かちゃり、近くで鍵の外れた音が『傲慢の温室』に響く。
その音は、クローネの心を一瞬で、極限まで沸騰させた。
「っ、ああもう! 役立たず役立たず役立たず!」
楽園のように美しい温室の中、感情の赴くままに喚き散らす。
追い詰められている、とは思わない。
けれど、格下だと思っている相手が自分の世界を土足で汚していくのが堪らなかった。
今に彼らは、この温室にも踏み入ってくるだろう。
湧き上がる怒りが、憎しみが、彼女の心を焼いていく。
そんな彼女の想いに呼応するように――淡く光を放つ温室中の植物達が蠢き始めた。
「……これ以上は、許さないわよぉ」
植物の蔓が、クローネの足元に絡みつく。
「そうよ、私が殺してやればいいんだわ。簡単じゃないの、ねぇ?」
熱に浮かされたように呟く彼女の身体をあっという間に植物の波が飲み込み――やがて。
「ふ、フふふ、あっはハははは! 殺ス、殺ス、殺ス!!!」
そこから生まれ出でたのはもう、クローネでありながらクローネではない『何か』だった。
人型に転じた彼女の上半身は、巨大な樹の幹に埋め込まれている。
クローネだった存在は、自らの身に生じた異変にすら気付かぬ様子でけたたましく笑った。
植物と同化した化け物じみた見目。ただ爛々と光る、正気の欠片も覗かない双眸。
仄暗い密林の如き姿に変じた温室のなれの果てに、狂ったような哄笑が響き渡る――。
◇
翼獣達と共に野っ原に残っていた
屋敷野 梢は、再びの異変に子供の翼獣――ぷーちゃんを腕に抱き締めた。
「これは……?」
野っ原を覆い尽くさんばかりに肥大化した苺のお城。
元は苺ケーキを思わせる様相だった城は、今や醜い化け物のような姿を晒している。
その城が、また脈動し始めていた。
内側から膨張し、城のあちこちがギシギシと軋んだような音を立てる。
「こ、今度は何なんですかー!」
叫ぶ梢の目の前で、城壁がガラリと崩れた。
生じた大穴の中を、そっと覗き込む。
闇の向こうには、鬱蒼としたジャングルのような光景が広がっていた。と、その時。
「ちっ、思った以上に面倒なことになってるな」
常の通りぶっきらぼうな
テオの声が、梢の頭に響いた。
声はすれども、姿は見えない。
どうやら寝子島から、異世界へと声だけを届けているようだった。
「いいか。このままそっちの世界の暴走が続けば、寝子島にまで影響が及んじまう」
「って、益々大ピンチじゃないですかー!」
「いいからとにかくクローネを止めろ。もう、あいつにも能力の主にも制御が効かねえらしい」
お前らが止めるしかないと言ったっきり、交信が途切れる。
梢は、深く息を吐いて、目前の大穴を見据えた。
「言われなくても……何とかしてみせますとも!」
お世話になっております、巴めろと申します。
このページを開いてくださってありがとうございます!
こちらは、乙女チックな異世界の謎に迫るシリーズシナリオの第3話となっております。
今回からのご参加も勿論大歓迎でございますので、よろしくお願いいたします。
屋敷野 梢さん、ガイドへの登場誠にありがとうございました!
なお、もしこのシナリオにご参加いただける場合ですが、
ガイドは一例ですのでご自由にアクションをかけてくださいませ。
世界間の境界の緩みから、乙女チックな謎の異世界へと誘われてしまった寝子島の住人たち。
世界樹を倒し、津止先生を救出することに成功した一行でしたが、
苺のお城の肥大化に巻き込まれ、その多くは地下に広がる迷宮へと閉じ込められてしまいます。
しかし、地下迷宮の冒険、そして苺のお城内部の探索の末、彼らは『傲慢の温室』へと続く道を切り拓いたのでした。
第3話の概要
苺のお城の益々の暴走。このままでは異世界の暴走は加速し続け、現実世界にも影響が及んでしまいます。
『傲慢の温室』での戦いに勝利し、異世界の暴走を止めることが今回の目的となりますが、
勝利時には新たなミッション(後述)も生まれますのでご確認くださいませ。
また、ガイド本文のテオの呼び掛けはもれいび・ひとを問わずに聞くことができ、
津止先生、一閃、初たちNPCも、彼の呼び掛けを耳にしています。
今回も前回同様、世界間の境界が緩んでおりますので、
前回は参加していたけれど今回は不参加で! という方は寝子島へ戻れたことに、
前回は不参加だったけれど今回は参加する! という方は気づくと苺のお城近くにいた、
といったふうに解釈していただければと存じます。
第1話、第2話に引き続き、情報収集や推理も重要な意味を持ちます。
ですので、「戦闘は不得手だけどこの世界やクローネの秘密に興味アリ!」という方のご参加も大歓迎です。
必ずしも採用できるとは限りませんが、
推理の内容次第では、展開に大きく影響を生じさせることも可能となっております。
また、PC様たちは突然異世界に飛ばされてしまいましたので、
その状況で持っていて不自然な物の所持・使用は採用できない場合がございます。
なお、第2話よりご参加いただいているPC様の所持品は、基本的に第2話ラストからの引き継ぎとなります。
ポケットから飴玉が一粒出てきた! 程度の所持品追加は採用の可能性がございますが、
無理があると判断した場合は採用いたしかねますのでご注意くださいませ。
例外として、こちらも無理がないと判断できる範囲でとなりますが、
前回選んだルート内にて手に入れられる物に限り調達が可能です。
なお、今回から参加の方(第1話参加かつ第2話不参加、の方を含みます)は、
野っ原や宝石の森などでのアイテム調達が可能となっております。
また、PC様が知り得ないことを知っている前提でのアクションは採用いたしかねる場合がございますが、
アクション内でPC様が知っている情報に落とし込むなどの工夫をしていただけますと、
リアクションでの行動採用率がぐんと高くなるかと思います。
第2話までの皆様の行動によって一部のPC様に明らかになっている情報はこの色、
未だPC様が知り得ない情報はこの色で記載しております。
寄生クローネ戦について
第3話はPC様たちが『傲慢の温室』or異空間に足を踏み入れる直前からのスタートとなります。
前回の探索の結果として2つの入り口から好きな方を選べる方もいらっしゃいますので、
以下のⅠⅡのどちらかひとつを選んで、
必ず「キャラクターの行動」欄の冒頭に【Ⅰ】【Ⅱ】と記入してください。
【Ⅰ】『傲慢の温室』
『記憶のライブラリ』の『太陽の扉』、『邂逅のギャラリー』の『月の扉』、
『夢想のベッドルーム』の『星の扉』、『苺のお城』の城壁の『大穴』、のいずれかの入り口を潜った際に到達。
苺のお城の肥大化により、バルコニーが変化したことで生まれた温室です。
苺が生っている&淡い光を放っている植物たちに彩られた、楽園のように美しい一室でしたが、
苺のお城の暴走により、温室内は仄暗いジャングルのような姿に変化しています。
なお、温室に足を踏み入れると入り口は閉じられてしまう為に後戻りはできません。
温室内には、温室内の植物と同化し異様な姿を晒しているクローネが待ち受けています。
巨大な樹の幹にみっしりと埋め込まれた形でクローネ(人型)の上半身が視認できますが、
クローネとしての知能は殆ど失われており、意思の疎通を図ることは不可能に近くなっているようです。
正気ではないもののPC様方への怒りや憎しみが彼女の原動力となっており、
侵入者の姿を見るや、最早、見境なしに襲い掛かってきます。
以下、寄生クローネの攻撃手段です。
○ろっこん暴走
局地的に羽根を雨のように降らせて、刺さった対象のろっこんを暴走させます。
どんなふうにろっこんが暴走するかはその時までわかりません。
○枝攻撃
クローネと同化した樹の枝が鞭のようにしなって、一行に襲い掛かります。
一撃一撃を避けることはそこまで難しくはないのですが、
幾らともなく枝は生えており、それぞれが攻撃を仕掛けてくるため油断はできません。
○生気吸収
クローネと同化した樹の枝が、対象をぐるぐる巻きにしてエネルギーを奪います。
巻かれていた時間に比例して対象の体力は奪われ、その分だけ寄生クローネの体力は回復します。
○種子注入
薄桃色の睡蓮に似た花から、対象に向けて弾丸のように種子をとばします。
種子が身体に触れると瞬時にそこに根を張り、
対象の精神に働き掛けて、一時的に寄生クローネの手駒として行動します。
寄生されている間の行動は指定できません。
また、温室内の植物も、枝攻撃と生気吸収に似た攻撃を仕掛けてきます。
但し、対象をぐるぐる巻きにした際も生気を奪う効果は生じません。
☆同行NPC☆
津止 孝道先生:なるべく周囲の足手纏いにならないようにとの意思はあるようですが、
戦闘能力は皆無&運動神経もあまりいいとは言えません。
犬杜 一閃:巨大な化け物を前にして戦慄しきりですが、
津止先生と同じく、可能な範囲での危機回避に努めるつもりのようです。
【Ⅱ】こたつとテレビのある異空間
『邂逅のギャラリー』の『金縁の絵』、『番人の間』の『隠し扉』のいずれかから到達可能。
上記以外からの侵入はできませんのでお気を付けください。
なお、『金縁の絵』には、テオの声が聞こえた後、異空間の風景が映り、
闇を湛えた『隠し扉』の奥からは古いテレビ越しのような奇妙な音が聞こえます。
漆黒の闇の中に、何故かこたつ、旧型テレビ、襖がある謎空間です。
スウェット姿の人型クローネがこたつでごろごろとして眠っていますが、
こちらのクローネは起こしてやると会話等の働き掛けが可能です。
こちらのクローネは、クローネの正気の(異空間においては実体のある)思念体です。
こちらのクローネ(以下、思念体クローネ)への働き掛けによる彼女の気分の変動次第で、
寄生クローネが強化されたり、或いは弱体化されたり、色々な変化が起こります。
(例:思念体クローネがPC様方への怒りを強めれば寄生クローネが益々凶暴になる)
また、テレビでは『傲慢の温室』での戦いの様子を見ることができます。
襖を潜れば『傲慢の温室』に向かうことができますが後戻りはできません。
なお、異空間には襖以外の出入り口はありません。(侵入した経路を遡ることはできません)
ちなみに、こたつの上にはざるに苺が盛られています。こたつ布団も苺柄。
寄生クローネが倒された場合、この異空間は思念体クローネごと消滅し、
その段階まで異空間に残っていた方々は『傲慢の温室』へと自動的に転送されます。
思念体クローネ消滅時、彼女の記憶は本物のクローネに受け継がれます。
☆同行NPC☆
犬杜 初 :『金縁の絵』の中にクローネの姿を確認し、こちらへ。放っておくと行き当たりばったりに行動します。
もうひとつのミッションについて
寄生クローネ戦に勝利した場合のみ、異世界脱出を目指す新たなミッションが生じます。
敗北時は第3話リアクションはそこで終了となり、後日何らかの救済シナリオが登場いたします。
実際に敗北も起こり得ますので、この点ご承知おきくださいませ。
植物から解放され状況を悟ると、クローネは、
『自分の世界を守る為には、侵入者の排除は一旦諦め、彼らを元の世界へ返した方がいい』
という認識に至り、一時的な協力を約束します。
2つの鍵を探し出し、詳細後述の『世界を結ぶ扉』を開放して現実世界に帰還することがこのミッションの目的です。
以下のabcのどれかひとつを選んで、
必ず「キャラクターの行動」欄の冒頭に【a】【b】【c】と記入してください。
但し、寄生クローネ戦にて探索が困難なほどのダメージを負った場合は、
PC様もNPCも、強制的に【c】にて待機することになりますのでご注意くださいませ。
なお、苺のお城の暴走の結果として、温室と後述の2つの部屋以外への移動はできません。
【a】記憶のライブラリ、再び
『記憶のライブラリ』へ続く扉の向こう、壁一面に本に溢れた書架が並ぶ一室です。
先にこの部屋を訪れた方なら、床に落としたはずの本たちがなくなっている他、
書架の並びが変わり、本そのものの様子も変化していることに気付くかもしれません。
書架に並ぶ本にはこの世界に関わりのある情報が記されていますが、
完全な状態ではなく、内容が断片的なものが多いです。
各本の表紙・背表紙には本の内容を示唆するようなタイトルが記されている他、
この世のありとあらゆる色を集めたように全ての本の色が違っています。
☆同行NPC☆(大ダメージを負っていない場合)
津止 孝道先生:先に通過した部屋にとりあえず向かおうとの判断。
【b】邂逅のギャラリー、再び
『邂逅のギャラリー』へ続く扉の向こう、部屋中の壁を絵画に彩られた一室です。
先にこの部屋を訪れた方なら、床に落としたはずの絵たちがなくなって、
壁に掛かった絵が全て以前とは別の絵に変わっていることに気付くかもしれません。
中の様子が動いて見える銀の額縁の絵に触れると、絵の中に潜ることができます。
絵の中に居られる時間は数分だけで、とても体力を使うので1人につき1枚の絵に入るのが限界でしょう。
(滞在時間は延ばせませんが、1枚の絵に一度に複数人が潜ることは可能です)
(第2話で絵に潜った方も、1枚だけ絵を選んで潜れる状態に戻っています)
銀の額縁の絵は、『約束の場所』・『原初の荒野』・『牢獄の管理者』の3枚で、
1枚目には神殿の廃墟のような場所と、そこに佇む灰色の子猫の姿、
2枚目には鈍色の空の下に広がる荒野と、くすんだ色味の一本の若い樹、
3枚目には鉄格子の向こう側に立つ、鍵束を持った悪魔の姿が描かれています。
☆同行NPC☆(大ダメージを負っていない場合)
犬杜 一閃:初のことを案じつつも、クローネの傍にいない方が懸命だとこちらへ。
【c】『傲慢の温室』
探索に向かわず、『傲慢の温室』にそのまま残ることも可能です。
植物の残骸以外に目立った物はありませんが、クローネへの働き掛けが可能です。
☆同行NPC☆
クローネ:気紛れに相手をしてくれたりくれなかったりします。
犬杜 初:再会したクローネの傍を離れない心積もりのよう。
その他、津止先生や一閃も、ダメージが大きすぎた場合はここで待機になります。
『世界を結ぶ扉』について
『夢想のベッドルーム』と『傲慢の温室』を繋いでいたはずの扉を、温室側から見た姿。
鍵穴が2つあり、『1つ目の鍵は夜と朝の狭間を思い出し、2つ目の鍵は昼と夜の狭間に出会う』と刻まれています。
苺のお城の暴走により彼女の知った姿とは変わってしまったようですが、
クローネが寝子島に赴くのに使っている扉であることが本人(本鳥?)にはわかる様子。
この扉を潜れば、PC様方は寝子島へ、翼獣は彼らの世界へ帰ることができる、
という事実はこの際隠すつもりはないようですが、クローネは詳しいことは秘密にする気のよう。
なお、鍵を開けても、クローネの力なしには世界間の扉は開きません。
異世界からの脱出について
無事『世界を結ぶ扉』を開けることができた際には現実世界への帰還が可能ですが、
クローネは、津止先生、一閃、初の3人は手放す気がないようで、
3人を置いていくことが彼女がPC様方を元の世界に返すために最初に提示する条件です。
交渉する、出し抜くことを試みる、その他諸々の皆様の行動次第で結末が変わります。
異世界に存在するものたちについて
第2話より後、何らかの動きがあった事柄のみを主に記載しております。
詳細については、第2話のガイド(マスコメ)をご参照くださいませ。
○異世界
ストロベリーソーダ色の空の下、乙女チックな光景が広がる世界。
そこに存在するものは見た目はともかく危険な性質を持ったものが多いようです。
○苺のお城
苺ケーキを思わせるとてもメルヘンチックで立派なお城でした。
度重なる暴走の末に、今は不気味な姿を晒しています。
○地下迷宮
苺のお城が肥大化した際に、野っ原の地下に姿を見せた陰鬱な様相の迷宮。
現在は入り口が閉じてしまっており、野っ原からの侵入は不可能です。
○お菓子の森
まるでお菓子でできたような草木に彩られた森でしたが、火事で焼け崩れてしまいました。
黒い騎士たちが総出で消火に当たったため、既に火事は収まっています。
○黒い騎士
背中を彩る漆黒の翼が特徴的な、揃いの黒い騎士服を身に纏った美男子たち。
森火事の鎮火活動を無事に終えましたが、異様な姿に変化した苺のお城を前におろおろ。
登場NPCについて
○クローネ
寝子島で暗躍しているあのクローネ。
余談ですが、植物から解放された際にはとりあえずカラスの姿に戻ります。
○犬杜 一閃(いぬもり・いっせん)
鍛えられた体躯の背の高い男。年の頃は20代後半くらい。
従妹であり唯一の家族である初を非常に大切に思っている様子。
酷く衰弱していたものの、現在は幾らか持ち直しています。
○犬杜 初(いぬもり・うい)
クローネに心酔する高校生くらいの少女。気が強く傲慢、やや単純な性格。
物質の見た目を苺に変えて自在に操るもれいびですが、能力の発動条件や詳細は未だ不明です。
○津止 孝道先生
クローネに捕まっていたところをPC様方に救出され、以降行動を共にしています。
曰く、顎に手を宛がうことで世界間の出入り口が見えるとのこと。
○翼獣
獅子ほどの大きさの黒豹に似た獣。背中には鷲の翼が生えています。
第3話開始段階では、親睦を深めた一部のPC様方に絶対の信頼を置いています。
なお、翼獣たちが誰と行動を共にしているか・誰にどんな感情を抱いているか等は、
第3話開始段階では第2話ラストの状況の延長となります。
(例えば、引き続き初と一閃(特に初)には強い敵意を抱いています)
何らかの働き掛けにより翼獣が共に行動することを認めた場合、
彼らは力となってくれます(ある程度の要求も聞いてくれます)。
皆さまの力で異世界での冒険も遂にここまで辿り着きましたが、まだまだ油断はできません。
それでは、ご縁がありましたら何卒よろしくお願いいたします!