壁一面を占める硝子窓の向こう、夜が広がっている。
星ヶ丘マリーナに係留されたヨットの帆よりも高く、瞬く星々の高さに、夜よりも昏く渦巻く闇が見えた。
「天使も悪魔も、」
夜景を映す高層階の冷たい窓に、
加瀬 礼二は窓より冷たい指先を這わせる。光を吸う氷雪の青色した右の瞳がうっそりと細く、笑みのかたちに歪んだ。
「あそこから堕ちて来た、らしいですよ」
左の瞳を覆い隠す金の髪を揺らし、振り返る。
「貴方にあれが見えるかどうかは分かりませんが」
どうしようもなく甘く、どうしようもなく冷酷な微笑みで見下ろすのは、緋色の絨毯に跪く壮年の男。礼二の視線を感じてか、くたびれた背広の肩が小さく震えた。
「そんなに怯えなくともいいですよ」
礼二は息を呑む男の首に手を伸ばす。皺の寄ったネクタイを掴んで引き、強引に顔を上げさせ、視線を合わさせる。
「俺はね、ただ遊びたいだけです」
夜景の光を浴びるその背に、悪魔の翼が音もなく広がる。
「ゲームをしましょう」
「……悪魔か」
細身の少年の背に現れた黒翼を陰険な金壺眼に捉え、男が呻く。
「ダイス? カード?」
少年が口にすれば、男の足元に色とりどりのダイスが嘘のように数十個と転がり現れる。クリスタルシャンデリアが吊られた天井の虚空から血色の花びらと共にカードが舞い散る。
「それともスロット? ルーレット?」
髑髏を意匠した筐体が男の退路を塞いで立ち上がる。壁の一面が左右に割れ、バニーガールの待ち受ける賭博場が唐突に広がる。
「悪魔とのゲームが恐ろしいと言うのなら、ハンデを差し上げましょうか」
悪戯に艶やかに笑み、悪魔は己の手首を己で縛り上げて見せさえする。けれど男の双眸に僅かな安堵を、悪魔の優しさに対する期待を見た次の瞬間、魔法のように手首の縛めを解いた。手で作った銃で己のこめかみを撃ち抜く仕草をする。
「甘えは怯懦ですよ。きちんと絶望に抗って、力の限り足掻いてくださいね」
男を心底から怯えさせて後、甘く強請る。
「ねぇ、俺と遊びましょう?」
――貴方が賭けるものを全て失い、完膚なきまでに破滅するまで。
そうして、
「俺を満足させてみせてくださいよ」
こんにちは。阿瀬 春と申します。
天使と悪魔のイラストコンテストのプレゼントシナリオをお届けにあがりました。
加瀬 礼二さん、ガイドへのご登場、ありがとうございました!
ガイドはサンプルのようなものですので、アクションはご自由におかけください。
今回は、天使と悪魔が存在するIFな世界の寝子島の物語です。
天使と悪魔の寝子島
一見フツウの寝子島です。学校も会社もあります。電車もフツウに動いています。
ただ、その裏側にはいつからか天使と悪魔が存在していました。
彼らは時にひとの前に姿を現し、奇跡を起こしたり災厄を成したりしているようです。
寝子島に住む人々
■天使
ひとの眼には見えない『穴』が寝子島の空には昔からありました。その『穴』からは天使や悪魔が時折『堕ちて』来ます。
天上では悪魔とは対立状態にありましたが、地上では各個の考えで行動しているようです。
天使っぽい力が使えます。
■悪魔
空に開いた『穴』から堕ちて来るという『悪魔』。
天上では天使と幾度にも及ぶ戦争も過去にはあったようですが、地上では割と好き勝手に行動しているようです。
悪魔っぽい力が使えます。
■ひと
天使や悪魔の存在を知る人々、彼らと共存しようとする人々、存在さえ知らずに日常生活を送る人々、色々です。
天使や悪魔を『異界者』として厭い、駆逐しようとしている『機関』と呼ばれる組織が存在しています。
『機関』
地上に堕ちて来た天使と悪魔を退治し、寝子島を『ひと』のみの住む地にしようとしている組織です。
天使や悪魔にさえ通用する武器『アーティファクト』を携帯し、時に個別に、時に組織立って天使や悪魔を捕縛したり滅ぼしたりしています。
※今回、天使や悪魔でない『もれいび』のPCさんはろっこんは使えないものとさせてください。
ただ、『機関』に所属している場合、アーティファクトの力を得たとして(その場合、アーティファクトの形を指定してください)、ろっこんと同じ力を使うこともできます。敢えて別の力を使うことも可能です。
■『機関』構成員
黒河 花枝
『機関』幹部の一人。
普段は旧市街の場末の居酒屋の女将をやっています。
裏の顔は『機関』の一員。おっとりのんびりした笑顔で気配もなく近づき、アーティファクト『包丁』で一突きするのが基本戦闘スタイル。
黒河 太一
花枝の部下。鍛え上げた肉体を使い、アーティファクト『ナックル』で真正面からの殴り合いを得意とします。
彼女なし三十五歳。熊じみたごつい見かけに反して気弱で女性にはとても弱いです。
コードネーム『日暮』
最近『機関』に所属した二十代後半の男。アーティファクト『狐面』に宿る力を使い、『アヤカシ』と呼ばれる付喪神じみた化け物を召喚します。あんまりやる気はなさそうです。
コードネーム『夕』
日暮と共に『機関』に所属した十代前半の少女。着物の懐に忍ばせたアーティファクト『匕首』を自在に使います。
寝子島のあちこちを物珍し気にうろつきつつ、天使や悪魔を見つけ次第、喜々として襲い掛かってきます。
※構成員との関係性はご自由にご設定ください。幾度も拳交える犬猿の仲、居酒屋の常連、仲間の敵、などなど。
アクションでできること
・人々を天使の力で助ける
・悪魔の力で人を困らせて喜びを得る
・悪魔として『機関』の太一と夕日の川辺で殴り合い(後、お互いに見逃し合う)
・衝撃的な事件の後、元々天使だったのが悪魔堕ちして事件の犯人に復讐する
・悪魔や天使と恋に落ちる
・悪魔と天使が一時的に手を組んで『機関』を退ける
・『機関』構成員として働く
・ひとでありながら『機関』に追われた天使を匿う
……等々、天使と悪魔の居るフツウの寝子島、な世界観でできそうなことでしたら何でも大丈夫です。
ご参加、お待ちしております。