終末救世主　～寄る辺なき悪意と蒼い月～｜リアクション

終末救世主　～寄る辺なき悪意と蒼い月～

　馨一から中央図書館は夜遅くまで開いている――所謂、獣から一般人達が避難するべく将軍が兵を詰めさせているのだと告げられた。
　不思議な格好をしていると気に入られた月と月詠は中央図書館に。閉館まで時間があるのならば周囲への聞き込みをすると夏朝は別れを告げる。
　現代のものと比べれば軽量では無い、しかし、ガラパゴス・ケータイと呼ばれるそれにも似た通信媒体を詔子から一つ借り受けた夏朝は馨一と連絡の手段を交換し中央街の喧騒へと呑まれてゆく。
　少女の腰に差された脇差と、武器としての拝借した分銅鎖を軽くするためにぺたりと貼った猫シールは武骨なそれに愛らしさを感じさせた。
（……猫さん、いないかな……)
　世界線が違えど猫は万国共通の筈だ。
　大の猫好きである夏朝にとって、猫の存在が原動力になるのは確かだが……。
「あんまり野良猫とかは居ないんだ……」
「そりゃ、獣が居るからだよ」
　扇子など小物を中心に扱う商家の軒から顔を出した青年がからりと笑う。
　周囲の道草からは「若大将、また女の子に粉掛けてらァ」と軽口が飛び交っている。どうやら、気さくに人に話しかけるタイプの青年なのだろう。
「獣が居るから？」
「嬢ちゃん、『終末』に来て日が浅いのかい？」
　日が浅い――外の世界は危険が多いと言うのに、その言葉は違和感を覚えずには居られない。
　さも当然の様に問い掛ける青年へ夏朝は「日が浅い？」と問い返した。
「ああ、ああ、そうか。流浪の民ってのがホントに存在してるわけじゃァねェもんな」

　彼曰く、流浪の民というのは四大盟主達に守護されない人間の事を言うのだそうだ。
　終末では夜になれば獣が跋扈する。猫達が『危険』だと解っている人々は飼うか所定の場所で飼育することにしている。犬堂が治める東の区域には動物を飼育する庭園があるのだというが、詳細は分からず終いだ。
「流浪の民って、結構いるの……？」
「基本はいねェよ。終末の外じゃ獣は強大な力を持ってるしとてもじゃねェけど生き残れやしない。
　中央にくるヤツだとしたら、巫女の嬢ちゃん位しか流浪の民は見たことないなあ」
　異国の雰囲気を纏う巫女の嬢ちゃん――ミューシャ。
　彼女が流浪の民だと呼ばれる存在なのだとすれば……。
　終末の外は危険が溢れ返っている。彼女は何処から来て、どうして『まほろば』の言葉を聞く事が出来るのか。

　霊刀に意志があるならば、他の三本も――気になる事が多いと夏朝は思案する様に黙り込み、店先を後にした。

　

　図書館近くへと辿りついたレオンは和服に身を包み、行きずりの人々へと質問を投げかけた。
「あの……獣について何かご存知でしたら、なんでもいいんで知ってることを教えてください」
　獣の存在は、人々にとっても脅威なのだろう。
　夕刻になると何処からか唸りが聞こえ、皆、姿を隠す様に扉を閉ざす――日が昇れば獣たちは何処かに去ってゆく為に終末の民は早朝から夕刻にかけて活動しているのだそうだ。
「例えば……火は苦手かとか、生命力はどれぐらいだとか？」
「知らないねぇ……」
　一般的な人々にとって獣と闘う事はないのだろう。解らないと首を振られては、レオンもそれ以上踏み込めない。
　宗像家におこった残虐な事件についても噂話――詔子の語った伝聞と同じ話しだけだった。
　礼を言い、図書館の扉を開けた所で、月や月詠、そして馨一とばったりと出会う事となった。