悠久の時の彼方へ～信州に真田あり｜リアクション

悠久の時の彼方へ～信州に真田あり

鈴野海斗は、真田昌幸の前に進み出た。
「我が軍の勝利でございます。勝ち鬨をお願い申しまするっちゃ」
「―――うむ」
　昌幸は前に出て、結集させた真田勢がよく見える位置に立った。その表情は、不思議と穏やかで、満足気なものだった。
「此度は、信之・信繁はじめ家中の者たちはよく働いた。予期し得ぬ事態を見たが、同時に予期し得ぬ客人が訪れ、難局を乗り切ることができた―――戦とは、何とも不可思議なものよ」
　全軍の勝ち鬨が、力強く晴天に響いた。

　役目を終えた八神修は、築地哲のところにいた。
「真田は、実は好きな武将の一人でさ。昌幸や信繁と関わりを持てて、嬉しかったよ」
「僕からも、感謝するよ。今回の事態は、僕としても不覚だった」

「築地さん。ご挨拶遅れました。明けましておめでとうございます」
　続いて、哲に声を掛ける者がいた。振り向くと、クルジッカ・ヘルマゴルが微笑んでいる。
「……そうか、君たちの時空は正月か」
「新年早々、大仕事でしたね。今年も、歴史を守るために頑張りましょう」
「ありがとう。毎度迷惑をかけるね」
　哲は若干口角を上げ、視線を落とす。
「気にしないでください。ちなみに、あれから〈マダム〉について何か分かりましたか？」
　クルジッカの質問に対し、哲は少々眉根を寄せた。
「相変わらず暗躍が得意だが……監視をすり抜ける手口が、更に巧妙になった気がする」
　クルジッカは続けて、少しだけ顔を近づけた。
「また質問です―――もし〈マダム〉を倒せたら……その後哲さんはどうしますか？」
「……」
　この問いは、彼の予期しないものだったらしい。少しの沈黙のあと、彼は答えた。
「……あまり考えたこともないし、考えようともしなかったが―――その後は、僕の仕事は終わりになる、かな」
　それ以上の会話はできなかった。その時ちょうどクルジッカの体に、現代に戻る時のいつもの感覚が降ってきたからだ。

　戦国時代で過ごした奇妙な時間は終わり、もれいびたちの生活はすべて元通りになった。第一次上田合戦についての、歴史の記述はそのままだろう。
　だが、本に書いてある歴史がすべてとは限らない。もしかしたら、上田城にいた「霧隠才蔵」や、「花の舞姫」や、「八咫烏」の記録がふとした弾みで出てくるかも知れない。彼らはそんな期待を持って、歴史の本を手に取ってみたりするのだ。

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あとがき

担当マスター：三城俊一
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皆様、今回もご参加ありがとうございました。

今回は、大河ドラマに乗っかる形で真田家を取り上げましたが、いかがでしたか？
真田信繁（幸村）は第一次上田合戦時には人質として出されており、参加していないというのが通説でした。
しかし、最近になって下記のような説も出されています。

「真田幸村、初陣は第１次上田合戦？新説浮上、大河も描写」（外部リンク）
http://www.asahi.com/articles/ASJ3Y3PM9J3YUOOB003.html

せっかくなので、「こんな歴史の解釈もあっていいんじゃないか？」と思って信繁もいたことにしました。
広く信じられていた学説も、時代とともに変わったりします。その辺りも、歴史を扱う面白さだと思います。

それでは、次回のご参加をお待ちしております。

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