カオスワールド・プレイ｜リアクション

カオスワールド・プレイ

　摩天楼の天辺で、悪魔は笑う。
　身の半ばほども沈みそうなソファから腰を上げ、大きく伸びをひとつすれば、影のように黒い翼が現れた。
「挑戦者が居れば、受けて立ちます。人間でも天使でも悪魔でも、」
　二人の天使が堕天する、その瞬間を映し出していた大型スクリーンが音もなく天井に吸い込まれて消える。
「もちろん、『機関』でも」
　スクリーンの後ろには、大理石のテーブルを挟んで置かれた椅子がふたつ。テーブルの上には、チェス盤のようなゲーム盤。
　向かいの椅子に座して、ひとりの老女。
「紅茶を？」
「いいえ」
　礼二のもてなしの一杯をすげなく断り、老女は鋭い眼差しを盤上に向ける。
　着物で正装した老女の傍らには、『機関』構成員を示す包丁のかたちしたアーティファクト。
「俺と遊ぶということは、魂を賭けるということですよ？」
「それこそを、私は望んでいるの」
　お互いの魂を賭けるゲームに臨んで、礼二はうっそりと微笑む。
　老女は、理解しているのだろうか。
　彼が悪魔であるということを。
　嘘やイカサマ、罠すら当たり前とすることを。
　どんな手段も躊躇なくとるということを。
(……悪しからず)
「さぁ、ゲームを始めましょう？」
　悪魔は黒い翼を広げて嫣然と微笑む。
　見下ろすは、老女と、老女の向こうに広がるこのつまらない世界の全て。