パーフェクトワールドⅡ ～苺の宮殿に堕天の鴉は嗤う～｜リアクション

パーフェクトワールドⅡ ～苺の宮殿に堕天の鴉は嗤う～

　雀の姿に変じて飛び回っていた御巫時子が、床の上に舞い降りるや常の姿を取り戻す。
　そうして、ほう、と深く息を漏らした。
「砂になってしまったのですね……不思議、です……」
　ゴーレムの残骸をしげしげと眺める時子から少し離れた所で、
「カイくん、かっこ良かったぜ！」
　なんて、卯木衛はカイの背中をなでなでもふもふ。
　こちらも相棒の翼獣の背を優しくぽんとして、楢木春彦は呉井陽太へと顔を向けた。
「呉井、ムクはもう何ともねーのか？」
「うん、平気みたいだよぅ。ね、ムク」
　応じるように喉を鳴らしたムクが、陽太へと頭を寄せる。
　お疲れさまとその頭を撫でてやって、陽太は御剣刀へと声を投げた。
「さっきはありがとうねぃ。助かったよぅ」
「や、戦場ではお互い様です。トドメを刺したのは、呉井先輩達だし……」
　此度は一行のフォローに回るよう立ち働いていた刀が、そう言って軽く口の端を上げる。
「恵御納、具合はどうだ？」
　ビームの直撃を食らった恵御納夏朝へと心配の色が滲む声を掛けるのは八神修。
　己の身を案じる問いに、夏朝はこくりと頷く。
「もう大丈夫。あの時は、急に心が真っ暗になって……」
「めちゃくちゃ心配したのですよ！　どこも痛い所はない？」
「うん、平気……ありがとう」
　夏朝の返事に、「良かったぁ」と椿美咲紀は表情を明るくする。
　そして美咲紀は、仲間達全員に向かって元気いっぱい声を張った。
「もし怪我をした人がいたら教えてほしいのです！　私のろっこんで治すのですよ！」
　幸いにして負傷者が出なかったことを確かめて、美咲紀はふうわりと笑う。
　ルークの背中の上、犬杜一閃が、ぽつり、夏朝へと音を零した。
「……二度目、だな。お前に、助けられた、のは」
　苦しげな声で途切れ途切れに言って、一閃は夏朝へと問う。ただ短く、「どうして」と。
　夏朝は、猫パペットをぱくぱくと動かした。それと同時に、紡ぐ言葉は。
「繰り返しになるけど、僕は帰りたいだけだよ。皆で。一閃さんや初ちゃんも一緒に」
　そうか、と一閃は瞼を伏せた。その時。
「よっし！　邪魔なヤツも居なくなったし、上行こうぜ！」
　響いた明るい声は、春彦のもの。そうだねぃ、と、陽太が頷いた。
「そろそろ、一閃さんを休ませられる所があればいいんだけど」
　その呟きを耳に、修は階段へと眼差しを遣る。
　この先には、一体何が待ち構えているのだろうと。
「とりあえず、偵察行ってみようか」
　言って、陽太はポケットから取り出した粘土細工の犬――パド君を指でつつく。
　途端パド君が、陽太の意のままに動き出した。
「あ、ちょっとタンマ！」
　春彦が、小さく手を上げて制止の声を上げる。
「石像はどうする？　最終手段もあるっちゃあるケド……」
　荷物から茎付きの赤い実を取り出す春彦。
　刀が、顎に手を宛がって声を零す。
「戻って来れそうなら、一旦捨て置いてもいいんじゃないか？」
「ああ。階段の向こうにヒントがある、という可能性もなくはない」
　修が言葉を継いで、その場は一旦それで収まった。
「それじゃ、そういうことにして今度こそ進もっか」
　陽太の呼び掛けに否を唱える者はなく。
　パド君の活躍で、行く先に目立った危険はナシ、地下への道を封じる仕掛けもナシと判明し、
「この先は……いよいよあの城の中、ってことか」
　と、衛が声に緊張を覗かせて呟いた通りに、一行は階段の向こう、苺のお城へと足を踏み入れたのだった。