『激突！　ニャルカトラズ・コロシアム！』（６）

「オーーーッホッホッホ！！　ォオーーーッホッホッホホホホ！！
余裕ッ！　余裕すぎますわよォォオーーーーーーッホッホッホッホッホッホ！！」
　さっそくの高笑い、財前 華蓮お嬢様。
「視聴率ゥ？　そんなもの、私が登場した瞬間に爆上げですわぁ！　しかも異種格闘技戦だなんて、ついに私の（通信教育で覚えた）合気道が火を噴きますわね、オーーーッホッホッホ…………ホ？」
　とまぁ最初こそ、むやみやたらと勢いのあった彼女でしたけれど。敵対することとなる彼らが姿を見せた瞬間に、残念ながらその余裕のドヤ顔は、ものの数秒で崩れ去ることとなりました。
「ちょっちょっ、ちょっとぉーーー！？　何ですの、あのムキムキのゴリラみたいな看守はぁ！？　あんなのが相手だなんて聞いてませんわよ！！　剣崎さんっ、いがみあっている場合ではありませんわ！　ここは手を組んで、協力して……」
「…………慌てなさんなッ！」
「！？」
　やけに男らしく言い放った、剣崎 エレナ。白黒ボーダーな囚人服柄、食い込みのきついセクシーリングコスチュームを颯爽と身に着け、仁王立ち！
「見掛け倒しの筋肉に、小さなおつむ。ッはん！　あんな（ピーーー）野郎なんて、恐るるに足らずッ！！」
「な、何かキャラが違いませんこと……！？」
　何を思ったか、エレナは看守たちへ、びしっ！　親指を下に向けて見せました。お上品な華蓮お嬢様はビックリです。
　エレナは、にやり！
「あーら財前さん、怖気づいたのかしら？」
「なっななな！　何を仰るのかしら、このコロネは……」
「恐れることなど何もないというのにね。あなたの合気道とやらと、私のクラシックバレエ……この２つが組み合わされば、向かうところ敵ナシよ！」
「良く分かりませんわーーー！？」



　というわけで出番を迎え、リングに上がったふたり。華蓮がいつのまにやら着込んでいるのは、エレナとお揃いペアルック、セクシーな囚人服柄リングコスチューム！
　目の前にはニヤニヤと口元を歪ませた、看守の巨体が山のごとくそびえています。
「さあさあお待ちかね、今回唯一の女性タッグ、綺麗どころの登場ですよーーー！　可憐な乙女たちが屈強なる看守に挑む、２対１の変則マッチ！　果たして勝つのはどちらか、Ready Fightーーーッ！！」
　マイクへ叫ぶ声に押されて、戦闘開始！
　とはいえ、別段武闘派というわけでもないふたりのこと。愚直に真正面からぶつかっては、ヒトヒネリにされてしまうことウケアイ……というわけで、
「まずは、作戦ですわ！　ここは色仕掛けでいきましょう。剣崎さんがその貧相な身体を差し出している間に、私が後ろから看守をどついて倒すというのは……ひィっ！？　わ、分かりましたわ、私がやりますからそう睨まないでくださいな……何かコワいんですけど、今日の剣崎さん……！」
　ギロリと一瞥されて、華蓮はびっくん！　本日のエレナさんは何やらキャラが違っていて、逆らうのも恐ろしい空気なのです。
　華蓮ははぁんとため息ひとつ、けれどすぐにもいつもの調子を取り戻し、
「仕方がありませんわね！　ここは美しさの権化である私が、あの看守を虜にして差し上げますわぁ！！　その間に剣崎さん、あなたが得意のバレエで……バレエで……バレエは無理だわ、うん。秘めたる力とかなんとか、そんな感じで倒してくださる？」
「ふふん、任せなさい。そちらこそ、頼んだわよ？」
　ライバルたるエレナの寄せる全幅の信頼には、びしっとサムズアップ！　華蓮は全力で、色仕掛けを敢行！
「あぁ～ら、看守さん♪　ちょっと私と、イ・イ・コ・ト！　しませんこと？」
　すらりとした美脚をこれみよがしにさらしつつ、むぎゅっと両腕で胸を抱き寄せめいっぱいにおっぱいを強調。うっふ～ん！　艶っぽく微笑みながら、看守へアピール！
　性格はさておき「さておきって何ですの！？」失礼、麗しく美しい華蓮お嬢様のこと。そのキメ顔などは実に様になっていて、看守は魅惑の肢体を舐めるように眺め……視線はやがて、控えめで慎ましやかな、彼女の胸元へ。
　……ふっ！　鼻で笑われました。
「どっどどど、どこ見て笑ってますの、この筋肉ダルマ！？　ムッキーーーッ！！　いいから、『私の話を聞きなさーーーいッ』！！」
　途端、憤慨した彼女のろっこんが、叫びを周囲へと響かせびりびりと空気を震わせ、看守をにわかにびくり！　と怯ませたものの。ニヤニヤと下品な笑みを浮かべていた男は、そんな音響攻撃に、ちょっぴり気分を害してしまったようです……ぎりぎりぎぎぎっと不機嫌そうに食い締めた歯を鳴らしながら、ずんずんずん。のしのしのし。
「ぎゃああああ、こっちに来ましたわーーー！？　なっ何で失敗したんですの？　私の完璧な色仕掛けが……ッ！？　くうぅっ、こうなったらもう、仕方がありませんわね！」
　どの道この場を切り抜けなければ、脱出はかなわないのです。華蓮は意を決して、ずざざっ！　見た目だけはすらりとカンペキな武道の構えを取ると、
「今こそ、修行（通信講座）の成果を見せる時！　財前流合気道秘奥義・傾国美人拳を食らいなさ」
　どっかん！！
「きょにゅうっ！？（やられ声）」
　無情にも看守のパンチが炸裂、華蓮はあっけなく吹っ飛んで、びたん！　カエルのようにマットへ這いつくばり、気絶してしまいました。



「ハッ……！」
　そして、次に目を開いた時。
　彼女の眼前にて展開されていた光景は、くるり、くるくるくる。クラシックバレエの動きで、次々に繰り出される看守の豪腕パンチをかわしまくる、エレナの姿でありました。
「バレエすげーーーーーー！？　ですわ！！」
「あら、やっと目が覚めたのぜんざいさん？　そろそろ手を貸してもらえるとありがたいのだけど」
　くるくる、くるりん！　エレナは無駄に美しいモーションで回転しながら華蓮のもとへ跳んでくると、手を差し伸べて、
「さあ、一気に決めるわよ？　……相棒」
「……！！　の、望むところですわっ！！」
　がっしと握られた手に引き起こされたなら、先ほど受けたダメージはどこへやら。華蓮の気合もＭＡＸ！！
　ずどどどどっと突っ込んできた看守の腕をぱしんと取り、
「今度こそ、食らいなさァァァいっ！」
　財前流合気道が炸裂、相手の力を利用して跳ね上げ、すぽぽーんっ！　宙を舞った看守の巨体めがけ、ふたりはロープを駆け上がり、大ジャンプ！
　がっしーん！　空中で腕と足を同時に極めたら、
「行くわよ……！　愛と！！」
「友情の！！」
「「ツープラトンッ！！」」
　そのまま自由落下、直下のマットへ真っ逆さま！　お嬢様ふたりの麗しき合体技、その名も！
「「エレガント・バスタァァァーーーッッッ！！」」



　カウント１０。マットに頭をめり込ませたまま、ぴくぴくと痙攣する足を尻目に、
「なかなかやりますわね、それでこそ私のライバルですわ！」
「ふっ……あなたもね」
　ぱぁん！　ふたりのハイタッチが、小気味よくリングへ響きました。



【76% vs 24%】