青く澄んで晴れ渡って行く暁の空の下には、地平まで広がる枯草。
乾いた風が渇いた草花を寂しく鳴らし、頬に触れて空へ昇る。枯草に半ば呑まれて、朽ちかけた木製の柵。よくよく見れば、草に埋もれてはいるものの、轍の痕跡がほんの僅かに遺る道らしきものが夏草の草原へ縦横に伸びている。
「ここは……」
見下ろした服が現実世界とは違う、どこかファンタジックなそれに変化していることに気付いて、
「……ああ、……」
鴻上 彰尋は己の居る場所が『星幽塔』の中であることに思い至った。
『星幽塔』にはステラに呼ばれ、以前にも飛ばされてきている。いつか勃発するかもしれない長期戦に備え、サジタリウス城下にギルドハウス『殻の家』を設けたのは、つい先日のこと。
周囲のあちこちに、同じように『星幽塔』内部に召喚されたらしい寝子島の人々の姿が確かめられた。
「第三階層、かな」
見た覚えのない景色を前に、彰尋は黒髪を乾いた風にそよがせ小さく首を傾げる。
となれば、次の階層に続く扉がこの広大な農地のどこかに存在しているはず。その扉を開くために光を灯さねばならないオーブがあるはず。
黒い瞳に力を籠め、注意深い眼差しで周囲に見渡す。
道の左右を挟んで、石を組み合わせた水路。けれどそこに流れる水は一筋としてない。広がる畑を潤すはずの水は一滴としてない。
一歩を踏み出す。かさり、思いがけず大きな音をたてて枯草が揺らいだ。
靴底に踏んだ枯草の感触に戸惑い、視線を彷徨わせて、――道の先、枯れた蔦に覆われ尽くして廃墟じみた煉瓦の屋敷の前、白い衣服を纏った少年。
少年と眼が合う。麦藁色の髪の下、髪と同じ色した哀しげな瞳を揺らし、少年が口を開く。
「ぼくを、集めて。こころのかけらを、ぼくにして」
声を掛けようとした途端、少年が背にした屋敷の扉の内から黒い影のような腕が数十本と伸びた。枯れ枝のような黒い腕が少年の身を押し包み、屋敷の内へと引きずり込む。
屋敷内へと引きずり込まれながら、少年が必死の声で叫ぶ。
「ぼくのかけらをぼくのところに連れて来て! ぼくがぼくにならなくては、オーブに光は灯らない。上への扉は閉ざされたままなんだ!」
「ッ、おい?!」
反射的に駆けだそうとして、気づいた。
木柵を押し倒す勢いで伸びて枯れた草や、育成の途中で放棄され無残に枯れ果てた向日葵や玉蜀黍を掻き分け、風の速さで何かがこちらに近づいてきている。
「な、……」
眉間に皺を刻むまでの間に、夏草を跳ね上げ、影の色した狼が現れた。道に咲く星のかたちして咲いたまま枯れた花を四肢に踏みにじり、黒狼は牙を剥いた。低く唸る黒い眸に灯って、凶暴な色。言葉の通じる相手ではないらしい。
「……やるしかないのか」
それでも、この場をどうにかしなければならないのだろう。
そうしなければ、次の階層への道は決して開かない。
こんにちは。
今日の私は『星のサーカス団』の阿瀬春です。
今回は、第三階層攻略へのお誘いです。
……ちょっとどころではなく緊張しておりますが、さておき。
元農場らしき場所でお化けの魔の手を掻い潜りつつ、農場に散らばった少年の『欠片』を集め、少年を助けてあげてください。
ガイドには鴻上彰尋さんにご登場いただきました。ありがとうございます!
もしご参加いただける場合は、ガイドに関わらずご自由にアクションをかけてください。
概要
魔物が跳梁跋扈する元大規模農場のあちこちに隠れていたり、捕まって虐められたりしている少年たちを見つけて助け出してください。
全員同じ顔と服装した少年たちは六人います。一人は屋敷の中に引きずり込まれています。
少年たちを屋敷の扉の前に集めれば、屋敷の扉に埋め込まれたオーブに火が灯り、上の階層への扉が開きます。
星の力
星幽塔の中では、ひとりにひとつ、不思議な光が宿っています。
剣士の光(青) :剣技が上手くなる
闘士の光(オレンジ):腕っぷしが強くなる
狩人の光(紫) :弓矢が強くなる
盗人の光(金) :宝物を見つけたり鍵開けが得意になったりする
魔火の光(赤) :火の魔法を使える/星の光が宿った武器が火属性になる
(例:火の玉を飛ばす魔法が使える、刃に炎を纏ったりできる)
魔水の光(水色) :水の魔法を使える/星の光が宿った武器が水属性になる
(例:水流を鉄砲の様に飛ばす魔法が使える、刃に水を纏ったりできる)
魔風の光(緑) :風の魔法を使える/星の光が宿った武器が風属性になる
(例:つむじ風を起こす魔法が使える、刃に旋風を纏ったりできる)
魔土の光(茶) :土の魔法を使える/星の光が宿った武器が土属性になる
(土礫を投げつける魔法が使える、刃に砂を纏ったりできる)
癒しの光(白) :自分や他者を癒すことができる
光は体に宿ったあと、その者にあわせた形状に変化し、身につけることになります。
(例:指輪、体に埋め込まれる、武器になっている、愛用の武器の装飾に)
※星の力のサポートは、星の力が宿ったアイテムを所持していない時は受けることができません。
※武器(剣、弓、斧、杖など)はひとりひとつ。双剣など2つで1セットのものなども可。
※星の力やその形状は、変化したりしなかったりいろいろなケースがあるようです。
(このシナリオの中では変化しませんので、今回はひとつだけ選んでください)
※もれいびは「星の力」と「ろっこんの力」の両方使えます。
※ひとは「星の力」を使えます。
※塔に召喚されると、衣装もファンタジー風に変わります(まれに変わってないこともあります)
※もちものは、そのPCが持っていて自然なものであれば、ある程度持ちこめます。
どの星の光をまとい、その光がどんな形になったかを
アクション冒頭に【○○の光/宿っている場所や武器の形状】のようにお書きください。
衣装にこだわりがあればそれもお書きください。
ステージ
明けて行く青空、広がる農場。木柵に囲まれた向日葵畑や玉蜀黍畑、じゃがいも畑に枯れかけた林檎の樹。果樹園や畑の間を縫うようにして細い路。崩れかけた小屋も幾つか点在しています。
小屋の傍には農作物を荒らす害獣を捕らえていたらしい、ひと一人入れる程度の檻があったり、鎖と首輪があったり。
地平線まで広がる農場なので、向かう場所はひとつかふたつに絞った方がよさそうです。
少年の欠片(屋敷の前に居た少年と同じ背格好をしています)を見つけたり助けたりしたら、襲い掛かる黒い影たちから少年を守りつつ、屋敷の前にまで連れて行ってあげてください。
ただ、『欠片』によっては同行することを拒むこともあるかもしれません。
前々回のシナリオ『【星幽塔】酒場にて →飲む →話す →外に出る →脱ぐ』の中で酒場の酔っ払いが話していた噂を聞いたことのあるPCさんは、噂に聞いていたものと大分違う農場の様子に驚いたりする、かもしれません。
ミッション
農場のあちこちに散らばった少年の『欠片』を集めてください。
主な場所を挙げておきます。いずれかにいずれかの『欠片』が隠れていたり囚われていたりしています。
■西の小屋
煉瓦造りの小屋。屋根の上に黒狼が一頭陣取っています。
小屋の脇には檻がひとつ。檻の周りをぐるぐる巡っては怒り狂って無闇に吼える黒狼が二頭。
■東の小屋
大樹の陰に寄りかかるようにして木造の小屋が一軒。周りには誰も居ないようですが、小屋の中からは少年のものらしい憎々しげな声が聞こえています。
■屋敷
荒れ果てた屋敷内に入れば、黒い腕を数本持つ魔物に捕らえられた少年のものらしい哀しげなすすり泣きが聞こえてきます。
二階建ての屋敷ですが、そう広くはありません。
一階には厨房に食堂と広間、小間使い室兼倉庫が一室ずつ。
二階には寝室が二部屋と客間が一部屋に書斎。
『少年』を捕らえているナニカは、伸び縮みする幾本もの黒い影の腕を操る喪服の女。目元を黒レースのベールで覆っています。笑んだかたちの口元が特徴的です。
甲高い声で笑いつつ、屋敷中に黒い腕を這い回らせています。屋敷に入り込めば、音もなく近寄った黒い腕に引きずり倒されたりするかもしれません。
■果樹園
青々と茂る果樹園には、寝子島ではあまり見かけない果樹が何十本と生えています。うろつく魔物も数は少ないようです。
果樹園の一角には、一本だけ枯れかけた林檎の樹があります。
■向日葵畑
鮮やかに咲く向日葵の群生の中、楽しげな笑い声と茂る葉を掻き分けて走り回る足音がしています。
■水の絶えた貯水池
農場のほぼ真ん中に位置する池から水路が引かれ、農場中の畑に澄んだ水を行き渡らせていました。
枯れた池の底には小屋ほどの大きさの石祠。開いたままの扉の奥は薄暗いですが、ひとの大きさほどの石柱のようなものがあるようです。石柱はよくよく見れば、半透明にも見える石柱の中に動くナニカがたくさん見えます。
石柱を動かせば貯水池は蘇りそうですが……。
■それ以外
井戸や屋敷裏の庭、野薔薇に覆われた休耕畑など。あちこちに黒狼がうろうろしています。
アクションの書き方
オーブに火をともすには少年の『欠片』を屋敷の前に全て集め、ひとりとする必要があります。
少年がひとりになれば、屋敷の扉に埋め込まれたオーブに灯がともり、上階層への扉となります。
※分かたれた少年がひとりとならない限り、ミッションクリアとはなりません。その場合、状況が更に悪化しての第三階層再チャレンジとなります。
……ので、行先の相談くらいはしておいた方が良い、かもしれません。
登場NPC
・『少年』
何らかの力によって心と身体を六つに分けられてしまった塔の住人。麦藁色した髪と眼の少年。
・塔の精霊ステラ
現在所在地不明。
農場内のどこかに隠れているかも?
ご参加、お待ちしております。