オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜｜リアクション

オープンスクール　〜みんなで寝子島中学校へ行こう〜

　この日。城山水樹と恋人のヒュー・ヒューバートは、旧市街をデートしていた。
　出会いはクリスマスイヴ。それから順調に交際を重ね、本日は３回目のデートだ。
　ヒューは木天蓼市内に居住しているので、実家が近い水樹が率先して旧市街を案内する。若いカップルらしくアクティブに楽しむのも良いが、静かな昼下がりの街を二人でゆったりと散歩するのもまた楽しかった。
　そんな折に二人は、今日が寝子島中学校のオープンスクールだと耳にした。
「私の母校よ、懐かしいな……」
　水樹が目を眇めて漏らすと、聞き上手のヒューはあれこれと彼女の言葉を引き出した。中学の生活、制服でセーラー服を着ていたことや、数ヶ月前に行われた同窓会の話しも出た。
「君のことをもっと知りたい」
　最終的にはこの言葉をきっかけに、二人は寝子島中学校へ足を運ぶことになった。

「ここが……君が通っていた学校？」
「ええ、寝子島中学校。
　私が通っていた頃ともあまり変わっていないわ——」
　今度も水樹が率先して案内する。しかし歩くテンポはヒューが水樹に合わせ、二人は横に並んでいた。
　２０代前半にしては大人びて落ち着いた関係で、あまりべたべたしたりはしないが、恋人同士の距離は保っているのだ。
「僕が通っていた京都の学校とさほど変わらないか」
「そんなものよね。ところどころ新しくなってるって感じるけれど——」
　と相槌をうった水樹は、突然くすくす笑いを漏らした。
「ここ、ここ、覚えてる！　あーっ、懐かしい！」
「どうしたの？」
　ヒューは不思議そうだ。水樹は笑いだしてしまった理由を打ち明けた。
「仲良しの友達と喧嘩して、大泣きしちゃったの。周りの生徒が集まってきて大丈夫？　大丈夫？　先生呼ぶ？　って、もう！　大変だった！！」
「君のそんな姿、想像つかない」
　ヒューが今の明るく竹を割ったような性格の水樹を見つめると、水樹はくすぐったそうに微笑んだ。
「そういう年齢だったのよ」
「そういえばこういう日って昔もあったのか？」
　ヒューはリヴァプール生まれだが、幼い頃に日本人の母と共に京都にある母の実家へ戻ってからこれまで日本で生活していたので、当然日本の学生生活がどんなものか知っている。
　彼の質問が自分の参加した授業内容はどんなものか？　だと分かって、水樹は答えた。
「私は英語劇で『白雪姫』だったわ」
「プリンセス役？　可愛かっただろうね」
「残念だけれど、小人役だったわ！」
　水樹はまた笑い出した。
「緊張して声が裏返って『こーんな』声になっちゃってクラスメイトから爆笑されて、しばらくはそのネタで持ちきりだったわね」
「あまり喋らない小人担当だったらよかったね。それかクシャミをする小人、これなら裏返ってもバレない」
「ほんとにね！　なんでそっちで手を挙げなかったのかしら！」
　興奮しすぎて真っ赤になった水樹は、目尻に浮かんだ涙を指先で抑えた。それからモデルらしく背筋を伸ばして長い髪をまとめる。
「君の学生生活はかなり楽しそうだ。他に面白い話しは？」
　ヒューに期待を寄せられて、水樹は隠していたとっておきを出した。
「夜にこっそり入ったことがあるわ」
「それは凄いね！」
「忘れ物をしちゃって取りに帰る途中で、お化けを見た」
「本当に！？」
「本当よ！！」
　二人は同時に笑い出す。
　その時ヒューの中には中学時代の水樹の姿が、鮮明に描き出されていた。
（きっと中学校時代は幸せだったんだな）

「あっ、志村先生！！」
　水樹が手を挙げると、長い足を少女の頃のようにぴょんぴょん跳ねさせて駆け出した。彼女の恩師の志村旭を見つけたのだ。
　今年が定年だと言う志村と嬉しそうに、懐かしげに話す水樹のかつての日々を思い、ヒューは微笑笑みを深めた。

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