オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜｜リアクション

オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜

　中学を訪れていた志波武道は、一年生の教室が並ぶ廊下を歩いていた。
　彼は今所属している寝子島高校に二年生から編入しており、旧市街近くにある小・中学校の事は外から見える校舎くらいしか知らない。興味が湧いてフラッと足を運んだ次第である。
（所変われば中学校の雰囲気もガラットカワル！　寝子中ってこんなかー）
　少子化の昨今だ。
　新築の中学などは将来的に別の施設に出来るようにバリアフリー化が進められた恩恵で広々した現代風の建物も多いが、寝子島中学校は綺麗に保たれているものの、ところどころで５０年の歴史が感じられる。
　そんな部分も楽しみながら、武道は教室をちらりと覗いていた。
（知ってる子や、俺の友達の弟妹とかイナイカナー）
　思った矢先、廊下の扉に一番近い席の生徒がこちらに気がついた。ちょうどチャイムが鳴り、授業の終了が告げられる。
　彼——幌平馬桐は挨拶の後にすぐに席を立ち、武道へ頭を下げた。

「こんにちは志波さん、ご弟妹さんがいらっしゃるんですか？」
「えーっと、中学校内部がどんな感じなのか見たくって。マキリ君は——」
　武道が教室の後ろに詰まっている保護者たちを一瞥すると、マキリは「まだきてないです」と答える。
「俺スピコン出るんで、父と母はそれに合わせて遅めに来る予定です。それはいいけど、先輩たちに見られるのはやだなぁ」
「バッドステータスの？」
「めんどいのはみっちゃん先輩ですよ。タカ先輩は何言ってもスゲーな！　って言うでしょうし、日本橋先輩は良いか悪いか上手いか下手か」
「そのドレカかー」
「何事も公平で適度で、結局は何考えてるんだか良く分かんない人です。ってかあの人来ないですよ。今日は午後ないからイリヤ先輩と一緒かも」
「クラスメイトなんだっけ」
「１組ですね、英語劇とかやるらしいですけど、ぶっちゃけイリヤ先輩も日本橋先輩も見てて面白くないと思います」
「お？　彼も英語上手系？」
「上手というかあの人みっちゃん先輩によると、ついこの間まで日本語話せなかったらしいです。それに感覚的にも外国っていうか芸術家に囲まれすぎてヘンって言うか……この間もイリヤ先輩がタカ先輩脅すの見て笑ってましたし——」
　マキリは視線を横にやって沈黙し、他に何かを思い出しているが、そこは呑みこんでしまった。
　武道は「そういえば」と呟くように会話をつないだ。
「４月にはその３年生たちが寝子高に進学するんだよな」
「ですね。寂しくなります。居てもいなくても同じようでもいないと寂しいから。
　高校って大変なんですよね。勉強とか。……日本橋先輩、高校入ったら仕事も増えそうだし、俺たちと遊んでくれなくなりますかね」
　マキリは視線を落とした。
　高校生ともなれば、一般的な学生は大学進学を目指して勉学に邁進し始める。
　すでに大人の世界に片足を突っ込んでいる者は、将来を見据えて活動を広げるだろう。中学生は『児童』に所属しているが、高校生となれば『年少者』として働ける時間が伸びるから余計にだ。　
　今まで４人一緒だった生活が分かれてしまうことを不安がるマキリを、武道は中学生だった頃の自分を思い浮かべながら優しく見つめた。
「残り少ない中学生活を満喫してもらえたら……
　そして、少しでも、楽しい！って思えるような高校生活を始めてもらえたら……うん、俺達高校生も頑張らないと……な！」