その世界は、天界のずうっと上空、魔界のずうっと地下、狭間であって狭間でない場所にあった。
天界の天上の滝にあったような無数の浮遊岩が、空に似た空間に浮かんでいる。
その浮遊岩のまわりを飛びまわるのは、無数の鳥、そしてフェニックスたちだ。
この浮遊岩の世界は、鳥たちの楽園『バードサンクチュアリ』。
炎と再生の鳥、フェニックスたちの生息地でもある。
ふと気づくと、
御巫 時子はこの鳥たちの楽園『バードサンクチュアリ』にいた。
それから違和感に気づく。
時子は純白のドレスを身に纏い、背に白い羽根の生えた天使の姿になっていたのだ。
(知らないうちに、異世界に迷い込んでしまったようですね)
時子はあたりを見渡した。
他にも見知った顔があり、それぞれが天使や悪魔の姿になっている。
それだけではない。この世のありとあらゆる翼ある鳥たちが、この世界には集っている。
ツグミにハヤブサ、カモメに……あれは、絶滅したといわれるドードー鳥ではあるまいか。
驚きと喜びを隠せない時子の肩に、鶯色の小鳥がとまった。
「あら……あなた、尚輝先生の?」
怪現象が起こると
五十嵐 尚輝先生のぼさぼさの頭から顔を出し、異変を知らせる小鳥である。
ということは――
「おや、御巫さんではありませんか」
「尚輝先生! いったいどうしてここに……?」
「僕もよく分からないんですが、不思議な夢ですね。御巫さんも天使みたいだし、他のみんなも……」
五十嵐先生はこの状況を夢か何かだと思って受け入れているらしい。
鶯色小鳥が時子と五十嵐先生の間を飛びながら、ピーチクさかんに囀ったので時子はろっこん<鳥の囀り>を発動させてみた。
「『フェニックスの死と再生の儀式だ』……って言ってますね。なんのことでしょう……?」
「ああ、それはきっとあれでしょう」
五十嵐先生が指さしたのは、まるで聖火台のような高台の上にごうごうと燃え盛る炎。
その上を、十羽近いフェニックスが旋回している。
鳥たちも天使も悪魔も、翼ある者たちは皆、その様子を固唾を呑んで見守っている。
一羽のフェニックスが炎の手前にそびえる岩の上に降り立ち、集まった者たちへ語りかけた。
『今宵、我らが友にして、寿命の尽きようとしている不死鳥の、死と再生の儀式を行う!』
わあっと鳥たちが一斉に囀る。
すると、旋回していたフェニックスたちの中でもっとも羽根の色の褪せた一羽が、まっすぐ炎の中へ飛び込んだ。あれが今宵、寿命尽きようというフェニックスに違いない。赤とオレンジからなる鳥の肉体は炎と一体となって燃え盛り、すぐに形が分からなくなる。
『我らが友は死の旅路に出た。しかし、あの太陽が天の頂に上りしとき、彼は再び炎の中から復活せん!』
フェニックスの長がそういうと、皆は今は真横に位置している金色の浮遊岩を見た。『太陽』と呼ばれるその浮遊岩は、他の浮遊岩群の真下から天頂へと回る軌道でゆっくりと移動しているようだ。
そしてこの儀式では、死から再生を待つまでの間、鳥たちの祝宴が行われることになっているらしい。
天使も悪魔も、どういうわけかここにいる寝子島の民たちも、この祝宴に招かれたということのようだ。
『翼ある者たちよ、祈り、願い、踊り給え! 我らが友に祝福を――!』
祝福の囀りが啼き交わされるはずだった。
しかし、それは驚きと嘆きの叫びに変わった。
なぜならば、真っ赤だった炎が、突然、真っ黒に変化したからである!
『炎が穢れるとはなんということだ! 誰かが毒をくべたのか! これでは我が友は復活出来ない!』
◇ ◇ ◇
鳥や天使や悪魔に紛れて、フェニックスの長の嘆きの叫びを、くつくつと肩を揺らしながら聞く女がいた。
「毒をくべたのはあたしよ~ん、……なんて名乗り出ると思う?」
妖艶な女である。黒のドレスに、濡れ羽色の羽根マフラーを帯び、背には同じく濡れ羽色の羽根を生やした悪魔の姿。しかし彼女は、悪魔に化けたクローネである。
大天使 天吏が、女がクローネであることに気づいたのは、
いつぞやと同じ顔をしていたからであった。
「クローネ様……!?」
「あぁら。誰かと思ったら、『お友達』の……そうそう、天吏ちゃんだったわね」
二人が密かな邂逅を果たしていたそのとき、フェニックスの長が鳥たちに向かって言った。
『皆の者、手伝ってほしい! 友の復活を妨げる穢れた炎を浄化するのだ!』
長曰く――、
天界のクリスタルフォレストに咲く『アイスクラウン』の花弁に溜まった夜露を三滴、
魔界に流れる忘却の川の川底に生息するという『燃える夜光貝』を砕いた粉を駝鳥卵の殻一杯分、
バードサンクチュアリの上空に浮かぶ神殿にあるホルス像に嵌められた『ホルスの左眼球』。
この三つをそろえて、
『魂の壺』に入れ、太陽が天頂に昇る前に真っ黒になった炎にくべれば、炎は浄化され、死せしフェニックスは復活を遂げることができるはずだという。
「あぁらいやだ。そんなことさせないわ」
クローネは苦々しく言った。それからいつの間にか傍に控えていた手下のカラスたちに命じる。
「あの長の足元にある『魂の壺』、奪っちゃって!」
カラスたちは一斉に飛び立つと、あっという間にその命令を遂行した。
「さ、あたしたちはこれでおさらば。っと、見られたからにはあなたも来てもらおうかしら」
クローネは天吏の手を取り、喧噪に包まれた鳥の群れの中に身を隠そうと早足になる。天吏は熱に浮かされたようについていきながら、クローネに尋ねた。
「いったい何を……?」
するとクローネは天吏をちらりとも見ずに言った。
「あのフェニックスが復活するなんて許さない。これはあたしの、魂の尊厳の問題なのよ……!」
こんにちは。ゲームマスターを務めさせていただきます笈地 行(おいち あん)です。
こちらは、天使と悪魔のコンテスト参加者が対象のシナリオとなっております。
「運営部より」をよくご確認の上、ご参加くださいませ!
さて、鳥たちの楽園『バードサンクチュアリ』で行われるはずだったフェニックスの復活の儀式が、
クローネによって邪魔されてしまいました。
みなさんは、気が付けば死と再生の儀式に招かれ、天使か悪魔の恰好に変化しています。
フェニックスの長の願いを聞き炎の浄化を手伝うか、
それともクローネの味方をするか――それはみなさん次第です。
炎を浄化するための三つの素材と魂の壺
素材1:天界のクリスタルフォレストに咲く『アイスクラウン』の花弁に溜まった夜露を三滴
取りに行ける人:天使のみ
天界のクリスタルフォレストとは:
冬を司る女神さまが住む、全てが凍り付いた森。まるで透き通った水晶のように美しい。
少々寒いものの、いつもちらほらと雪が舞い落ちて、上空にはオーロラがかかり、その光景は幻想的。
女神さまが自分を模して作った大きな氷像がある。女神さまは氷像の近くで次の芸術作品を制作中。
アイスクラウンとは:
クリスタルフォレストの奥深くに咲くという希少な銀色の花。
小指の先ほどの大きさで、冠のような形をしている。
まず見つけるのが大変。また、花自体が碓氷のように脆いため、その夜露を取るのも大変。
素材2:魔界に流れる忘却の川の川底に生息するという『燃える夜光貝』を砕いた粉を駝鳥卵の殻一杯分
取りに行ける人:悪魔のみ
魔界に流れる忘却の川とは:
魔界を流れる川のひとつで、この川の水を飲むと忘却を体験することになる。
川幅は500メートルほど、水深は深いところで約10メートル。水はやや黒く濁っている。
川には美しいニンフたちがいて、「一緒に泳ぎましょう」とさかんに男たちを水中へ誘う。
この誘いに乗って川に入ると、人を飲み込むほどの大蛇が現れ、ぺろりと食われてしまうという。
燃える夜光貝とは:
川底でゆらゆらと炎のような光を発する大型の巻貝。燃える、というが、触れても熱くはない。
川が黒く濁っていること、川の水を飲むと何かを忘却してしまうこと、川を泳ぐ大蛇の三つが問題である。
素材3:バードサンクチュアリの上空に浮かぶ神殿にあるホルス像に嵌められた『ホルスの左眼球』
取りに行ける人:天使、悪魔いずれでも
バードサンクチュアリの上空に浮かぶ神殿とは:
現在いる、浮遊岩群で出来た世界の、最も天に近いところに浮かぶ浮遊岩に石造り神殿がある。
神殿の前には、
狼の頭にハヤブサの翼を持った身長3メートルはあろうかという半獣人『アヌビス』が控え、
神殿に入る資格があるかどうか戦いを挑んでくる。
アヌビスを倒さなければ、神殿の扉が開くことはない。
ホルスの左眼球とは:
神殿の奥、祭壇に祀られた隼の神ホルスの石像の目の部分に嵌められた黄金の石。
この世界の『太陽』の欠片だという。
容れ物:『魂の壺』
探しに行ける人:天使、悪魔いずれでも
魂の壺とは:
高さ50センチメートルほどの石の壺。蓋の部分が鳥の顔になっている。
クローネの手下たちが奪い去った。
クローネたちは:
バードサンクチュアリの世界のどこかにいる。
炎に身を投げたフェニックスが本当に復活しないことを確かめてから去るつもりらしい。
クローネと一部の部下は、悪魔に身をやつしている。
カラスのままの部下も多数引き連れている。
PCのみなさんでクローネのことを知っている人は、
ガイドでカラスが魂の壺を奪ったのを目撃したことで、クローネの存在に感づくことでしょう。
そのほかのNPCとバードサンクチュアリ
五十嵐 尚輝先生
いつものヨレヨレの白衣に天使の白い羽根、という姿。
夢だと思っているので、特になにもせず、フェニックスが身を投げた炎を見守っている。
ろっこんの小鳥は、先生の周りを飛び回っている。(この小鳥は人語を話せません)
フェニックスの長
フェニックスたちの中でも特に立派な尾羽を持つ。人語を解する。
穢れた炎を浄化すべく、炎の前で鳥たちの報告を聞いたり指示をしたりしている。
そのほかの鳥たち
この世界にはあらゆる種類の鳥がおり、フェニックスの長の願いを聞き手伝おうという有志もいます。
登場希望の鳥などいれば、アクションにお書きください。
(ただし、マスターはすべての鳥に詳しいわけではないので多少説明があると嬉しいです)
この世界では、一部の鳥は人語を話します。
あなたのペットもいるかもしれません。彼(彼女)はここでは人の言葉を話すかもしれません。
会話したい場合は、その旨お書きください。
バードサンクチュアリ
浮遊岩群はそれぞれ水や緑が豊か。
儀式が行われるはずだった場所は、この世界の中央にある大きな浮遊岩。
今宵は祝宴の準備がされていて、あたりは花で飾られ、果物や木の実などの食事の用意や
水浴びするための泉、一休みするための木陰や岩陰などがあり、のんびりと賑わう予定であった。
アクションの書き方
1.行動選択肢を下記から一つ選ぶ
【1】アイスクラウンを探す(天使のみ)
【2】燃える夜光貝を探す(悪魔のみ)
【3】ホルスの左眼球を探す
【4】魂の壺を探す
【5】クローネに味方し一緒に行動する(クローネの方からPCを見つけて接触を図ってくれます)
【6】バードサンクチュアリで上記のいずれでもなく過ごす
2.天使になっているか、悪魔になっているか
今回のシナリオでは、みなさんは、天使か悪魔どちらかの姿になっています。
(キャンペーン時に作成したイラストと違っていても大丈夫です)
以上2つをアクション冒頭に、次のように書いてください。
例)選択肢1を選び、天使の姿になっているとき:【1/天使】
例)選択肢5を選び、悪魔の姿になっているとき:【5/悪魔】
最後になりましたが、御巫 時子さん、大天使 天吏さん、ガイドへのご登場ありがとうございました。
それでは皆様のご参加をお待ちしております。