【思い出の記録（市街地編その１）】

　午前最後の授業を前にした休憩時間。
　その中で、椿 美咲紀はポリポリと駄菓子屋『きらく屋』で買ってきたお菓子を口へと運んでいた。
「ん～、やっぱりおいしい～！」
　幸せそうにお菓子を頬張りつつ、机に広げた新聞に美咲紀は目を通していく。
　きらく屋であった二人の先輩。
　甘いものが苦手だと語り、結局食べなかった海原 茂に勧めていたチョコチップクッキーを口へと運ぶ。
「甘いのが嫌いなんて、勿体ないよねぇ……」
　茂に対し、そんな感想を口にしつつ、美咲紀はそのまま授業開始まで新聞を読みつつ、お菓子を食べ続けていた。

---

鷹取洋二先輩が、なんと海原茂先輩を連れて駄菓子屋さんへやってきた!

---

　それは、参道商店街にある駄菓子屋『きらく屋』での事。
　さわやかな季節、さわやかなうす緑の風が吹いているある日の出来事でした。

　駄菓子好きの人々が集まるこの店に、常連である鷹取先輩が、意外な人物を伴ってやって来たのです。
　これはささやかな出来事ではありますが『きらく屋』でお菓子を買い求める常連にとっては大事件だったのですよ。

　その日いつものようにお菓子を買いに来ていたんだけれど、そこで海原先輩の姿を見かけた時には、幻を見ているのかなと一瞬思ってしまいましたよ。
　海原先輩はこういうお菓子は全く興味ないと思っていたんですもの！
　甘い物が苦手という情報もありますし。

　しかしそこは魅惑の駄菓子屋空間。駄菓子は甘い物だけとは限らないのですよ。
　お菓子『おにぎりころころせんべい』は醤油をベースにした皆に美味しいお菓子なのです。
　和風はちょっと……というなら、ラーメン風味の『べびい☆ラーメン』やバター塩味の『ぴけハチ』があるのです。
　お勧めお菓子をお買いあげくださり、海原先輩もこの魅惑空間を楽しんでいた様子です。

　さあ、皆も駄菓子屋へ行こう！

記事提供：椿 美咲紀

---

【思い出の記録（市街地編その２）】

　クラスは違えど、似たように駄菓子を口に運びながら新聞を読む生徒がもう一人居た。
「新商品っていわれたけど……なんか、違う……」
　猫村 翡翠。
　駄菓子屋ねこやの看板娘であり、今食べている商品は卸からサンプルとしてねこやに届けられた新しい駄菓子であった。
　が、駄菓子らしく妙な味付けとくどさが口の中に広がり、実際の所は失敗作の様な感想を持ってしまっていた。
「ま、こういうのって美味しさよりもインパクトだからね。案外こういったのでも売れるのかも」
　何が売れるのか、なんてモノはそれこそ運でしかない。
　ごくりと駄菓子を喉に流し込み、翡翠は自分が提供した新聞の記事へと視線を向ける。
　――ねこやと、そして入学からこれまでの思い出を書き綴ったその記事を。
「色々あったけどね。まだ二ヶ月くらいしか経ってないんだよねぇ」
　長いようで短かった二ヶ月。
　そんな間にも、翡翠にとっては色々な思い出が出来ていたのだ。
　その中で、一人だけ気になった男の子の事を一瞬だけ思い浮かべながら、翡翠は新聞を畳み鞄へと仕舞っていく。

---

あたしの日常

---

　あたしは、ネコデンをこよなく愛する女子です。
　趣味はcatIslandを覗いたり猫とお話ししたりなんか、変な趣味なんて言われたりして居なくもないけど。

　異性より同性をあの子は、綺麗だな、可愛いとか思ったり彼女にしたいと思う事が多い気がします。
　実際に心は男子のままだし、「彼女欲しいのにさぁ」とかよく考えるし。
　百合だとかレズビアンに近いのかも知れないかな。
　何でなのかは、あまり言えないんだ。でもあたしだけじゃないはず。

　ただ、女子として気になる人も居ます。
　球技大会のサッカーで、同じＧＫをした八神 修。
　でも、本人は知らないし自分も友情だと思っているんだけど。
　どうなんだろう？

　それと旧市街の居候先の叔母さんの駄菓子屋の看板娘もしてます。

　駄菓子屋ねこや。
　相談場所に使って貰ったり、同学年の友達や先輩と妹さんの安らぎの場にも。
　ただ、ライバル店も有って押され気味、常連も居るし配達も。
　金の天使の加護って有るの？
　役に立っているのならそれで良いのかな？

　とりあえず、ねこやをよろしくって事で。
　駄菓子好きなら、よかったら来てみてください。
　案外掘り出しモノの新商品とかあるかもよ？

記事提供：猫村 翡翠

---

【広告欄：雑誌編】

　休憩時間毎に、芸術科と普通科の廊下の一角は、妙に黄色い声援で満たされる。
　この光景は一体何が起こったのか、と問われれば、おそらく広告と、そしてその広告の大本である雑誌が影響していた。

「随分と反響が大きいですね……」
　まずは芸術科より。
　ポツリと呟き、芸術科の教室内で加瀬 礼二はこの状況を見る。
　学生読者モデルとして、【NyagoWalker】の紙面を飾った礼二の姿は、本人の外見も相まって女子の心をしっかりと引きつけていた。
　これを無視するわけにもいかず、休憩毎に礼二は教室の外へと顔を出し、それぞれの女子達に一つ一つ雑誌の説明を行っていたのだ。
「ありがとうございます。えぇ、それはですね――」
　とはいえ、集まった女子の大半の目的は礼二と話す事である。
　雑誌の表紙を飾れる読者モデル、と言われれば確かにこうした反響はある程度大きくなるのは致し方ない。
　が、今回は新聞の効果と相まって、礼二がこうしたバイトをしている事が広く知れ渡る事となり、結果がこの状況であったのだ。
　――まぁ、一部教室内男子は羨望と嫉妬の眼差しでそんな光景を見ているわけだが。
「もちろん、色んな妄想もオッケーですよ。あぁ、それとも本当に出かけてみます？」
　当の本人である礼二に至っては、しっかりと営業スマイルを見せながら女子達へと対応を行っていく。
　元より、今回の広告はNyagoWalkerの編集者から、生徒達に少しでも知ってもらおうとこの新聞に広告を掲載するよう頼まれただけなのだ。
　その理由もあって、礼二の対応は普段の腹黒さを一切見せる事なく、表面上はとてもとても楽しげに女子達と接していくのであった。

---

≪NyagoWalker　初夏の特別号≫

---

～巻頭特集～
　今、寝子島が熱い！
　熱烈町興しに燃えるリッカルド町長にロングインタビュー！！
　寝子島の魅力とは！？

◆旧市街でレトロな気分を満喫♪

◆シーサイドタウンで遊びつくす！！

◆星ヶ丘でセレブな休日を☆

　エリア別の遊び方満載！
　貴方は何処へ誰と一緒に行く？

～特別企画～
NyagoWalkerだけでなく、メンズファッション誌でも読モとして活躍中のレイジ君。そんな彼と一緒に寝子島を歩く妄想デート！

広告雑誌：NyagoWalker
広告主：NyagoWalker編集者・加瀬 礼二

---

　そしてもう一人、礼二と同じように表紙を飾る形で雑誌に載っていた最上 るるかも、似たような対応に追われていた。
「あ、買ってくれたんだ？ ありがと～」
　パタパタと手を振り、やや大仰にるるかは集まっていた女子達に声を掛ける。
　女性誌、それも生徒達の年代に直撃なファッション＆ポップカルチャー情報誌である【Cutie　Kitty】の一面を飾った事は、それだけの反響をもたらしていたのだ。
「うんうん、いいよねコレ！ 絶対可愛いって思ってたもん！」
　撮影の時に来た服、雑誌内で紹介されている服、それぞれを一つ一つ女子達に説明しながら、今年の流行等をるるかは口にしていく。
　――が、礼二とは違い、こちらは何も女子だけではない。
　時々混ざるように、緊張しっぱなしで男子生徒が来たり、明らかにチャラそうな生徒までもがるるかを訪ねていたのだ。
「ん～……ダメ。ぜんっぜんダメ。ちゃんと書いたでしょ～？ イケメン限定ってさ」
　その理由は広告に書かれた一部の文にあった。
　しかし、今の所その文に見合う生徒はるるかの前に訪れず、大抵は門前払いで返されていたのだ。
　るるかに求めている理想が高い上に、ロマンチストな部分もあるのだから、サプライズすらないこれらの訪問は当然蹴られて当たり前ではあったが。
「ちゃーんと、あたしの目にかなわないとなってあげないよ？ 彼女には、ね」
　とびっきりの笑顔を、トボトボと帰る男子生徒へと向け、るるかは女子達と共に更に盛り上がっていく。

---

≪Cutie　Kitty ～この夏、彼氏をゲットしちゃおう！～≫

---

【Cutie　Kitty】って知ってる？
　ティーンエイジャーに超人気なファッション＆ポップカルチャー情報誌。
　あたしが読者モデルで登録してるとこ！
　他にも旬のスイーツ特集や現在注目のインディーズバンドの記事とかあって目が離せない！
　興味がある人は出版社へどーぞ。
　同じビル内にモデル事務所も併設しててスタジオ見学可。
　ここ出身で芸能界入りした子も多いし、ちょっとでも興味あるならよってらっしゃい見てらっしゃい！

　あたしは中２の時シーサイドタウン歩いててスカウトされたの。
　最初はうさんくさって思ったけど勇気出してやってみてホントよかった！
　プロの高いカメラマンやアシスタントさんと知り合いになれたし、お洒落好きなモデル仲間もたくさんできて世界が広がった

　自分を変えたい、でも何をすればいいかわかんないって悩んでる子や迷ってるそこのアナタ。
　るるかがとっときの魔法をかけたげる。

　ウィンクと投げキッス。
　ほら、目を開けて？
　カラフルなジェリービーンズをいっぱい散りばめたみたいに世界が明るくなったでしょ♪

　一度っきりの青春、エンジョイして楽しまなきゃ損ソン！
　でもこ～んなカワイイあたしでも彼氏ができないんだよね……
　なんでなんでー？
　この記事読んでるイケメン限定にお知らせ！
　今ならるるかフリーだから、特別にカノジョになったげるよ？

広告雑誌：【Cutie　Kitty】
広告主：Cutie　Kitty編集者・最上 るるか

---