終末救世主　～寄る辺なき悪意と蒼い月～｜リアクション

終末救世主　～寄る辺なき悪意と蒼い月～

　宗像家の敷地から出るには些か不安を禁じえない。
　詔子が「珍しい服装」と言ったことも起因しているのだろうが、獣が跋扈するとなれば不安も大きくなるというものだ。
　中央街に程近い場所に広がる商店を見回して桜月はシンプルな服装であれど目立つものなのだなと自覚する。
　洋装というものが多少なりともあれど、すらりと長い脚は終末の民からすれば異色の存在なのだろう。
　ノースリーブのブラウスにネクタイ、黒のプリーツスカートという服装は、服飾デザイナーを目指す彼女が終末の民らしく見えるだろうかと考え至ったものだ。白磁の膚をより鮮やかに見える紅色の衣をジャケットの様に羽織り、月は商店の店主に「どうだろうか」と問い掛けた。
「お似合いですよ。珍しいお召物とも調和がとれてますし……」
　帯を締めて、和装に見立てれば終末の住民そのものだと店主は微笑んだ。

　

　中央街にあるのだという『図書館』は将軍が治める地だというだけあって平穏を感じさせる。
　他の四大盟主が治める地と比べれば何処か上級階級の人々の住居と言う雰囲気が漂っていた。
「何だか、お貴族様って感じだよね……」
　中央街に訪れていた恵御納夏朝は茫とした瞳に色を乗せた。擦れ違った月の和洋折衷と言った服装に「動き易そうだね」と好意を零した夏朝は宗像家で借りた和装に身を包んでいる。
　現代人である夏朝が和装に身を包む機会はそう多くもない。幾許かの新鮮さで胸を躍らせた夏朝は何処からか感じられた視線に首を傾ぐ。
「……？」
「どうしたの？」
　月と夏朝。二人の視線の先には、少年が立っている。
　柘榴色の瞳を細めた月の警戒心を顕すと共に、薄い好機の色を瞳に乗せた夏朝がゆっくりと近づく。
　身なりの良い服装をした少年は――街の人々は詔子と比べれば余り衣服の質が良くない――刀を腰に差し「そなたら、何者じゃ」と態とらしい低い声で問い掛けてくる。
「僕らは図書館に行こうと思った旅の者だよ」
「宗像家からわらわらと出てきておるのはみたぞ」
　震える声音で言う少年に首を傾いだ月は夏朝の反応を待つ。
　どうしたものか、少年は屋敷から此処まで夏朝について来ていたのだろう。
　それは彼の背をつん、と突いた小さな少女――旅鴉月詠が冗談半分に「宗像家から付いて来たのか」と問い掛けた事で判明した。
　状況としては夏朝の背後を歩く少年を月詠が追いかけて来たという事になるのだろう。
「……それじゃあ、君は私達に興味があったと言うのか？」
「そちは変な格好をしておったし、あまり終末を知らぬと見たのだ。
　詔子が救世主が来たというからにはどんな屈強な戦士が来たのかと思ったのだが――」
　何処か上から目線で喋る少年が腕を組み踏ん反り返る。
　彼の様子に首を傾げ怪訝そうに見つめる月の真紅の瞳に小さく詰まった少年は目線をうろ付かせ呟いた。
「そちは文化が違うと見た。……わしは犬堂馨一（けんどうけいいち）。
　そなたらが望むならば中央図書館の書簡へと案内(あない)してもよいぞ」

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