嬉しかったです。

　また、担任の先生や興味をもってくれた同学年の生徒も来てくれました。
　先生とある人には真紅の薔薇をプレゼントしました。
　赤薔薇の花言葉が、相手に届きますようにって。

　春ほどではありませんが、秋も見時を迎えると思います。
　もし来たい方がいましたらお知らせください。
【今の薔薇園の写真です。６月一杯は見頃ですので、是非お越しください】

記事提供：緋紅朱 赫乃

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【広告欄：部活編その３】

　授業中の静まり返った部室棟の一角。
　間借り中の工学部の部室内には、レンジャー・マオとミニがおーの定期点検を行っていた吉祥寺 黒子の姿があった。
「おー、ちゃんと載ってるな！」
　メンテナンス用のパソコンから目を離し、新聞を広げていた黒子の視線に匿名で掲載した記事が止まる。
「クロコ様、なにが載っているのでアリマスか？」
　メンテナンス中である為、機材に固定されたマオが楽しげな声を上げた黒子に声を掛ける。
「ん？ あぁ、ウチの事の記事がな、コイツに載ってんだ。ちゃんとマオの事も載ってるぜ？」
　ガザっとマオの視界に映るように、黒子は両手で新聞を広げる。
「――コレは、ワタシの事でアリマス。なぜ、このような記事が載っているのでアリマスか？」
　目に搭載されたカメラで文字を追い、記事の内容を理解したマオは、そんな疑問を口にする。
「なぜって、そりゃちっとは宣伝しとかないとな。せっかく作ったんだ、マオだって人助けしたいだろ？」
「ヒトダスケとは助力の事でアリマスね。もちろんです。ワタシはその為に作られましたから」
　人のために。
　誰かを助ける事を目的としている事は、その為に付けられた名前の中の【レンジャー】と共に、マオの基礎ＡＩにもしっかりと搭載されているのだ。
　――実際には、今の所理事長の遊び相手ではあるが。
「はは、そうだな。ま、その前に理事長がいい加減飽きてくれると助かるが」
　自律行動は確かに出来るが、こちら側でマオを動かす為のリモコンは未だに理事長の手の中にある。
　とはいえ、別に困った事を仕出かしているわけでもないので、今の所は特に返してほしいといった要望を黒子達工学部からとやかく言うつもりはなかったが。
「アズサ様がクロコ様に外部操縦装置を返す可能性は低いとオモワレマス」
「だろうな。ったく、困った理事長様だぜ」
　ポリポリと頭を掻きながら、黒子は足元に来ていたミニがおーを膝に置き、その背をなでる。
　ぶみゃ～っと、気持ちよさげな声をミニがおーが上げながら、黒子はマオのメンテナンスに戻る為、パソコンへと向き直っていた。

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正義のレンジャー・マオ＆ミニがおー！

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　工学部と寝高レンジャー部及び有志の皆で開発した新型半自律型お助けロボ「レンジャー・マオ」
　可愛い女性の姿からは想像できない高機能ロボットだ！

　手にした高水圧銃で火事や災害もなんのその！
　円形シールドで学校の皆を守り、必殺ロケットパンチで今日も学校の悪を成敗だー♪
　学習型自律ＡＩシステム【マオ】による意思疎通もできるぞ！

　お供のミニがおーも負けてない！
　本物の猫のような鳴き声、そして何より本物同然の肉球があなたを癒すぞ！
　必殺猫パンチで今日も寝子高生を癒しちゃえニャー！
　猫アレルギーの人もこの子ならいっぱいもふもふ出来ちゃうぞ！

　行け行け、僕らのレンジャー・マオ！
　寝子高の為に今日もミニがおーと共にお助けするのだー♪

　＊ご利用の場合は工学部、または寝高レンジャー部にご連絡お願いいたします。
　　また理事長に遊ばれてる場合もあるのでそこはご了承ください。

広告コミュニティ：工学部
広告主：匿名のとある工学部員

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