天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

大悪魔『オー・グイン』（４）

「お前らァ、絶対食ってやるぞォ……！」
　溶岩石をやすやすと砕くナイフの一撃を、八神修は羽ばたいてひらりと避け……弾け飛んだ岩のひとつを、空中で分解。
「……これでも喰らえ」
「もがぁ！？」
　射出し、大口の中へ放り込む。反撃のフォークは、くるりと後ろへ反転して潜り、避ける。翼を使っての飛行は意外に難しく、自在に飛ぶには至らないまでも、目端の利く修にはこの程度、お手の物だ。
「真央、追い打ちを！」
「おっけーバッチリ任せるのだ修ちゃん！」
　後木真央は、そのへんに落ちているテキトーな石ころやら草やらを、ナイスコントロールで、しゅば、しゅばば！　次々に、オー・グインの口の中へと投げ込んでいく。
「むぐぐぐ、こんなモンばっか食わせやがってェ、お前らの魂食わせろォ！」
　ちなみに真央は、かつて悪魂石の欠片をぱくりと飲み込み、腹の中で見事白魂石へと熟成してみせた、その先駆者としての自負……とかなんとか、だろうか？　大食い悪魔には何やら、対抗心のようなものを燃やしているようで、
「フッ……真央ちゃんですら石のひとつくらい飲み込んで見せたのだ、大悪魔とか名乗っておきながらそのくらいも食べられないのだ？　恥っずかしいのだ～」
「む、ムッカァ～！！」
　いちいち煽りを入れるのに余念がない。
「真央、あまり深入りするな。隙を見て火山へ向かうぞ」
「ハッ、そうだったのだ！　せっかく真央ちゃんが浄化した白魂石、悪魔に取られるとか許しがたしなのだ待てマテまてなのだー！」

　魔界や悪魔といっても、ここは弱肉強食がまかり通る世界。必ずしも、それらが一枚岩であるというわけでも無いようだ。
「ちっ。大悪魔さんは、いつも美味いモンが食えてうらやましいこった」
「俺たちにも、少しくらい回してくれねえかなあ」
　力も無く、そして大物に追従するほどの卑屈さも無い小悪魔などは、美味なる魂にもありつけず、大悪魔の陰に隠れて、底辺を這いずるばかり。
「ほんとほんと、ムカツクんよー！」
　そこに目を付けたのが、霧谷朧であった。するりと小悪魔たちの懐へ潜り込み、彼はすっかりその場に溶け込んでおり、
「おっ、新入りもそう思うか？」
「うんうん。だからさぁ、イタズラしてやらない？　なーに、ちょっとしたストレス解消さね」
　ケタケタケタ。笑う朧の表情ときたらまさしく、悪魔的と表現するにふさわしいものだ。
「イタズラって、何すんだ？」
「そうさね。たとえばあのナイフとフォークに、タバスコ塗りたくってやるとか。そうそう、人間の世界には、シュールストレミングとかマーマイトとか、すっごいマズかったり臭かったりする食べ物があるんだとさ。そういう、魔界産の強烈なヤツを塗りつけてやれば……」
「おお。そいつは面白そうだぜ！」
「それなら、アレが良いんじゃないか？　あそこの溶岩湖のほとりに生えてる枯れ木になってる、あの実とか……」
「ああ、あのスッゲーマズイ実な！　アレをつぶして塗りたくってやりゃあ……クックックッ」
　と、どうやらかなり鬱憤が溜まっているらしい小悪魔たちもノリノリで、朧はにんまり。ほくそ笑んだ。