オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜｜リアクション

オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜

「凄かったねーあのクラス、文化祭みたいだった」
　そう感想を述べた陽毬と誉と紅緒の３人が先ほど見ていたのは、桜のクラスのミュージカルだ。
　他のクラスが小さい教室でやっていたあくまで授業のカリキュラムの中のひと幕らしい劇と違い、やけに気合が入っていた。舞台の下で生徒たちを見守る女性教師が涙ぐんでいたのが印象的だ。卒業を控えた３年生ならではの光景だろう。
「あれって『音楽』の授業でいいのかなぁ……。
　あ、誉君ってやっぱり音楽得意だったんでしょ？」
「得意と言うより中学の頃の音楽の時間は、楽しみの時間だった。同じクラスの皆と、音を合わせる事の出来る貴重な時間だったから」
　陽毬と紅緒は興味をもってこちらに首を振って寄越した。誉は続ける。
「一人で奏でる音と違って、大勢で重ねた音の大きさ深さ、楽しさ。
　色んな楽器に触れられるのも楽しかった。ハンドベルとか木琴、鉄琴に触れるのが好きだったっけ」
「分かるかも。私もフルートやってたの。でも音楽教室にあるのがフルートと、ピアノと、あとは幼児教室のカスタネットとかトライアングルとか……。　でも音楽室はたくさん楽器があって面白かったな！」
「今はやってないのか？」
「３年の頃にやめちゃった。紅緒ちゃんもだよね？」
「ええ、ピアノ教室は高校受験を機に」
「皆そこらへんでやめちゃうんだよねぇ。考えてみるともったいないかもにゃー」
　陽毬へ紅緒は頷いた。「ミルクホールの３人も子供の頃は音楽の習い事をしていたと聞きましたわ。
　ロシアではソ連の頃の名残で習い事をする方が多いそうだけれど、音楽は特に人口が多いとか。国を超えても多くのひとが少しは触れているものなのね。
　なのにそこで音楽家の道を見つけられるのはごく僅か……」
　紅緒の言葉を聞いて、誉は自分の進む道が過酷なものであると再認識していた。
「そういえばその前の１年の音楽の授業の、好きな音楽の紹介ってところで、マホラクの曲が上がってたな」
　今度放映が開始される紅緒の著作のアニメの主演の男性声優が、先日アーティストデビューした。その曲は作品に先行して発表されるイメージソングと銘打たれている。
「あの曲、俺も好きだな」
　誉が述べた感想に、紅緒は自らを褒められたように耳を赤くした。そこで陽毬が突然「思い出した！」と高い声をあげた。
「あのPV、強くてニューゲーム君出てたの！」
「誰？」
「泉君、イリヤ君のクラスメイトの子。一瞬しか映らないし衣装と照明で顔よく分かんなかったけどそうだよね？」
　紅緒は知っていた話しらしく、ああそれねと相槌をうった。
「バンド風がコンセプトだったらしくて、PVとイベント込みでビジュアルが良くて若くて活きが良いのって頼んで、第一候補が土壇場でキャンセルかけた結果らしいですわ。
　誉さんには彼の腕はどう見えますの？　門外すぎるかしら」
「彼が中学生らしいかは微妙だけれど——、今日聞いていて思った」
　はじめは笑いまじりに、誉は数年前までの自分を思い出しつつ懐かしさに目を眇める。
「中学生達の奏でる音は新鮮さがある。彼らにしか出せない音が、少し眩しい……」
　遠くを見ている誉をじーっと見つめて、陽毬は彼の眉間を人差し指でつついた。
「誉君、私この間美希さんから聞いたんだけど、気分が老けるとシワが出来ちゃうんだって」
「ピアニストとして早めに貫禄が欲しいなら止めませんわよ」
「それは困る」同級生にいじられて、誉は顔の筋肉を弛めた。　