パーフェクトワールドⅢ ～迷い仔達は異界の城に踊る～｜リアクション

パーフェクトワールドⅢ ～迷い仔達は異界の城に踊る～

　全てに答えなくても構わないと、御巫時子は凪いだ声で言った。
　ただ、私の考えたことを聞いていただければいいんです、と。
「日記には、『強情な駒』を『閉じ込め』るとありました。閉じ込める……鳥籠のことを思い出します」
　ならば、捕えられたのは津止孝道先生のことなのではないかと、時子は筋道立てて話した。
「そして、初さんは、何らかの理由で心に傷を負っている……そこに手を差し伸べたのが、クローネさん」
「……その日記に、そう書いてあるのか」
　苦い声で、犬杜一閃が呟く。殆ど肯定に等しい反応を前に、
「ただの推理です。日記には、断片的な情報しか記されていないので……」
　と、時子は柔らかく微笑んでみせた。
　頭の中に情報を整理しながら、恵御納夏朝が再び口を開く。
　彼女もまた、答えにかなり近いところまで辿り着いているのだった。
「えっと……それで、初ちゃんの件があるから一閃さんはクローネに逆らえないんじゃないか、って」
　自分に親身になってくれている２人による穏やかな追究に、
「……敵わないな」
　とだけ一閃は独り言のように零す。これもまた、充分にすぎる反応。
　このやり取りは、いつの間にか部屋中の一行の注目の的になっており、
「そういうことなら、益々放ってはおけないな」
　ここまで共に戦いを乗り越えてきた刃引き刀の手入れをしながら、御剣刀が頷いた。
「ところで、その日記はどうする？　連れていくか捨て置くか。持ち歩くなら、誰がその役目を負うか」
　次いで刀が零した言葉に、先ず手を挙げたのは八神修だ。
「叶うなら、クローネに返したいと思っている」
「私は……もっと細かく調査ができればと」
「俺は、クローネに色々と確かめてぇな。反応窺うとかさ」
　次いで、しずしずとして時子が申し出て、楢木春彦も私見を述べる。
　口元に手を宛がって、呉井陽太が考え考え声を漏らした。
「調査は……内容にもよるけど、夏朝ちゃんのメモがあれば何とかなるかもねぃ」
「状況次第だけど、楢木と八神の案は両立できるんじゃないか？」
　刀がそう続けて、話し合いの末、件の日記は春彦が持ち歩くことに決まる。
　クローネに日記を渡すよりも、交渉材料にする方が先手に来るだろうからだ。
「慎重に扱わないとな……」
　託された日記を手に緊張した声を漏らす春彦の背を、鼓舞するように翼獣リブが軽く押した。
「他に、話し合うことがないなら、そろそろ行くか……」
　一閃の様子を気にしながら、修が言う。
　無理をさせないよう、必要ならば手を貸すことを考えていたのだが、
（しゃんと立っているな。良かった……）
　と、修は密かに、その表情を和らげた。
「っと、ちょっと待ってくれ！　大事な事忘れてた！」
　ぴょこん！　と伸び上がって挙手をする卯木衛。
　そうして衛は、傍らに寄り添う翼獣カイの目を、真っ直ぐに見つめた。
（俺自身に力ねえからずっと頼りっぱなしだもんな……）
　だからちゃんとお願いしないと、と、衛はどこまでも真摯に音を紡ぐ。
「カイくん、この先すっげー危ないと思うんだけど、また力貸してくんねえか」
　――寝子島の危機はもちろんだけど、皆を守る為に、何とかしたいんだ。
　手渡された誠実な言葉に、カイはくくると喉を鳴らした。
　大きな頭が、衛の身体へと優しく寄せられる。ＯＫの返事だ。

「カイくん……ありがとう」
　額を合わせれば、伝わる温度。溢れる勇気。
「俺も君のお願いだったらいくらでも応えるから、いつでも名前呼んでくれよ！」
　くぅ、とカイが鳴いた。衛のことを呼ぶ声だ。
　その声が含む優しく頼もしい色に、衛の顔に、混ざり気のない笑顔の花が咲く。
「それじゃあ、そろそろ進もっか。と、いうわけで……」
　陽太が、自作の粘土細工を指で弾いた。
　兎のウー君が衛の頭に、犬のパド君が春彦の肩に、ぴょん！　ととび乗る。
「っはは、なんかくすぐってえ！」
　衛が笑い、陽太がのんびりとした口調で、
「念のために、ってねぃ。これでオレは、その子達と視覚共有できるから」
　と説明をした。危険物の接近や不審な動きに自分が気付けば、知らせることができると。
「ありがとな、呉井。なんかありゃ髪でも引っ張ってくれ」
　よろしく頼むぜ、と春彦が相好を崩す。
　その様子を見守っていた時子が、口を開いた。
「あの……私は、地下に行ってみようと思います。やっぱり、何だか気になるので……」
　そうして、『夢想のベッドルーム』に集った面々はそれぞれの道を歩き出す。
「大丈夫なのですよ、ルーク。怖くない！」
　敢えてどこまでも明るい声を出して、椿美咲紀がルークの頭をなでなでした。

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