オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜｜リアクション

オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜

　水上桜の所属する３年３組の担任は、川村絵美子という社会科と音楽を担当する教師だ。
　今でこそなりを潜めて、教師らしく振る舞う彼女ではあるが、その昔は『バンギャ』と呼ばれるビジュアル系バンドのファンで、赤黒白のゴシックパンクなどの派手な服に身を包み、必須アイテムの推しバンドのステッカーを貼ったミニトランクを手に、ライブ会場を訪れたりもしたものだ。
「——と言うわけで我が３組はミュージカルをやります」
　ざわっと反応が返る。しかし絵美子の提案はここでは終わらなかった。
「どうせならロックアレンジ！」
　ざわざわっと反応が増える。主に動揺だ。しかし絵美子はまだ続けた。
「OCの先生と協力して、歌詞は英語よっ！！」
　とどめを刺された生徒たちは、激しく叫んだり呻き声を上げた。これぞ絵美子の大好きなパンクロックの音である。良かったね。

　当日の授業開始前——。
「高校受験控えてるのに、今日まで結構ハードだった……」
　はあっと深いため息を吐いた桜に、クラスメイトたちが「そうだよね」と同意を始める。しかし誰も本気で不快そうにはしていない。
　もともと一般生徒にとって高校受験は大学受験より力を入れるものでもないし、根を詰め過ぎていた者にとって学校で歌ったり踊ったりできるのは、良い息抜きになったらしい。
「もっとも、英語の勉強にはなったけれど」
　桜もまんざらではない笑顔だ。

　さて、今日の演目はお馴染みの『シンデレラ』である。
　桜の配役は、『意地悪な姉その１』だ。役者なら自ら手を挙げる、素人ならあまり好かれないタイプの役である。
　桜はそこに自分なりの楽しさを見出し、先日は衣装につけるオリジナルのアクセサリーを作るために星ヶ丘のクラフトショップにまで行った。
　練習と受験勉強を頑張っていた彼女だ。アクセサリー制作もしていたら目がまわるようだったが、それも悪くないと思えた。
「私、こういう感じ嫌いじゃないよ」
　桜はクラスメイトに零した。
「目の前にこれだけの困難があったら、逆にもう逃げても仕方ないし、『やってやるか』って気になるじゃない。
　なので三つとも手を抜かずにやった」
　桜は控えめで几帳面な性格をしているが、どうやら負けず嫌いのところもあったのだなぁと、クラスメイトたちは微笑んだ。
「もう今年で最後だもの、中途半端なことをして後悔したくない！」

　そして『客席』が保護者たちで埋まると、絵美子の挨拶が終わり劇が始まった。
　桜の出番はもうすぐだ。
「うまくやれるかなんて考えない。ただ、もう全力を出してやりきるだけ。結果は後からついてくると信じてる」
　桜は長いスカートの裾をつまんで、ライトの中に躍り出た。