【思い出の記録（島の不思議編その３）】

　午前の授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、ようやく生徒達が待ちに待った昼休みが訪れる。
　そんな中で、民谷 鋭二は授業が終わると同時に校舎から外へと足を運んでいた。
「えぇっと、確か……」
　鋭二が向かった先は、西門の近くである。
　ここで、鋭二はとある待ち合わせをしていたのだ。
「エイジ様、こちらでございます」
　草陰から、そんな声と共にひょっこりと一匹の猫が【声をかけながら】顔を出す。
「っと、そこに居たのか」
　本来、喋るはずのない猫が話している時点で驚いて当然なのだが、鋭二は驚く事なく、この話す猫――キンカに対し話しかけていた。
「お待ちしておりました。それで、瓦版の方は？」
「また、随分と古い言い回しだな。こいつだ、センリによろしく言っておいて貰えると助かるよ」
　手に持たれていた二部の新聞の内の片方を、鋭二はキンカへと差し出す。
「確かに。さぞ、主も喜ばれる事でしょう」
「はは、協力してもらったからな。お礼はちゃんとしないと、だろ？」
　にこやかに笑い、鋭二はキンカの主であるセンリに新聞と共に礼を言っておいて欲しいと頼みを伝える。
　――以前会ったネコマタ、センリの話題とあわせ、鋭二が新聞に提供したネタを貰った事への礼を。
「ありがとうございます。それでは、私はこれで」
　器用に口に新聞を咥え、キンカはそのまま鋭二の前から立ち去る。
　妖怪と呼ばれる、ある種異質な存在。
　だが、実際に存在していたこれらの存在を、鋭二は記事としていたのだ。
「さって、俺も戻るか」
　昼休みは始まったばかり。
　とりあえず腹ごしらえでも、と鋭二はそのまま校舎の中へと戻っていく。

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寝子島に伝わる妖怪についての解説コーナー

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【猫又】
　ネコマタ。
　有名な猫の妖怪。
　一般的には長い年月を生きた猫が化け、尾が二又になったものであると言われている。
　寝子島の猫又は名をセンリと言って、猫又川上流の祠に住んでいる。
　百年以上の時を生きる古い妖怪であり、二人の僕を従え、妖術を使う事もできる。
　話し好きでカラカラとよく笑う、フレンドリーな性格。
　月夜の晩には姿を現す事もあるというが、興味本位で行くと怖い目に逢うかもしれないので注意。
　なお、センリとの関連は不明だが、猫又を模した民芸品もあるようだ。

【双頭猫】
　ソウビョウズ。頭が二つある化け猫で、それぞれの首は名をシン、キュウと言う。
　現在猫鳴館が建っている土地は昔は墓場であり、双頭猫はよくそこに出没していた。
　彼らは人を脅し、死肉を喰らう魔物として霊能者によって退治されたという。
　……しかしながらその実彼らは人間に危害を加えるつもりはなく、ただ夜半の散歩を楽しんでいただけであった。
　人間の勝手な思い込みによって命を落とした彼らの霊を慰めるため、現在は猫鳴館近くの清水に守り神として祀られている。

　※寝子島の伝承について情報を提供して頂ける方、又はそうした人を紹介していただける方は、1年4組民谷鋭二までお願いします。

　追伸：面白い騒動を撮った写真やハプニング映像も歓迎します。

記事提供：民谷 鋭二

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【思い出の記録（島の不思議編その４）】

　昼休み開始と同時に、生徒達はそれぞれが色々な場所へと向かう。
　その中には、鋭二と同じように校舎の外へと足を運んだ月詠の姿もあった。
「……ここ、だったな」
　グラウンドの隅、月詠にとっても忘れられない、【一人の生徒】が居た場所に月詠は立っていた。
　今もそこにいるのかどうか、それは誰にも分からない。
　さめざめと降った暖かい雨の日、そんな一時だけに現れたその生徒の姿を、月詠は今も忘れてはいなかったのだ。
「報告が遅れてしまったが、君の絵を描いてみた。よかったら、見てくれると嬉しい」
　その言葉を口にし、月詠は両手で新聞を広げる。
　自分の記事と、そしてそこに載せられた一枚の絵を、【友達】に見せる為に。
　――その動作と同時に、不意に吹いた風は、優しく月詠を通り抜ける。
「……」
　風に混ざり、月詠の耳には何かが聞こえたような気がした。
　それはただの幻聴だったのかもしれない。
　だが、たとえそうであったとしても、月詠の顔に表れた微かな笑みは消える事はないだろう。

　――ありがとう、忘れずにいてくれて。

　春の柔らかな暖かさと共に、微かに聞こえたその言葉を残し通り抜けた誰かの言葉を、月詠には確実に聞こえていたのだから。

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もう一人の生徒

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　春特有の暖かい雨が降る放課後に少女の幽霊が現れる、という噂があった為報告。

　グラウンドの隅に現れた通称『春雨の幽霊』は自らの願いが故に地縛霊となっていた。
　名前は『千草杏子』
　願いは『誰かと過ごしたい』

　身体が陽に弱かった彼女は暫くは長袖厚着で過ごす事ができたが、ある日それすら身体が耐えられず太陽の下に出られなくなってしまった。
　学校にも行けず友達もいなくなってしまった彼女は雨の日だけは独り外で遊んでいたが、ある日事故で亡くなってしまう。

　最期に見た寝子高へのアコガレから幽霊として形作られた。
　現在、数名の者達の『彼女と遊びたい』という願いにより、彼女は満足すると笑って消えてしまった。
　成仏したのだろうか。それとも、春になったらこっそり戻ってくるかもしれない。

　ヒトの記憶から忘れられない限り、完全なる死は成立しない。
　彼女の記憶を遺す為、此処に彼女の肖像画（作：旅鴉月詠。寝子高美術室に保管）と共に記す。

記事提供：旅鴉 月詠

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【広告欄：店舗情報その３】

　教室内でそれぞれが持ち寄った弁当やパンを食べている中、東雲 人里は数名の級友と昼食を楽しんでいた。
「あ、はい。そうですよ、ここです」
　人見知りが多少ある人里にとって、こうして仲良く食事が出来る友達を作るのがまず当面の目標であったのだ。
　そして、今、この場で話題になっているのは、人里が新聞に出した広告である。
　――299 COFFEE（ニクキュー コーヒー）。
　新聞に出されたこの名前と、そして載せられた地図を前に、人里は級友達にこの店の説明を行っていた。
「え、あ、この写真、ですか？ それは、えぇっと……」
　だが、人里にとって誤算だったのは、何時の間にか撮られた一枚の写真である。
　元々は店の外観を写した写真にする予定だったのだが、写真を渡し間違えたのか、広告に載っているのは自分がこの喫茶店でくつろいでいる姿であった。
　お世話になっている299の店長にこの新聞を持っていくと約束しているのだが、ただでさえ照れ屋の人里にとっては恥ずかしさの極みである。
　そんな事もあり、級友達の説明もしどろもどろになりながら、人里は精一杯この写真の事を伝える事ととなってしまっていた。

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花を愛でながらコーヒーを楽しみませんか？

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「299　COFFEE（ニクキュー　コーヒー）」、通称299。

　店は、寝子ヶ浜交番の向かいにあります（地図付き）

　焙煎工場と喫茶スペースを備えている299は、木の暖かさと落ち着いた作りの店内、コーヒーの香ばしい香りに包まれた素敵なお店。
　店の前の花壇には季節の花が綺麗に咲いて、お客様をお出迎えしています。

　どうぞ、ぜひお越し下さい。

　営業時間　11:00～20:00 (ラストオーダー 19:00)
　おすすめ　ベイクドチーズケーキ、299ラテ（ラテアート付）
　そのほか　ホールのアルバイト募集中（高校生可）、紅茶のメニューもあり。

　【バイトの東雲 人里さんです。彼女も接客をしていますので、是非訪れてみてくださいね】

広告店舗：299 COFFEE
広告主：東雲 人里

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【広告欄：店舗情報その４】

　店舗としての広告は、雑誌と同じように何も高校内だけの物ではない。
　それは広告主としても同じ事で、高校の近くにある洋菓子店『Raton』も、新聞部に広告を頼んでいたのだ。
「あの子達、ちゃんと載せてくれたんだね」
　朝の仕込みも終わり、午前の人の流れがひと段落着いた頃、オーナー兼店長である荒井 景貴もようやく新聞に目を通す事が出来ていた。
　とは言え、商売である以上、それほど長く読んでいるわけにはいかない。
　売れた為に数の減ったお菓子を補充する為に、景貴はそのまま新聞を畳み、厨房へと戻る。
「にくきゅうマカロンが大分減ってるね……うん、後は抹茶のマカロンとフランボワーズのマカロンも作っておこう」
　閉店まではまだ時間はあるが、後で広告を載せてくれた新聞部と思い出記録部への差し入れの為に何かを作ろう。
　そんな考えを少しだけめぐらせ、景貴は今日も洋菓子を作り続けていく。

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リーズナブルで味は本格的！ 洋菓子店『Raton』

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　寝子島高校の近くに出来た洋菓子店です。
　地元の素材や旬なフルーツで様々なお菓子をお作りしています。

　寝子高の購買部にもお店のものと同じ『とろふわプリン』を販売しています。
　オリジナルケーキやバースデーケーキ、アライグマのメッセージクッキーもお作りしています。

　店内にはイートインスペースもあります。
　お好きなお菓子と飲み物でくつろぎタイムをどうぞ。

◇特典
　６月ご来店のお客様に『にくきゅうマカロン』の試食が可能です。
（お一人様一個です）

　皆様のご来店をお待ちしております。

広告コミュニティ：洋菓子店『Raton』
広告主：荒井 景貴

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