this frame prevents back forward cache
0
0
はじめての方へ
ヘルプ
ログイン
\ オーバータイム!/
種族
学年:職業
00月00日生 00歳
AAA000000
ホームトップ
おしらせ
新着通知
はじめての方へ
遊び方
世界設定
キャラクター一覧
キャラクター検索
キャラクター作成
らっポ
チケット
コミュニティトップ(検索)
コミュニティ一覧
公式コミュニティ一覧
公開トピック一覧
コミュニティ書き込み検索
シナリオトップ
シナリオ一覧(参加受付中)
シナリオ一覧(すべて)
リアクション一覧
ゲームマスター一覧
ゲームマスター検索
イラストトップ
イラスト一覧
イラスト検索
イラストレーター一覧
イラストレーター検索
自作イラスト一覧
アイテム一覧(検索)
マイリスト一覧(検索)
寝子島(全景)
寝子島(地図)
寝子島(セカンドマップ)
寝子島高校
眠れない夜に <冬>
<< もどる
1
…
5
6
7
8
9
…
13
つぎへ >>
潮騒に満ちる波打ち際に足を止める。コンビニで買った肉まんとお茶を口にしながら、
篠崎 響也
は冬の暗い海へと視線を投げた。波間に伸びる月影を追い、眩しいほどに月と星の輝く夜空を見仰ぐ。
(殆ど人がいないな)
ぼんやりと思ってから、当たり前かと痩せた肩を小さく竦めた。
砂浜に打ち上げられた流木の上、アパートを出てからずっと手にしていたヴァイオリンケースを置く。ついさっきまで、頭の芯が冴えて尖りきるまで弾き続けていた。そろそろ手を休めようと思うまでは、でなければ倒れるまで練習を続けた挙句、同居人に呆れ混じりの叱責を受けるからと、そう思って手を止めたまでは良かった。
けれど眠ろうとしても冴えた頭ではどうにも眠れず、結局、同居人を起こさぬようそっとアパートを抜け出すに至ってしまった。
ヴァイオリンケースの傍らに腰を下ろす。決して手から離れぬ呪いでも受けているかのように、気が付けばいつも無意識のうちに提げて来てしまっている。
ヴァイオリンケースから視線を外す。視界いっぱい、波音と風音が月光と混ざり合い、自由気ままに舞い踏っている。
(冬の海も好きだな)
人で溢れて賑やかな夏の海も悪くはないけれど、波間に月光を跳ねさせながらもその深奥に光を吸い込む昏く暗い海は、眺めれば眺めるほど心が静かに、妙に思えるほど穏やかに凪いだ。
海を眺めるうち、風に鳴る潮騒の音が重なる音を待ち受ける伴奏の音に聞こえて、響也は瞬く。瞬いて、迷う間もなくヴァイオリンを取り出し立ち上がった。
弓を手に、ヴァイオリンに頬を寄せる。清冽な夜風を胸に満たす。
星空と夜の海の奏でる音に合わせて弾くは、チャイコフスキーの『瞑想曲』。
(こういう日にはぴったりかもな)
ゆっくりと静かに、
(この海のように、深く)
空に海に、流れる音に耳を澄ませる。耳元に響く音に耳を澄ませる。数え切れぬほど楽譜になぞった旋律を、弦の上で正確に辿る。
音の海に潜る。伸ばした指先に流れを捕らえ、深く深く、潜って行く。
その底の底に何があるかは、今は知らない。今はただ、己のヴァイオリンの音色に深く沈むばかり。
潜れば潜るほどに、音が身体を圧する。息を奪う。
息が切れるより先、曲がピリオドを刻んだ。音の海底に指先が触れるよりも先、音に沈み切りそうだった心が静かに浮上する。
余韻を耳に残して、息を吐き出す。忘れていたとは思えないものの、僅かに呼気が乱れていることに、若干怖さを覚えた。
時々、音の海に沈み込んで戻ることを忘れそうになる。楽曲の中に自分自身を置き去りにしてしまいそうな自分が居る。
(けれど)
弓をきつく握る。どれだけ恐怖を覚えようとも、
(音楽は手放せない)
気付けばローレライに海底へ引きずり込まれていた者のように、己はもう音楽からは離れられない。
離れられない境地にまで至ってしまっている。
そのことを改めて自覚し、響也は一度固く瞼を閉ざす。
誘うように波音が響いて、響也はもう一度弓を持ち上げた。続けて弾き始めるのは、友人が作ってくれた曲、『深海』。
まるで挑戦状を叩きつけるように渡された友人からのその曲は、技巧を凝らしながらも、正確に譜面をなぞるだけでは決して己の音には出来ぬような難解なものだった。
例えば冷たい深海を這う熱いマグマのような、流麗な音に隠れてけれど確かに滾る情熱の旋律。作曲した友人と少し似ていると思えば、知らず唇に笑みが滲んだ。
人と人との繋がりがあって生まれた曲を、若きヴァイオリニストは弾き奏でる。
自分が人との繋がりも大切にしていけるよう、自分には音楽以外にも友人が、恋人がいることを忘れぬよう――
音楽が、聞こえる。
浜辺のベンチに腰掛け、ココアの缶で手袋の指先を温めながら、若菜は風に乗って海岸を静かに広がり満たすヴァイオリンの音に耳を澄ませる。
波の音に溶けるように、けれど決して消えはせず、ヴァイオリンの音は誰かとの確かな絆を謳いあげるように夜空へと昇ってゆく。
さっきまでの、どこまでも深く己の内に沈んでゆくような曲とはまた違った曲調に耳を傾けつつ、若菜は遠く広がる海を眺めた。
遠く遠く、空行く星々を水底に呑み込むような水平線が見える。
星に願うように翡翠の瞳に黒い睫毛を伏せて、
(……おかあさん)
胸の内、幼い頃のように母を呼べば、目を伏せたきり上げられなくなってしまった。
(疲れているのかな)
瞼に浮かぶのは、母の姿。
幼い頃にはもう、母は旧市街の産婦人科医院の院長先生だった。
昼となく夜となく呼び出されながらも笑顔を絶やさず、溌剌とした足取りで病院に走って行く母の後ろ姿を、苦し気に病院の前に座り込んでいた妊婦さんが母に声を掛けられ腰を擦られた瞬間に浮かべた安堵の表情を、今もしっかりと覚えている。
――あなたのお母さんが助けてくれたのよ
退院して行く女性が大事に抱えた小さな赤ん坊に触らせてくれたことも、嬉しそうに言った言葉も、指先に触れた赤ん坊の頬の柔らかさもその頼りなさも、今もはっきりと思い出せる。
命を救い、命がこの世に生まれ出でる手助けをする母の姿に幼心に憧れた。あの頃母に抱いた尊敬の念は未だに薄れていない。偉大な母の背を追うように医の道を志し、その道を辿らんと懸命に勉学に励んだ。
木天蓼大学医学部を卒業し、医師免許を取得したのが去年のこと。今は小児科志望の兄と共、寝子島総合病院に研修医として勤務している。
(念願叶って漸くこの職に就けたのに……)
研修で目まぐるしく慣れないことばかりの日々に、心と体が追いつけずにいる。まだ一年も経っていないのに、膝を折って挫けてしまいそうな自分が居る。
与えられた仕事すら思うようにこなせない。
周りの看護師や医師や、時に患者にすら迷惑を掛けてばかりで、
(おかあさん)
コートのポケットに手を突っ込む。ポケットの中に隠して持っているのは、母手製のお守り。大学入学時に母から貰ったお守りを、片手に握るだけでは足りずにポケットから引き出す。母の手に縋るこどものように、両手で握りしめる。
(おかあさん、)
研修医となってこの方、病院でも、家でも、誰にも涙を見せてはいなかった。心を張り詰めさせて、頭に知識を、心に経験を押し込め続けてきていた。
(私、……)
ずっとずっと堪え続けていた涙は、一粒零れると堰を切ったように溢れて止まらなくなった。
自分が情けなかった。もどかしかった。
挫けた心を立て直せぬまま、いっそのこと、と思う。
それは言ってはならぬ言葉なのだと思う。口に出したり思ったりしてしまえば、制御できぬほどに膨れ上がってしまう言葉なのだと。
けれど、それでも、
(私、もう、)
頬を伝った涙が掌に落ちる。冷たい雫に掌を打たれた瞬間、
――ありがとうねえ、先生
その言葉を遮るように、患者の笑顔が瞼の裏に浮かんだ。父と母の、どこか心配げな、それと同時に励ますような顔が浮かんだ。
「……駄目」
心を決定的に弱らせる言葉を拒絶して、若菜は低く囁く。唇を噛み、お守りを握りしめた手袋の拳で涙を拭う。
(泣いてなんていれない)
もっと、と思う。
(もっと頑張らないと)
心に決めたこの道は、どんなに険しくとも進もう。此処に至るまで支えてくれた人達がいる。これから先も支えてくれるたくさんの人が居てくれる。
(前へ、)
涙を拭った瞳で満天の星空を仰ぐ。
(前へ、進まなきゃ)
しょっぱい味のする唇で、そっと笑ってみる。まだ笑える、と言い聞かせる。まだ、頑張れる。
母手製のお守りを、今度は包み込むように両手に握りしめる。
(私もいつか、)
煌く星を見つめ、祈るように思う。
(母の様な、光を与えられる人になれるかな……)
星空に音が煌き、溶けて消える。視線を投げれば、一通り奏で終えたらしい少年が弓を下ろそうとしているところだった。
息を吐くよりも先にふわっと欠伸を零し、少年は誰に見せるでもない小さな笑みを零す。急激に眠気にでも襲い掛かられたのか、うっかりふらりとしながらも、ヴァイオリンはきちんとケースに納めて忘れず手に提げ、海に背を向ける。
家路を辿るらしい少年をそっと見送ってから、若菜もベンチから腰を上げた。脇に置いた缶を手に取れば、僅かに残ったココアはすっかり冷え切ってしまっている。
冷たいココアをぐっと飲み干し、星粒を零したような白浜の砂を両足に踏みしめる。まだまだ頼りないこの足で、立ち続けよう。歩いて行こう。
(明日からも頑張ろう)
<< もどる
1
…
5
6
7
8
9
…
13
つぎへ >>
このページにイラストを設定する
シナリオ
シナリオトップ
シナリオ一覧(参加受付中)
シナリオ一覧(すべて)
リアクション一覧
ゲームマスター一覧
ゲームマスター検索
シナリオご利用ガイド
グループ参加ご利用ガイド
シナリオタイプのご案内
眠れない夜に <冬>
シナリオガイド
リアクション
参加キャラクター一覧
コメントページ
ダイアリー一覧
シナリオデータ
担当ゲームマスター
阿瀬春
シナリオタイプ(らっポ)
シルバーシナリオ(150)
グループ参加
3人まで
シナリオジャンル
日常
定員
15人
参加キャラクター数
15人
シナリオスケジュール
シナリオガイド公開日
2016年06月02日
参加申し込みの期限
2016年06月09日 11時00分
アクション投稿の期限
2016年06月09日 11時00分
参加キャラクター一覧
もっと!