読み聞かせ会、当日。こばと幼稚園の教室には、わいわい、ざわざわ……たくさんの子どもたち！　この日を楽しみに待っていたという子も多いそうでして、わくわく、純真無垢な瞳を輝かせています。
　それに後ろのほうには、付き添いの親御さんたちや、先生たち。寝子島高校の司書教諭、早川 珪も顔を出して、にこやかに様子を見守っております。
　司会を務める日野 満が子どもたちの前に立って、始まりを告げました。
「良い子のみんな、こんにちは！　今日はこれからみんなに、お兄さんやお姉さんが素敵な絵本を読んでくれるから、いっぱい楽しんでいってね。それじゃ、始めるよー！」
　わー！　ぱちぱちぱちぱち！　たどたどしく叩く拍手は教室中に広がって、手を振って出ていく満と入れ替わりに、トップバッター、ロベルト・エメリヤノフが姿を見せました。



【ロベルトと子どもたち】

（幼稚園児……は、うん。そんなに守備範囲じゃないよね。でも綺麗な原石を探すのには、なかなかいい！　今のうちに仲良くなっておこうフフフ……）
　なんて、内心ちょっぴり不純ではありましたけれど。もちろん絵本作りには本気で取り組みましたし、子どもたちの前でそれを広げる頃には、そんな邪念はさっぱりと消え去っておりました。
「さあ、それじゃおはなしを始めるよー。タイトルは、『子猫のリーリオ』！」
　ぱら、と広げたページの中には、色鉛筆の淡い色彩で、生き生きと可愛らしく描かれた主人公、子猫のリーリオが、賑やかな街並みを駆けています。
「『リーリオは、とってもやさしくてかしこい子猫。ふるさとのまちには食べものもいっぱいあって、お父さんとお母さんにかわいがられて、リーリオは楽しく、幸せにくらしていました……けれど、リーリオにはひとつだけ、どうしてもほしいものがありました』　ねえみんな、それって何だと思う？」
　ロベルトはお話の中で、何度も子どもたちをぐるりと見回しては、彼らが退屈しないようにと、呼びかけることにしました。
　小さな男の子が、くりんと首をかしげて、
「……おともだち？」
「そう！　リーリオには、仲の良いおともだちがいなかったんだね。『リーリオはある日、まちのまん中にたっているおしろのまどから、このくにのお姫さま、ローザがかおを出しているのを見かけました。ローザはなんだかさみしそうで、かなしそうに見えました……なんと、お姫さまは、おしろをのっとったわるーいお化けに、とじこめられていたのです！』」
　黒い色鉛筆で描いた、おどろおどろしい……と言っても、大人たちの目にはコミカルに見えましたけれど。お化けの姿を見るなり、子どもたちは、ふわー！？　なんて声を上げました。
「おひめさま、かわいそう……」
　ちょっぴり潤んだ女の子の瞳に、ロベルトは、ぱちり！　ウィンクひとつ。
「大丈夫！　そう、リーリオの出番だね！　『やさしい子猫のリーリオは、かなしそうなローザをたすけてあげることにしました。けれど、お化けはとってもつよそうで、小さなリーリオには、とてもかてそうにありません……』　このあと、どうなっちゃうと思う？　さあ、みんなでリーリオを応援してあげてね！」
　賢い子猫のリーリオは一計を案じて、お化けとの和解案を提案し、やがて見事にお姫様をお城から解放します。
　お姫様は子猫をぎゅうっと抱き締めて、
「『ありがとう、リーリオ！　ね、私たち、これからずーっと、お友だちよ！』　……めでたし、めでたし！　みんな、楽しんでくれたかなー？」
　頼りになるお友だちを得て、仲良く冒険の旅に出るリーリオとお姫様を見送りながら、子どもたちは口々に、たのしかったー！　そう言ってくれました。



【虹子と子どもたち】

「うふふ。皆さまこんにちは♪　私は、毒島 虹子ですわ」
　ぺこり、と優雅に、上品な仕草で一礼。こんにちはー、と揃って言った子どもたちへ、虹子はふんわり、素敵な笑顔。
　取り出した絵本には、特に女の子たちから、わぁ……！　かわいいねー！　なんて声が上がります。鮮やかに描かれた可愛らしいイラストもさることながら、装丁も凝った作りで、重ねたページを結わえてあるのは、紐代わりのレースです。
「皆さまには、将来の夢がありますか？　大人になったら、何になりたいですか？」
　表紙にはひらがなで、『おとなになったら』。
「もし自分が大人になったら、こんなお仕事をしてみたいな！　そんな風に想像しながら、お聞きくださいね」
　ぱらりとページを開くと、リボン状に結んだレースがふわりと揺れて。最初に現れたのは、ひらひらのチュチュを着て華麗に踊る、バレリーナ。
「『バレリーナは、バレエをおどる人。すてきなおんがくにあわせて、とんだりはねたり。スカートふわり、とってもきれい！』」
　踊り手は何やらピカピカとメタリックなドレスを着ていて、虹子はイラストならではの鮮やかな色合いを表現。目を惹く色彩に、子どもたちの目は、釘付け！
　続いてのページには、花柄の制服と制帽を身に着けた、警察官。
「『おまわりさんは、みんなをまもる人。でも、わるい人をつかまえるだけじゃないよ。みちにまよったら、おまわりさんにきこう！』」
　その後も、ページをめくるたび、現実にはありえないような、けれど楽しくて派手な色合いの制服を身に着けた人々が現れては、そこへと虹子の紹介が添えられます。
「『のうかの人は、みんなのごはんを作ってくれるよ。ごちそうさまのあとは、のうかの人にも、ありがとう！』」
　真面目そうな眼鏡の女の子が、うんうん、とうなずきます。
「『でんしゃのうんてんしは、みんなをとおくにはこんでくれるよ。ひこうきのパイロットは、うみもやまもひとっとび！』」
　生意気そうな男の子が、ぽかんと口を開けたまま、羨望の眼差しで見つめています。
　そうしてひとつひとつ、可愛らしいイラストとともに、いろんな職業を紹介した後に。虹子はぱたんと絵本を閉じて、やっぱり、ふんわり……とっておきの、笑顔！
「皆さま、将来はこんなお仕事をしたい！　そんな風に思えるものは、ありましたか？　世の中には、今ご紹介したものだけではなくて、たくさんのお仕事があるんです。ご自分にとって、一番の夢を探してみてくださいね」
　はーい！　なんて元気いっぱい、お返事した子どもたちの中には、もしかしたら虹子の絵本がきっかけで、将来の道を決める……なんて子だって、いるかもしれません。
「もし、そうなったら……ふふ。素敵なことですわね♪」