炎と再生のサンクチュアリ｜リアクション

炎と再生のサンクチュアリ

● バードサンクチュアリ／太陽の神殿・１

　浮かぶ岩石群を避けながら、上へ上へと飛ぶ者たちがいる。
　小山内海を抱いた御剣刀と、骨削瓢、それから瓢が道案内にと同行を頼んだ『比翼の鳥』だ。
　比翼の鳥とは雌雄で身体はひとつ、頭と翼はそれぞれひとつずつという、二頭二翼の伝説の鳥である。目の前の彼（彼女）は頭がふたつに胴体はひとつ、翼を広げれば人間より大きくて、首元は茶色で地味だが、尾羽根は派手な極彩色という姿だ。
　『天にあっては比翼の鳥となり、地にあっては連理の枝とならん』と中国の詩人、白居易が謳ったように、雌雄協力しなければ飛べない比翼の鳥は、仲のよい恋人や夫婦の象徴とされている。
　人語を解するラブラブカップル――それが、瓢が比翼の鳥を道案内役に選んだ理由であった。
　が、そんなことはおくびにも出さず、
「友を助けたいだろう？　屈強な剣士さんも付いてくる様だし心配しなさんな」
　と吹き込んでの今に至る。

「不死鳥の絶対死など中々見れない余興だが、何故クローネが邪魔するのかね……？」
　瓢は悪魔の翼を羽ばたかせながら、ぶつぶつ言った。
「単純な悪戯なら面白いし付き合うが、復活しようとしてる不死鳥がクローネに対抗しうる力の持ち主なら、不死鳥を利用して神殺しを画策するのもまた一興だねぇ」
　風に乗って瓢の不穏な独り言が聞こえた海は、不安そうに刀を見つめる。
「大丈夫なのかって？」
　腕は刀の首に巻き付けてあり、スケッチブックでの筆談ができないので、海はただただ頷く。
「フェニックスを助けるのに必要な『ホルスの左眼』ってのは浮遊岩群の一番高い所にある神殿にあるそうだが、そこにいる狼頭――アヌビスは確実にヤバいって話だ。俺と海だけじゃキツいだろう？」
　海はまた頷く。
「だからさ、敵を倒すまでは手伝え、って俺が骨削を誘ったんだ。こういうの、呉越同舟って言うのかな」
（ごえつどうしゅう……敵同士でも利害が一致すれば助け合ったりすることだね）
　海は瓢のことを敵だと思っているわけではなかったので、刀がそんな例えをしたのにすこし笑ってしまう。
　刀の気持ちもわからないでもないのだ。
　なにしろ瓢は派手を好み、混沌を好む道化者。
　正義だからなんだ、だろうし、フツウなんてもっと糞くらえ、だろう。
　しかし今は一時的とはいえ味方同士。
　それはちょっと心強い。
　刀の首に回した両腕に力を籠める。刀の横顔は凛々しい。
　迷いのない彼の眼差しを数秒見つめ、それから海は覚悟を決める。

（刀君と骨削君と一緒に、目的を果たそう！）

　いくつもの浮遊岩石を躱し、この世界のもっとも高いところに浮かぶ巨大岩石にたどり着く。
　この岩石の上部は平らに削り取られていて、石造りの四角い神殿が鎮座していた。神殿へ続く石畳の参道にはフェニックスの像が等間隔で並んでおり、神殿の上部には金で太陽のシンボルが描かれている。どうやらここは太陽をあがめる神殿であるらしい。
　その参道のまん中に、狼の頭にハヤブサの翼を持った半獣人が仁王立ちで立ちはだかっていた。
（大きい……）
　海はつばを飲み込む。身長は三メートルはあろうか。狼の頭は青に近い黒、瞳は赤く、尖った耳がつんと天を指している。肉体も鋼のように黒い。短い腰布を纏っているが、それ以外は腕輪やネックレスなどの装身具を身に着けているだけで、逞しい筋肉が露わになっている。
「何奴か」
　深みのある声が響いた。声だけでも威圧感がある。だが刀は負けずに答える。
「『ホルスの左眼』を取りに来た者だ！」
「ほう。そなたたちが……しかしここは聖域、簡単に立ち入らせるわけには行かぬ」
「そう言うと思ってたよ」

　アヌビスは身を低くし、翼を広げる。
　刀も海と瓢に目配せして構える。

「「いざ――勝負！！」」