【お正月】日が落ちるまで｜リアクション

【お正月】日が落ちるまで

「やっぱり戦略って大事だと思うのよ～」
　岡野丸美は、うんうんとうなずきながら、ちくわ大明神の前にいた。
　横では滔々と魚屋の親戚に説教される巫女さんがいたが、特段気にすることはない。
　パンパンと、二度高らかに手を打ち鳴らし、「ここ用の願い事」をお祈りする。

　今年はまず、どこで願い事が叶うのか、突き止めるのがいいと考えた丸美がとったのは、単純な方法だった。
　思いつく限りの願い事をまず寝子島神社で行い、それから島のあちらこちらで、それぞれ個別に「二度目」のお願いをする。
　叶った願いをした場所が、噂の真相という塩梅だ。

「あとご利益のありそうな場所って、どこかな」
　んー、と丸美は歩きながら、宙を見る。
　寝子島神社を出て、思いつくはしからご利益のありそうな場所をめぐってみた。
　街角の祠。
　耳福池のほとり。
　九夜山のてっぺんに、森の中のしめ縄が張られた大きな杉の木。
　そこで願った願いはどれもたわいもないものばかり。
「今年一年、風邪をひきませんように！」
「おなかを壊しませんように！」
「成績があがりますように～」
「次の席替えで窓際の席になれますように！」

　夕暮れも近くなり、ふらふらと次のターゲットを求め、町中をさまよう。
　ちくわくん☆大明神から先は、ほとんど計画がたっていなかった丸美は、うんうんうなりながら、思案の道を歩んでいた。
「よし、次は学校かな」
　ふわふわとした表情で周囲を見渡し、少女は目に入った建物の影に、そう一人ごちた。

　しばしの後、学校の屋上に、丸美は立っている。
　なんとなく、街を見下ろせるこの場所は、それはそれで願いが叶いそうな雰囲気が漂っていたから、気の向くままにここまで登ってきたのだった。
「お願いはー、ええっとー」
　んー、と首をひねり、さて自分が寝子島神社でお願いした内容のうち、どれを二度願っただろうかと、しばし考え込む。
「んー、しまったなぁ……忘れちゃった」
　ぽりぽりと頭をかきながら、丸美はそんな自分に苦笑する。
　そっとマリーナが遠くに見える、夕日の沈む、海を見て。
「ま、最後だしこれでいいかなぁ」
　いつものように、ゆるゆるとした空気を身にまといながら、丸美は手を合わせる。
「どこが二度目にお願いすると願いが叶う場所か、わかりますように」
　もはやどこでどの願いごとをしたのか今一思い出せないのだが、なんとなく、それはそれでいいのかなぁ、そう思う、丸美だった。

　新年早々、色々と楽しめたし――ね。

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