オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜｜リアクション

オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜

「英二さー、あの映画見たことある？
　昔の、ハリウッドのSF映画でさ、海底に謎の生命体が居んの。液体が形作って人間の真似したりして」
「似たような作品、幾つか有りますよね——」
　水と謎の生命体と古い作品で脳内検索をかけながらドレだろう、と首をかしげる佐藤英二。エリセイ・ジュラヴリョフはポケットに突っ込んでいない方の手で校舎の右手をあげた。
　冬の風が分厚いコートに吹き付ける１月。エリセイが指差すのは季節外れの施設だ。
「あのプールね、そういうの住んでるよ。中学ん時にレーナが見たんだって」
「ああアレね」レナート・ジュラヴリョフが頷いた。
「あの辺掃除当番だった時だよ。真冬にさ、プールって誰も居ないじゃん？　なのに変な音がして、なんだろうってドキドキしながら隙間から覗いてみたら……もう一人の俺が！！」
「それってエリ先輩だったんじゃないですか？」
　英二がシラッと言うと、双子は軽く肩を上げながら「かもね？」。
「他には？　伝説の木とかUMAの閉じ込められた物置とか有りますか？　僕中学の頃は島外だったから」
「ある木の下で告白したら必ず振られるって伝説ならあったかも」
「『あなたと同じ学校というだけでも嫌なのに』って言われるんだよね」
「ステータス上げ損ねて、好感度が足りなかったのかもしれませんね」
　英二の言葉をとどめに、三人は自分たちの会話で吹き出した。実のない会話を楽しむ男子高校生グループの仲の良さそうな戯れを、すれ違う人々が注目している。
「貴方がた、中学にきてまで何を馬鹿な会話をしてますの。丸聞こえでしてよ」
　呆れながらも親しみのこもった声の方を見ると、そちらも三人組が揃っていた。

「こんにちは、イリヤの授業を見にきたんですか」
　市橋誉が言うように、今日は寝子島中学校の学校参観——オープンスクールの日だ。身分が明らかになっていれば誰でも見学出来るから寝子島内、そして外からも多くの人々が中学校を訪れている。
　エリセイとレナートのように家族の授業参観にきているものもいれば、英二のようにおつきあいや、近所の住人、入学予定の小学生など『客層』は様々だった。
「俺は何となく面白そうだなって、来てみた所です。途中の道で伊橋さんと大道寺さんと会って——」
　誉が二人を振り返った。大道寺紅緒と伊橋陽毬は学生にとってこれ以上ない身分証明となる寝子島高校の制服に身を包んでいる。誉のなんとなくと違って事前に用意された雰囲気だ。紅緒がその理由を明かした。
「作品にリアリティを出すには、研究が大事ですわ」
「そうか、『マホラク』は学園物だからね」続刊を重ねるたびにバトル成分が増えているけれど。
　英二が言うと、紅緒はその通りだと頷いた。短い学生生活、一年も経てば記憶も薄れるし、他校の雰囲気や生徒達を知るのは作品作りに良い影響を与える。——と言うのが陽毬の翻訳である。
「紅緒ちゃんみたいに勉強って訳じゃないけど、母校じゃなくて他校ってほとんど入った事ないから楽しみだよね」
　陽毬が言うと、誉も「どんな様子だろうな」と校舎を見上げた。
「始めから皆で押し寄せてもイリヤも困惑しますわね。陽毬、誉さん。私たちは少し時間を空けて行きましょう」
「そうだな。皆でじっと見てたら大変そうだ」
「じゃあ英二君と先輩たちはまたあとで！」
　紅緒の提案に誉と陽毬が同意して、６人は受付のあとにふた組に分かれて行動を始めた。

　校舎内は、『活気溢れる雰囲気』と言う言葉が相応しい、元気な男子生徒と賑やかな女子生徒たちが廊下を跳ねまわっている。
　訪れている来客たちをこっそりチラチラと横目で——しかし大人の目線からすれば不躾なくらいに——見て、かしましいくらいに騒いでいた。
　なんだかこちらの方が期待されているみたいだと思いつつ、来客たちは校舎の中を練り歩きはじめた。

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