天使と悪魔のロマネスク｜リアクション

天使と悪魔のロマネスク

大悪魔『オー・グイン』（２）

　するりとフォークの一撃を避けたところで、
「おォりゃァ！」
「うぐ」
　どがん、とナイフの峰で一撃されたシダは吹き飛び、背中を溶岩石の壁へ叩きつけられる。岩は砕け、シダはずるりと地へ沈み込む……が、すぐにも。
「……でかいやつ　うれしい　シダ」
　顔を上げれば、楽しそうな笑顔。
「ボビナム　ちいさいベトナム人　大きい相手　倒すため出来た」
　シダの使う武術、ボビナムはまさしく、小柄な者が体格に勝る相手を打ち倒すために編み出されたものだ。目の前の巨体など、日頃の鍛錬の成果を試すには、格好の相手ではないか。
「シダ　人なかでは大きい方から　自分より大きい敵　ためす機会なかった　今まで　だから　たのしい　うれしい」
　踏み込む軸足は、岩盤が砕けるほど。翼を広げて飛び上がりながらに、シダは喜々として、
「ボビナム　梃子原理　大きい敵　倒す　そこ　攻撃！　シダ　ダダ　ダダダ！！」
「ぐェ、うェッ？」
　空中から鋭く繰り出す前蹴り、後ろ回し蹴り、続く神速の連打。
　翼を打って直下へ反転、巨体を支える太い脚へ両足で組み付くと、宣言通り、
「ぬ、お、お、おおお……」
　重心を崩せば、オー・グインは、ずずん！　地へとひっくり返った。
　追撃をかけるのは、マリナ。
「ＪＥＴ！！」
　叫ぶたび、マリナの身体の各所にはスラスターが展開し、繰り出すは得意の三次元高機動戦法だ。
「さぁて。ドッグファイト……Startデスッ！」
「うぐェッ！？」
　地面へ転がった巨体を、スラスターの推力を乗せた蹴りでかち上げ、空中へ。背中の翼と併用し、マリナは飛翔しながら宙を駆け、間髪入れずに多方向からの打撃を叩き込む。
「ＪＥＴ！　ＪＥＴ！！　ＪＥＴォッ！！！！」
　インパクトの瞬間、肘に展開したスラスターを全力噴射、どてっぱらへゼロ距離で突き入れた拳の一撃は、パイルバンカーのごとし！
「寝子島でなら、うちのパンをゴチソーしたいですが……今は腹パンで、ソーリー！」
「ぐぐぐ、お前らァ……」
　鈍重そうなオー・グインもいささか頭に来たようで、ぎりと不揃いの牙を剥き出しにし、吠える。
「食らいやがれー、デスッ！」
　そこへ、放物線を描いて放り込まれたキュルビスのカボチャ攻撃は、一見場違いなほど穏やかに見えた……が、大食漢な悪魔には、これを見過ごすことはできなかったようだ。
「食い物ォ！　オラ、食えば食うほど強くなるんだァ。いただきまァー……」
「……そこだぜ！！」
「ぐへえッ！？」
　ぷすりとカボチャへフォークを突き刺し、口へと運ぼうとしたところが、鴻の狙いだった。彼の強烈なキックが、フォークの柄を思い切り蹴り上げたのだ。当然、鋭い先端は大口の中へと突き刺さり、
「い、いでェーーーッ！！　お、お前らァ、何てことしやがるんだァ。食うのを邪魔されんのが、オラは一番ハラァ立つ……ふが！？」
「よう。ちょっと思ったんだがな」
　隙を突き、鴻は巨大フォークの柄を掴んで引っこ抜きつつ。
「このでっかいの、良く見りゃブタみたいだしよ。食えるんじゃねえか？」
　悪魔もさすがに、ぞくりとしたかもしれない。見れば相対する小さな彼らは揃って、だらーり……とびきりのご馳走を見つけたとばかり、涎を垂らしていたので。
「これ以上邪魔されても面倒だし。解体して、焼いて食おうぜ！」
「……ぶひィーーー！？」