悠久の時の彼方へ～信州に真田あり｜リアクション

悠久の時の彼方へ～信州に真田あり

「あくまで、私たちは影……歴史の道理に沿って進むよう助力をいたしましょう」
　常闇月の姿勢はあくまで控えめで、差し出がましさがない。彼女がはじめに向かった先は、鈴野海斗のところだった。
「―――鈴野さんはこういった状況では心強い印象があります。歴史的観点を踏まえ、どういった戦法がいいかを相談しておきたいのです」
「ありがたい言葉だけんど、今度もやることは変わんねぇ。史実以上にも史実以下にもしねえつもりだべ。……作戦は、八神さんとも確認したけども」
　海斗は、傍らの八神修を見た。
「まず、史実通りに敵を城に入れ込む。それから銃兵隊で攻撃するべ。装填時の足止めは長槍隊に担当させる」
「誘い込めそうな狭隘地は調べてある。その周囲の屋根や建物から、四方から撃つんだ」
　修が続けて説明した。
「ただし、味方の分散は最低限にしたいから、堀とそれにつながる最後の直線道を主要な罠にしたい。常闇には、誘い込みを頼めるか」
　月は、修の依頼を快く引き受けた。
「ええ、喜んで。しかし、一つ試しておきたいことがあります」
「……それは一体？」
「藁で作った人型の人形を、操作できるか確かめたいのです」

「自分にできること、か」
　卯木衛は、腕組みをして自分の力の役立て方を考えた。
「荒事は普通の喧嘩程度でしか立ち回れねえし、それなら忍隊に入れてもらって、情報収集と伝達に努めよう」
　真田といえば、講談や小説の世界に出てくる忍者のイメージで有名だ。ろっこんを使った跳躍も、きっと役に立つだろう。

　衛の跳躍力を見た真田昌幸は、満足そうに頷いた。
「これなら、間者の役目にも耐えるであろうな。一つ、我が忍隊とともに敵情を見てきてもらおうか。……お主、名は？」
「俺の名は……『霧隠才蔵』、だ」
　衛の答えた名は、後に「真田十勇士」の一人として人気を集める忍者の名前だった。この時点では知られていない名前だから大丈夫なはずだ。
「よかろう。霧隠才蔵、上田城東南に着陣した徳川勢の様子を見て来い。明朝に総攻撃開始との報せが本当か、確かめねばならん」
「はっ！」
　霧隠才蔵こと卯木衛は、言うが早いか勢いよく城外へ駆け出した。

　夕刻、昌幸は放った間者たちの報告を、一人一人こと細かに聞いていた。敵陣近くから視認された、陣形の再編や兵糧の支給などの情報を得ると、昌幸は静かに、しかし確信した口調で宣言した。
「総攻撃は明朝で間違いない。今一度、支度が整っているかを確かめよ」