終末救世主　～寄る辺なき悪意と蒼い月～｜リアクション

終末救世主　～寄る辺なき悪意と蒼い月～

　犬堂馨一。その名字にはレオンは聞き覚えがあった。
　霊刀四大盟主の一角『鬼切』を所有する犬堂家。その嫡子なのだろうか。
　詔子と同じ様な身形で鮮やかな着物を身に纏い帯刀する少年の実力を諮り兼ねるとレオンは首を捻る。
「む？」
「いや……お前、幾つなんだ？」
　見た所は数えて１０は超えたであろうかという物だ。その身につける刀も心なしか短く見える。
　きょとりと丸い瞳を向けた馨一は「１１だぞ」と胸を張る。
（……子供が帯刀しなくちゃいけない程に、獣が危険なのか。それとも――)
「わしは獣位なら大丈夫なのだぞ。それ以上に、暗殺の方が気にかかっておってな」
　レオンの気持ちを感じとるかのように馨一は口を開く。
　仮にも己も『四大盟主』の一角の血筋。暗殺事件を警戒するに越したことはないのだと彼はからからと笑った。
「四大盟主……？　犬堂家の『盟主』は誰なんだ？」
「父上であるぞ。犬堂康助(こうすけ)。鬼切に認められし立派なお方なのだ」
　月の問い掛けに満足げに話す馨一。彼女の中ではひとつ、ふたつと疑問が湧き上がる。
　霊刀とは何か。そもそもそのルーツは何か。馨一の羨望の通りに『能力』があるのか。
　己のことを只の人だと言った詔子は霊刀に認められていないのか。
「四大盟主とは何なのか……」
　宗像　詔子。百目鬼辰彦。犬堂康助。そして、三ツ扇家。
　気になる事が増え、悩ましげな月は馨一達に一度別れを告げ書簡の中へと向かった。
　情報が集まれば、隣接された喫茶スペースへと集合しようと約束をして立ち去る彼女の背中を眺め、月詠は悩ましげに眉を寄せる。
「馨一、一つ二つと聞いても良いか？」
「わしに解るならな」
　中央ホールに設置された椅子に腰かけて、馨一がこくりと頷く。
　年の割に低い身長なのだろうか、背の低い月詠とあまり背丈が変わらない。
「私達は獣について、この街について、知識が足りない。どうしてこうなったか――それもしらないんだ。
　エンディングロールが始まれば、このままではバッドエンドだろう？
　ハッピーエンドに行きつけずともトゥルーエンドまでは辿り付きたいと考えているのだが」
「ふむ……」
　首を傾ぐ馨一は「どうしてこうなったかはわしにも分からぬ。父上や上様なら知っておるかもな」と月詠の瞳を見詰め言った。
「この街や獣についての書簡なら様々なモノもあろう。
　夏朝や月が調べてくれるのであろう？　その方は何かやりたい事がありそうだが」
「……街の端へ行ってみたいんだ」
　霊刀の効果のある『範囲』の狭間。
　危険を承知で月詠は言う。獣という存在が動物でなければ己のろっこんは使用できる。
　悩ましげな馨一の表情と、何処か度肝を抜かれたという風であるレオンを見据え、月詠は「いけるだろうか」ともう一度はっきりと告げた。
「行けるだろうが危険だし、今晩は帰って来れぬかもしれんぞ。
　月達との茶会は良いのか？　まあ、わしが代わりに出てやらんことはないぞ！」
　少年の言葉に月詠は小さく頷く。複数の用紙に武器を封印し、獣を封じることが出来るか否か。
　試す甲斐は有る筈だと月詠は二人に告げ、中央街から街の果てへと歩き出した。

　

「大丈夫なのかよ」
「知らぬ」
　レオンの言葉にさらりと返した馨一は首を振る。陽が暮れる前に送って行こうかとレオンに提案する馨一は何処か不安げに赤い太陽を眺めていた。
「雨が降りそうではないかの」
「雨ェ……？　晴れてるぞ？」
　血の様な赤い雨。
　――暗殺事件が起きたその日も雨が降っていたのだそうだ、と馨一はぽつりとレオンへ呟いた。