悠久の時の彼方へ～信州に真田あり｜リアクション

悠久の時の彼方へ～信州に真田あり

　その時だった。鋭い破裂音が響くとともに、数名の歩兵が倒れた。
　鈴野海斗が配置した鉄砲隊が、徳川勢の先鋒に火縄銃を撃ちかけたのだ。
「小癪な！」
　前線の指揮を執る足軽大将は、冷静に前進を命じた。鉄砲隊による待ち伏せなど、十分に想定している。大将は、今の射撃が各個独立で撃っていることを見抜いていた。火縄銃は弾込めに時間がかかるので、今のうちに突撃すれば相手の隙を突けるはずだ。だが、大将の算段はまもなく外れた。
「長槍隊、出るっちゃ！」
　海斗の号令とともに、待機していた農民主体の長槍隊が突きかかった。リーチの長い長槍ならば、戦闘能力に劣る農民兵でも、十分に相手を足止めできる。
　長槍隊が時間を稼いでいる間に、鉄砲隊は弾込め作業を終えた。
「撃つべ！」
　長槍兵の相手をしている今回の方が、徳川勢は的になりやすかった。
「銃を置け、抜刀！」
　先頭が崩れた隙をついて、今度は鉄砲隊に抜刀させ、斬りかからせる。しかし、海斗は熱くなることはない。
「下がるべ！」
　ある程度の敵が倒れたと見るや、海斗は攻撃をやめて後退を始めた。先鋒を少々足止めしたところで、徳川勢は次々と押し寄せてくる。敵は確かに身体能力が高まっていて、なかなか傷を負わせられない。敵を、更に効果の大きい罠に誘い込まなければならない。

　城下町の外の小高い丘にたどり着いた卯木衛は、身軽さを活かして木に登り、戦況を俯瞰した。
「あいつら、相手を見くびって精鋭を後方に温存してやがるな」
　敵への手出しはせずに、なるべく詳細な情報を集める。そして、出撃を控えた戸石城の真田信之に、有益な情報を持っていくのだ。
「―――よし」
　衛は木から飛び降りると、上田城の北東、戸石城に向かって走り出した。