天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

天界ビーチ『クレセントムーン・サンセット（４）

「ふわぁ……！」
　いつものごとく無表情ではあったが、少なくとも心の中では、ロシィ・イシロは天界の光景を大いに楽しんでいる。
「お月さまきれい！　お月見したいぞー！」
　無論、お月見団子食べたい！　の意味ではあったが。
　美しい三日月、美しい海と砂浜、そして何だか周囲に響き渡る、楽しく賑やかな音楽。表情はさておき中身は年相応の少女であるロシィが、舞い上がらないはずも無かった。
「あれ？　あっちから、なにかくるぞ」
　にゃん♪　にゃん♪　にゃんにゃかにゃん♪　やってきた一団に、ロシィの瞳はますますもって、きらきらきら！　輝き始めた。

　　　　　　　　　　　　　　　　♪
　　　　　　　　　　　　　　　　　にゃーにゃー
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　みゃーみゃー
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ねこだらけー！
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　♪

　たくさんのねこたちを引き連れ、にゃーにゃーみゃーみゃーと大行進！　先頭を行くのは、恵御納夏朝だ。彼女もまた、いつもはあまり感情が表に出ないタイプではあったが、
「うんうんっ、みんなその調子……！　にゃーにゃー、みゃおー♪」
　大好きなねこに囲まれて、満面の笑み。左手のねこパペット、ハルくんもぱくぱくぱくと口を動かし、絶好調だ。
「うっわー、気っ持ちいいー！」
　じゃららららん♪　軽やかな音色に頭上を見上げれば、雨寺凛が、純白の翼をひと打ち。三日月をバックに、得意のギターをかき鳴らしている。
「私、天使の羽で自由に空を飛ぶの、夢だったんだー♪」
　すいすいと空を飛びながら、じゃららん、じゃかじゃかじゃん！　実に、ノリノリだ。
　夏朝＆ねこたちの頭上へ、ふわりと凛は舞い上がり、
「さあさあ夏朝ちゃん、ねこさんたち！　もっともっと、盛り上がってこー！　それーっ♪」
「うんっ、雨寺さん……みんな、もっともっと楽しく！　賑やかに、いくよ……！」
「「「がってんニャー！！」」」
　にゃーにゃーみゃおん、じゃららんらん！
　うずうず、むずむず。そんな光景を目の前にしてしまったなら、ロシィもまた、黙って眺めていられようはずもない。
　どうやら一団は、『歌う鈴』なるものを砂浜で探しているようだ……そうと聞けば、さっそくロシィも声を上げた。
「よーし、ロシィも手伝うぞ！」

　がるるー！　とひと鳴き。ロシィが狼犬の子どもへと姿を変えると、その背中にはぱたぱた、小さな翼が生えている。
「オオカミさんが一緒に探してくれるのニャ、これは心強いニャ！」
　すんすんと鼻を鳴らして、砂浜を探し回り、時にはふわりと宙を飛んだり。
　先を行くロシィに続き、夏朝とねこたちが、にゃーにゃーみゃーみゃー。
「どのあたりに落としちゃったのかな……？　早く、見つけてあげたいね……」
「ビーチは広いからニャー。でもこんなにいっぱい手伝ってくれてるから、きっと見つかると思うニャ」
「うん、頑張ろうね……！」
　その頭上では、凛がギターを奏でつつ、周りをぐるりと見渡して、
「うわぁ……あっちでも、こっちでも、みんな歌ったり演奏したり……楽しそうにしてるなぁ♪」
　石の欠片を手に入れるため、という理由はもちろんあるにしろ。何しろせっかくの天界、この美しい風景だ。思う存分楽しんだって、誰も文句は言わないことだろう。
　がうがう、にゃーにゃー！　みゃあみゃあ、じゃららららん！
　…………りりりん、りりん！
「あ……何か、聞こえるよ！」
　歌と音に応えるように、遠くのどこかで、澄んだ鈴の音が鳴るのが聞こえた。