【お正月】日が落ちるまで｜リアクション

【お正月】日が落ちるまで

　巫女服姿の少女が、接客の対応をしている。
　そんな絵面が発生しているのは商店街の一角、魚屋『魚新』すぐそばに作られた珍スポット――もとい小さな神社、ちくわくん☆大明神であった。
　入江みつびは初詣に朝早く寝子島神社を詣でたのち、そのまま巫女の恰好で、この神社のお世話にかかりきりとなっている。
「2番目を探せって言われても、ここに来ざるをえないのよねー」
　ビンゴだったらびっくりよ、とつぶやきながら、客の切れ間とばかりに一息いれようと、置き去りにしていたお茶をすするみつび。

　そもそも朝に寝子島神社での願い事をするときからして、ざっくりとした検討をしていた少女だったが、結局2番目の場所の選択肢がないという点で、割と適当な感は漂っていた。
　それでもやはり、叶うかもしれないとなるとそれなりには真剣に考えるわけで。
「願い事、かぁ。叶うといいなってのはいっぱいあるのよねー私」
　朝。寝子島神社で思い浮かぶままに願い候補を挙げていく少女。
　素敵な彼氏がほしいでしょ。
　サーフィンがうまくなりたいでしょ。
　ギターももっとうまく弾けるようになりたいかなぁ。
「ボビナムさんも――あ、でもこの辺は全部自分が頑張ればすむからいいか、うん」
　指折り願い候補を数えてはどれにしようかと思案していくみつび。
「あー、でもやっぱり、あれだよね」
　守護霊のネッシーさんに、また会いたいかな。
　言葉にはせず、それでも「うん、それにしよう」、と素直に思えるくらい、すとんと落ちた、その願い。
　二度たたく柏手の残響を耳に残しつつ、少女は静かに願い事を心中で唱えていた。

　――そして今。
「二つ目を夕方までにっていっても、ここのお手伝いがあるから探しにいけなかったのよねー」
　まぁ、だめもとだめもと。ネッシーでてこーい、っと。
　簡単に手を合わせて心の中で願いを紡ぐ。そんなみつびの背後で、「すみません～」と声がした。
「あ、はーい、おみくじですねー。お、お守りもですか。ありがとうございますー。今年もあなたにとって良い年になりますようにー」

　ぱたぱたと忙しくしている少女。ある意味新年ではあるものの、掃除をして、おみくじの番号を聞き、お守りを手渡して、といつものフツウの日常へと戻ってきている。
「あ、お守りの在庫たりないわ」
　でも今ちょっと手がはなせないのよね～。
　もらったお金を数えつつそうぼやいた少女。ふといいことを思いついたというかのような顔をして、すぐそこの地面においてあった段ボール箱のふたを、足で開けだした。
　その中にそもまま足を突っ込んで、ごそごそとしている少女。
「おいこら、何やってんだ罰当たり」
　どうやら足でお守りを取り出して、補充してやろうとの算段だったのだろう。だがそこを、たまたま通りがかった魚新の親戚に見つかってしまったようだった。
「あ、ごっめーん」
　はいはいバチあたりですよー。
　悪びれる様子はまるでない、謝罪の後の呟きが続く。まだ相手が何事かわめいていたが、それに対しても、「わるーございましたー」と、反省の色をまったく感じさせない声で返した少女は、ふと、神社の方を見る。
　脳裏に浮かぶのは、水の中で見た、あの守護霊。
　苦しさのあまりの幻想だったのかもしれない。でも意識がはっきりしても、あの守護霊は寄り添ってくれていたのだ。
　幻とは、思い難い。
「また、会いたいよねー」
　小さな声の呟きは、だれにも聞こえることがなく――ただ、夕日が建物の向こうに沈んでいくのを見上げ、みつびはほんの少し、あの緑の巨大な生物へ、思いを馳せるのだった。

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