オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜｜リアクション

オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜

　１年の時高クレオは、廊下を理科室に向かって移動していた。彼女の所属する２組は、理科の実験の授業を行う。
　今日のオープンスクールの話を事前した時、クレオは両親から微妙な回答を貰っていた。
　——その日は忙しいから……。
　彼らはもしかしたら今日来られないかもしれない。
（ちょっと寂しいけれど、でも関係ないわ）
　クレオはつんと澄ましてみせる。
（もう子どもじゃないから！）
　彼女は素直な性格をしているが、反面『クールな大人』を装いたいお年頃だった。
　
　特にホームたる中学校にお客様がくるとあれば、その性格が全面に出るのはやむを得まい。
（今日は大人らしく、きちんとしているところをお見せしないとね！）
　教科書とノートを胸に綺麗にまとめて抱え、しゃなりしゃなりと気取って足を出す。
　しかしいつもと違う雰囲気にドキドキして、それが堪えられなくて。こっそり周囲に視線を配ると、保護者も多かったがクレオより少し年上の姿も見えた。
（寝子高生だわ）
　何年生かは後ろ姿だと分からないが、中学１年生のクレオからすれば、あちらは『お姉さん』だ。
　二人の女子高生はどちらも背筋がすっと美しく伸びていて、人形のように綺麗に整ったロングヘアと、カールしたボブヘアが歩くたびに揺れている。
　隣には爽やかを全身で体現したようなイケメンもいる。
　イケメンと美人に弱いクレオの目が、憧れの星屑でいっぱいになった。
（みなさん大人っぽくて素敵だわ……！　私は大人っぽく振る舞えているかしら？）
　彼らを見習ってクレオが背筋を正した時だ。

（……あそこにいるのはお父さん？）
　はっと唇が開いた瞬間に、クレオは三つ編みを揺らして廊下を走り出していた。前にいた高校生のスカートが軽く風を孕む勢いだ。
「お父さん——！」
　クレオの声に、中年男性が振り返った。彼はのんびりした笑顔で娘の突然の登場を喜ばしく迎える。
　父親は周囲の人にも親子関係が分かる、クレオとよく似た顔をしていた。
「クレオお父さんは来ないと思ってたわ！」
　上気させた顔に期待を浮かべ、クレオは左右に忙しく首を回した。
「……もしかしてお母さんも？」
「それが——」
　父親から、彼らが受付をした折にはぐれてしまったと話しを聞きながら、クレオは我に返った。
　隣を通り過ぎていくあの３人の高校生が、こちらを微笑ましげに見ていたのだ。

「愛らしいですわね」と聞こえた気がする。

（あらやだ、いけない。廊下を走るなんて子どもっぽいことしちゃった）
　さらにクレオ自身気づいていないが、思わず一人称も自分の名前になってしまっていた。
　両手で頬を押さえたものの、それを不思議そうに見た父親にクレオは笑顔は隠せない。
（お父さんがきてくれて嬉しかったんだものしかたないわ！）

　さて。クレオの母親は父親とはぐれた後、先に理科室へ向かっていたようだ。
　クレオが父親と一緒に理科室へたどり着くと、プラチナブロンドの美女とクレオの似ていなさぶりに、同級生が軽くざわめいたとか……。