ヒーローズ！～魔女は偽りの慈悲を歌う～｜リアクション

ヒーローズ！～魔女は偽りの慈悲を歌う～

　鮮烈な赤、赤、赤。
　それを見たと思った時には、島岡雪乃の死体は礼拝堂から消え失せていた。
「き、消えた！？　なんで……」
　我に返った卯木衛が、戸惑いの声を上げる。
　信者だった民間人達がざわめく空間を油断なく見回して、
「あのナイフ使い……赤い目の男もいねぇな」
　と、如月庚が眉根を寄せて呟いた。
　その言葉の通りに、礼拝堂からはサキリ・デイジーカッターの姿も煙のように消えている。
「死体を持ち去ったってこと？　一体、何の為に……」
　女騎士から常の姿へと戻った北原みゆきが、口元に手を宛がって険しい思案顔を作った。
　そんな中、気を失っていた篠原翠響の元へ急ぎ駆け寄っていた椿美咲紀が、
「篠原さん！　良かったのですよ！」
　と、重苦しい空気を祓うような明るい声を出す。目を覚ました翠響は、
「あたし、は……？」
　ぼうっとして曇り、思考が纏まらない頭を持て余して、それだけ呟いた。
　酷く、甘い夢を見ていた気がする。
　その合間に、ずっと抱いていた苦い感情に心を焼かれたような記憶もぼんやりとあった。
「こういう結末に、辿り着いたのか……」
　風雲児轟がそう呟くこと叶ったのは、その傷口に白い羽根が舞い降りたから。
　癒しの羽根を轟へと降らせた御巫時子が、声を張った。
「危害を加えないと誓って頂ければ、所属を問わず治療します……！」
　怪我をした人はこちらへと訴えながら、時子は愛しい人――五十嵐尚輝のことを想う。
（全て終わったら、彼との時間を作りたいです……）
　実験の助手の仕事が、最近あまりできていない。
　彼との日常を思い浮かべる中に彼と関わりを持つサキリのことを思い出して、時子は胸を騒がせた。
（宗教組織と言うのは中々面倒なんですよね……トップを殺してしまったら、神に昇格されます）
　故に雪乃は生け捕りにしなければならなかったと、苦く思うのは屋敷野梢だ。
（政府がある限り、政府が裁く。それが国というものです）
　揺らがぬ心を胸に、梢は目を覚ました南波太陽へと、にこりとして手を差し伸べた。
「先生……」
　止まないざわめきの中に、掠れる声が混じる。
　意識を取り戻した御剣刀が漏らした呟きは、喧騒の中に紛れて消えた。
　それから暫くの後に訪れる教会の崩壊が、戦いの終わりを告げるサインとなる――。

　礼拝堂の騒ぎから、間もなくして。
　美咲紀からスマートフォンに届いたメッセージに、八神修は複雑な表情を作った。
「成る程、そういうエンディングになったか……」
　天井を仰いで、資料に知る、雪乃という人物のことを、彼女の潰えた野望を想う。
（島岡さん、独裁は不味かったな）
　届かない言葉を、胸の内に紡ぐ修。
（貴方は……本当は、何がしたかったんですか？）
　返る言葉はどこにもなく、修はただ、仲間達の帰還を待つのだった。

　秘密の話があると梢に囁かれて、太陽は崩れた教会の陰へと足を運んだ。
「梢ちゃん、話って一体……」
「……『魔女』を捕えることはできませんでしたが」
　太陽の言葉を遮って、梢はラムネ菓子を口に放る。
　異様な空気に目を瞠る太陽の前で、梢はごく薄く微笑した。

「『裏切り者』には、暫く廃人になってもらいましょうか」
　何を、と太陽が紡ぎ掛けた言葉は、音になって零れること叶わない。
　梢の傍らに現れた人型の異形が、すいと手を動かしたのだ。
　途端、数多の蝶が太陽の頭から生まれ出でて――彼方へと、消えていった。
　呆けたようにそれを見送って、その場に膝をつく太陽。
「……私の知る限りの『南波太陽』を蝶に変化させました」
　梢の呟きは目の前の男の耳には届かず、ただ空気を静かに震わせた。

　数日後。みゆきは、大天使天吏との接触に成功した。
「ちょっと、いいかしら？」
　声を掛けられて、天吏はくるりと目を丸くし――それから、柔らかく微笑を零す。
「何か御用？」
「あなた、ただ荒らし回るためだけにあんなことをしたの！？」
　涼しげな態度に、荒くなるみゆきの声。天吏が、困ったように肩を竦めた。
「ごめんなさい。何のことだかわからないわ」
「誤魔化さないで！　自分が何をやっているのかわかってるの？」
　問い質されて、けれど天吏は笑みを崩さない。
「勿論、わかっているわ。真実を伝えているのよ。何か、問題が？」
　隙のない返答に、みゆきは口の中を血が出るほどに噛み締めた。
　世間に真実を伝え、『モレイビー狩り』を止めさせたい。
　その意志の元、天吏から言質を取れればと思っていたのだが――、
（簡単に尻尾は出さないってわけね。だけど、今に見てなさい）
　仕込んでいた小型カメラとマイクは決定的なものを抑えなかったが、それでも。
「……裁くのは私ではない。貴方が弄んだ大勢の人間よ」
　みゆきの呟きが宙に溶ける中、天吏はハイヒールを鳴らして街へと消えた。

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あとがき

担当マスター：巴めろ
ファンレターはマスターページから！

お世話になっております、ゲームマスターの巴めろです。
まずは、ご参加くださった皆様、本当にありがとうございました！

今回で２度目となる、寝子島とは異なるパラレルな世界での一幕。

前回と同じく、こちら、自由度の高いシナリオでしたので、
お預かりした、パラレルな世界でのＰＣ様方の生き様が詰まったアクション達を、
一つのリアクションの形にするのに頭をぐるぐると働かせまくったのですが、
ＰＣ様方のこの世界での在り方を最大限汲めるよう力を尽くしましたので、
リアクション、お楽しみいただけましたら心より嬉しく存じます。

なお、この世界での出来事は、前回同様、全くＰＣ様の預かり知らないものでもＯＫですし、
ひとつの『夢』としてＰＣ様の心の片隅に残していただいてもと思います。

重ねてになりますが、ご参加くださった皆様に心からの感謝を。
この度も本当にありがとうございました！

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