らっかみ桃太郎伝説｜リアクション

らっかみ桃太郎伝説

●モモタロウ・アクト４
「鬼と戦い悪即斬。鬼殺すべしだべ！」
　鈴野海斗は軍刀の柄を指で叩きながら、上機嫌で歩いていた。
　古式ゆかしき軍服姿の、腕章刺繍『桃太郎』。
　きびだんごの準備はそこそこで、味方は後ろを歩く夏神零だけだ。その零も胸に『桃太郎』の名札がついている。
　まだ抜刀隊を歌うには早かったろうか。
　どのみち歌詞をまんま歌うとなんかしらの団体が面倒くさいので脳内で再生してほしい。
　とにかく軍歌である。
　それはもう上機嫌で胸を反らして歩いていた海斗。
　テナントビルの前を通りがかったその時、後ろの零がぴくりと反応した。
　舞うようにスピン。抜刀。
　建物二階の窓を突き破って飛び降りてきたサキリのナイフを斬撃によって打ち払った。
　空中でスピンして衝撃を逃がし、二人のそばへと着地するサキリ。
「な、なんだべ！？」
　目を丸くする海斗を突き飛ばすように距離を取らせると、零は刀を防御姿勢で構えた。
　対するサキリはナイフを逆手に持って構える。
　互いの間合いを奪い合うように、すり足で円周移動をしはじめる。
　そばの枯れ木から葉が落ち、アスファルトについた瞬間に二人は地を蹴った。
　頸動脈へ正確に狙いをつけて切り込む零。対して斬撃の下を潜るように抜けるサキリ。
　切れた銀髪が数本宙に舞う。前転から素早く体勢をもどしてナイフを繰り出すも、零のぶん投げてきた刀が眼前に迫る。サキリがナイフで弾くと同時に、零が槍による突撃をしかけてくる。
　防御しきれない。かわすには距離が足らなすぎる。
　サキリは虚空をナイフで切って緊急離脱。
　数メートル離れた道路標識の上へと瞬間移動。着地――した次の瞬間に手刀を閃かせる零。
　道路標識が途中で切断され、サキリの足場が大きく傾いた。
　零は舞うように回転し、さらなる手刀、続けて三連。標識のプレートと後ろの樹木が切断され、激しい音をたてて崩れ落ちていく。
　サキリは腰からもう一本のナイフを抜いて更に瞬間移動。
　零の背後に回り込み、振り向く動作にあわせて再び移動。
　相手の側面へと前へと立つと、膝蹴りを叩き込んだ。
　槍を手放し、思い切り蹴り飛ばされる零。
　地面を転がるが自らをくるくると回すことで衝撃をやわらげ、街路樹に刺さっていた刀を掴む。
　瞬間移動で頭上へ現われたサキリ――の顔面めがけて既に刀をスイングしていた。先読みか偶然か。咄嗟に繰り出したナイフがはじき飛ばされる。
　バランスを崩すが、片手で着地。腕のバネですぐさま直立姿勢に戻すと、サキリはナイフを逆手に握って突進。
　対する零もサキリの胸めがけて刀で突進をかけ。
「そこまでェ！」
　がしり、と海斗が二人を掴んで固定した。
　腕ではない。
　首でもない。
　ナイフと刀の刃をそれぞれ握り込み、二人の間に立ち塞がっていた。
　引き抜こうとしても、弾こうとしても、まるでびくともしない。
「随分腕が立つようだべな。オラたちは桃太郎。鬼退治の途中だっちゃ。よかったら一緒に行くべ」
「海斗殿……」
　零の感情を殺した呟きに、海斗は首を振った。
「こんな強い人から突然殺されるような覚えはないっちゃ。理由を聞いてからでも、戦うのは遅くないべ」
「……」
　サキリはナイフから手を離し、両手を挙げた。
　同じく刀から手を離して腕組みする零。
　海斗は二つを地面に落としてから……。
「いたたたたたたた！　痛い痛い手のひらすっごい痛いべ！　うがー！」
　めちゃくちゃ悶絶した。

　その後、三人は軽くお茶しながらお互いの目的について話し合った。
　サキリは色々ぼかしたり嘘をついたりしたが、最終的に桃太郎になりかわることなく鬼ヶ島まで行けることがわかり、彼らに同行することになった。
　彼らである。三人ともこれで男性である。
　三人ともその事実を知った瞬間。
　『そうは見えん』と真顔になった。
　とにもかくにも。
　鬼ヶ島へＧＯ、である。