【連司と子どもたち】

「『メイちゃんのめがね』！！」
　野太く、力強くタイトルを言い放った鯖江 連司に、子どもたちは、びくりっ！　見守る親御さんたちもひそひそ、この人大丈夫かしら……？　何かアブない人じゃ……なんて、ささやき声も聞こえてきます。
　それはさておき、連司といったら、眼鏡！　めがね、メガネであります。
「『メイちゃんはめがわるくて、ものも、ひとのかおも、ぼやけてよくみえません。おかげでいつもしっぱいばかり、おともだちともなかよくあそべないことを、メイちゃんはかなしんでいました』　……ああ、なんたる悲劇でござろうか！」
　子どもたち、びっくん！　親御さんたち、ざわざわざわ。
　でも子どもって案外、何だか良く分かんないものを見ると、返って食いついてきたりするものですよね。今のところは泣き出すような子もおらず、これが意外と、興味を持ってもらえているようです。
「メイちゃんは、ぽつりとつぶやいたござる。『ひとりぼっちじゃ、つまんない。わたしもおともだちと、いっしょにあそびたいよう』」
　えらく野太い声のメイちゃん、けれどその絵は大変に可愛らしいもので、子どもたちも次第に、メイちゃんを応援してあげたいという気になってきたようです。
　男の子がふと、言いました。
「メイちゃん、めがねかけたらいいのにね？」
「ヌオオオオッ、それでござる！　それでござるよー！！」
　びく、びくん！　やっぱりちょっと、というか割とドン引きですけれど、連司は気にしません！
「『ある日、おとうさんにめがねをかってもらったメイちゃんは、びっくり！　いままで見えなかったものが、はっきりくっきりと見えるようになったのです。メイちゃんはかんどうして、言いました』『せかいって、こんなにすてきだったんだね！』」
　ぱらりとめくった次のページでは、やたらに描きこまれてリアルな眼鏡をかけたメイちゃんが、お友だちと仲良く遊んでいるところ。
「『メイちゃんはめがねをかけて、おともだちとたのしくあそべるようになりました。それをみて、ちょっぴりいじわるな子が、メイちゃんのめがねをバカにしたりもしましたけれど』　……天誅ーーーッ！！」
　びくびく、びっくん！　親御さんたち、がたがたがたん！　大きな声にひっくり返りました……けれど次の瞬間には、打って変わって、連司はヌフフ。にっこり！
「『めがねをバカにした子にはてんばつがくだり、メイちゃんはおともだちとなかよく、まいにちをしあわせにくらすことができるようになったのでした！』　眼鏡は、目が悪い人にとって、とても大切なものなのでござる。貴殿らにも、このお話で、それを分かってもらえれば嬉しいのでござる！」
　子どもたちの中にも、眼鏡をかけている子はいるのです。気付けばその瞳は、レンズの奥で誇らしげに、きらきらと輝いておりました。



【小萩と子どもたち】

　『眼鏡さん教団布教用パンフレット』なる冊子を配り、いよいよもって親御さんにドン引きされている連司を眺めて、本条 小萩は思ったということです。
（……『ko-ha-gy 眼鏡モード』！　アリかもしれません！）
　連司の絵本が天啓を呼び込んだ……かどうかはさておき、お次は小萩ちゃんの出番であります。
　がららっ！　と扉を開いて小萩が飛び込みますと、子どもたちの顔は、ぱああっ……！　一斉に花咲きました。
「さー、『こはぎちゃんはおおいそがし！』　の、はじまりはじまりです！」
　くるくるくるん、びしっ！　ポーズをつけた小萩は、いつぞやの演劇祭でのふりふり、ひらひらなコスプレ姿での登場！
　ちなみに絵本の正式名称は、『スーパーレジェンド伝説ko-ha-gy　ダイジェストえほん　ある日のko-ha-gy』です。
「『こはぎちゃんは、ごくフツウの女の子。でも、ほんとうは……ふしぎな力をつかえる、まほうつかいなのです！　今日もまた、まちではこまっている人たちが、こはぎちゃんのたすけをまっています。こはぎちゃんはさっそく、まほうの力でそらをとび、かけつけるのです！』」
　ページをめくるたび、小萩はしゅば！　ずば！　絵本の中で活躍するこはぎちゃんと同じポーズをキメて、くるくるくるりん。何とも楽しい、読み聞かせの枠を超えたパフォーマンスに、子どもたちも大興奮！
「『こはぎちゃんはあっちへとんでいっては、おじいさんのおもたいにもつをもってあげたり。こっちへとんでいっては、わるいひとをまほうでやっつけたり……まちには、こまっているひとがたくさんで、もうたいへん！　それでもこはぎちゃんは、にこにこ笑って、みんなのためにがんばっちゃうのです』」
「こはぎちゃん、すごいねー！」
　女の子の満面の笑みには、小萩も、ぱっちん！　ウィンクをとばして、
「『こはぎちゃんはいつだって、おおいそがし！　それでもこはぎちゃんはえがおで、きのうもきょうも、あしたもまちじゅうをとびまわって、こまっている人たちをたすけてあげるのでした……！』」
　一生懸命絵を勉強して、まんがを描いてきた小萩のこれまでの経験が、確かに、この絵本の中には息づいているのでしょう。こはぎちゃんは活き活きとして、女の子たちの憧れの眼差しを集め、ド派手なアクションシーンには男の子たちが、揃って拍手！
　それに応えるように、小萩はきらきら、きゅぴーん！　ポーズをキメッ！
（こんなに小さなお子さんたちまで虜にしてしまうなんて。ふふー、また小萩のファンが増えちゃいましたね！）
　目いっぱいにこの時を楽しむ小萩の姿勢は、きっと子どもたちにだって、ばっちり伝わっていたことでしょう。