【星幽塔】第三階層　鳥籠には少年の欠片｜リアクション

【星幽塔】第三階層　鳥籠には少年の欠片

「……みよ俺の上腕二頭筋！　あとついでに腹筋！！」
「脱ぐんっすか！」
　武道と利平の掛け合いを背後に、春彦と陽太は石祠の外に出る。春彦が右、陽太が左、祠の石扉が万一にでも閉まらぬよう背で押さえ、二人は警戒の視線を貯水池の周囲に巡らせる。
「ッうぉおおぉお！」
「うーごーけーッ！」
　全力な気合と、おそらくはその身に宿った星の力も籠めまくった声を背後に、陽太が眼鏡の奥の瞳を緊張気味にもたげる。その視線の先、池の縁に立ち底を見下ろす黒狼の姿を確かめ、春彦は無言で剣を構えた。青空の光を弾く刀身に、爆ぜるような音たてて炎が巻き付く。
「大人しく封印解かさせてくれるワケねーよな」
「そうだよねぃ」
　頷き、陽太は魔風の力宿るワイヤーガンを腿の革ホルダーから取り出す。
　現れた狼が喉を空に向けて吼えれば、池の縁に更に数匹の狼が現れた。縁から池の底へと落ち込む鋭い角度も構わず、群狼が石祠目指して滑り降りてくる。
　春彦が駆けて来る狼の群に向け、炎の剣を振り上げる。

「いっけぇーっ！」
　切っ先が風を切って振り下ろされた瞬間、炎の弾丸が数発まとめて放たれた。

「よいしょー！」
　宙を奔る炎に合わせ、陽太は構えたワイヤーガンの引き金を落とす。腕に衝撃を与えて飛び出した鋼糸つきの銛は、風を切り裂き風を纏い、纏うた風に春彦が先に放った炎を巻き込む。風の力を得て炎が膨れ上がり、うねる炎の龍となって群狼に突っ込んだ。
「うおっ」
「おー」
　狼たちをまとめて吹き飛ばす炎と風の威力に春彦と陽太が思わず声を上げたその瞬間、
　――地面が震えた。
　ゴッ、と耳をつんざく音立てて、石祠の屋根を形作る一枚岩が恐ろしい勢いの水柱によって吹き飛ばされる。
　風に舞う木っ端の如く空高く舞った一枚岩は不意にくるりと裏返り、地面に降る。池の底のあちこちに吹き飛ばされた狼たちの数匹の上に地響き立てて落下する。
「楢木、ちゃらいとか思っててすまねー」
「春彦くんの足場があって助かったね！」
　巨大な噴水のように立ち上がり、空に虹をかけて降り注ぐ大量の水を全身に浴びつつ、武道と利平が水浸しになりつつある通路を駆けて来る。
「はい、灯りと人形。ありがとう」
「春彦くんの作った足場にのって池の外に――」
　携帯用の灯りと粘土人形を陽太に渡しつつ言う武道の爪先がふわり、不意に浮かんだ。
　武道の背に翅持つ小さな妖精たちが何体も抱きついている。それを見止めて眼を瞠る利平の身もふわり、水を撒き散らしながら空に飛ぶ。
『上まで送ろう』
　白翼持つ馬に前脚を折られて言われ、春彦と陽太は澄んだ水の粒に全身を打たれながら頷いた。
　二人を乗せ、馬が翼を羽ばたかせる。一度の羽ばたきで空へと舞い上がる馬の背から、数多の妖精たちの助けを得て飛びあがった空から、四人が見たのは、水と虹と共に空へと舞い上がる数え切れない妖精たち。
　狼たちを巻き込み、渦巻きながら大量の水が貯水池を青く満たしていく。涸れた水路に水が流れる。
　妖精たちが乾いた空を虹の風と共に舞い踊って過ぎれば、白く茶色く枯れ果てていた草木が魔法を掛けられたように命を取り戻した。
　碧く、蒼く青く、大地が潤って行く。

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