悠久の時の彼方へ～信州に真田あり｜リアクション

悠久の時の彼方へ～信州に真田あり

　天正13年8月2日。上田城に篭る真田勢は、徳川軍を迎え討つ準備を済ませ、朝を迎えた。
「狙撃に専念したいんで、弾込め役と目の良い奴を一人貸してほしい」
　夜海霧楓は、夜明けとともに火縄銃を担いで櫓を登っていった。
「こんな所に登っても、火縄銃の弾なんぞ遠すぎて当たりませんぞ」
　ついてきた弾込め役の雑兵の言葉に、楓は答える。
「弾の届く距離を十分に伸ばしてあるから平気だ。高所で、射程外から敵将を狙い撃ちするから意味があるのさ」
「敵将を狙うですって！」
　驚くのも無理はないか。だが、遠距離狙撃のできる武器が発達していない時代だからこそ、指揮官は目立つ位置に出てこられる。大将の目星をつけたら狙い撃ちだ。
「よほど鉄砲の腕に覚えがあると見えますな。貴殿は雑賀衆あたりと関わりでも……？」
「うーん、そうだな……。戦争屋っていう認識では間違っちゃいねーな。よし、この位置がちょうどいい」
　楓は従者たちと言葉を交わしながら、最も良く敵軍を見渡せる場所に腰を落ち着けた。
「未来の八咫烏の戦い方をご覧あれ、てか」

「過去に行くの、地味に楽しみにしてるのよね～、いろんな戦いができて修練になるし」
　上田城の東の城門が、徐々に開かれていく。真田勢の先頭には、ふた振りの金砕棒を背中にしょった尾鎌蛇那伊の姿があった。
「命のやり取りをしていることは、忘れてないけど。ね、刀ちゃん？」
　御剣刀も、同じく武闘派として前線で白兵戦に挑む。
「ああ。だが、気を付けないとな。大切なのはあくまで敵を釣りだしたあとの反撃だ。最初に深追いしないことだ」
「ふふ、そうだったわね。勢い余って敵陣を突っ切らないようにしないと」
　戦いを前にして、蛇那伊は呼吸を整えた。集中して気を練り、練った気を全身に巡らせる。火照った全身はまもなく戦闘モードに切り替わった。
　物見櫓の鉦が、けたたましくかき鳴らされた。徳川軍が城下町に到達した報せである。
「かかれ！」
　号令一下、真田軍の釣りだし部隊は雄叫びをあげて城外に打って出た。