楽しい絵本の読み聞かせ会｜リアクション

楽しい絵本の読み聞かせ会

【サキリと子どもたち】

「じゃ、始めるよ。『サンマ王伝説』！」
　サキリ・デイジーカッターが、ぱ、と掲げて見せた表紙に、子どもたちの反応はと言いますと、
「……？　？？」
「これ、なーにー？」
「サンマさんとマンボウくんだよ」
　ぺったん、切り絵を張り付けて作った絵本は、サキリの刃物さばきもあり、製本も含めてなかなかにクォリティの高いものではありました……けれど、肝心要の絵心がどうにも、いまひとつ。へろへろの棒っきれのようなサンマさんに、ぐんにょり潰れたお饅頭のようなマンボウくんは、何ともシュール！
　と言っても本人、大マジメ。子どもたちの当惑をよそに、さっそく読み聞かせを始めます。
「『ゆうかんなサンマ王は、おとものマンボウくんをつれて、今日もぼうけんのたびへとでかけます。山をこえ、川をわたり……そしてふたりは、おおきなみずうみのそばで、ふしぎなものを見つけました』」
「？　これ、なーにー？」
　現れたのは、へろっへろに折れ曲がった、出刃包丁のようなナニカです。
「『わあ！　これは、せいけんニャクスカリバーだよぉ～』『オレさまにふさわしい剣だな！　よーし、ぬいてやるぜ～』」
　聖剣！　ナニカは、石に突き刺さった剣でした。そんなスゴイものにはちょっと見えませんけれど、サンマ王はうにょーんとやけに長く伸びた両手でもって、がっしとその柄をつかみ、引き抜きます。
「『……その刃は、うつくしくなめらかな虹色にかがやき。その切れあじは、ドラゴンのうろこもかんたんにきりさいてしまうするどさ。サンマ王はせいけんを手に、いざ、ドラゴンたいじへ！』」
　ぱらり、ぱらり。サンマ王は勇ましく剣を振るい、現れる怪物たちをばったばった！　薙ぎ倒していきます。戦闘シーンや刃物の説明だけ、やたらに力が入っていたりしますけれど、そこはまさしくサキリ流。シュールな絵柄もいつしか持ち味となり、特に男の子たちなどは、臨場感バリバリな語り口に、大興奮です。
「がんばれー、サンマさん！」
「あっ、マンボウくんがきぜつした！」
　そんなこんなで冒険は続き、どう見てもボロ切れをまとった浮浪者、といった佇まいの賢者に助けられたり、異世界からやってきたクリーチャーかエイリアンのような、その名もドラゴンクローネを打ち倒したり。やがて、ひっちゃぶけた紙コップ……のような秘宝、リッカルドの聖杯を取り戻したふたりは、意気揚々と王国へ凱旋！
「『こうしてネコジマには、へいわがもどったのでした。めでたしめでたし！』」
　まるでファンタジー映画のような冒険活劇は、クライマックスまで突っ走り、大団円を迎えました。

【綾花と子どもたち】

　サキリ画伯の絵心はさておくとしても、男の子たちには大好評だった『サンマ王伝説』。
　今度は綾辻綾花が、『にゃんデレラ』で、女の子たちのハートを虜にします。綾花はくるりとみんなを見回して、微笑みとともに口を開きました。
「『にゃんデレラは、かわいそうなおんなのこ。いじわるなママねこや、おねえさんねこにいじめられて、ごはんもちいさなにぼししかもらえません……』」
　無類の猫好き、綾花の絵本はとにかく、猫だらけ！　イラストも得意な彼女の描く猫たちはこれでもかと可愛らしくて、子どもたちからも、ほうっと息が漏れました。
　そうした全体の構成や凝った製本などは、今も教室の後ろで見守ってくれている、早川珪先生のお墨付き。綾花はその柔らかい眼差しに、ほんのり、ぽっ。頬を赤らめながらも、お話を続けます。
「『あるひ、ママねことおねえさんねこたちは、おめかしをして、たのしいねこのしゅうかいにでかけていきました。けれどにゃんデレラだけは、もちろん、おうちでおるすばん……』『ああ、わたしも、ねこのしゅうかいにいってみたいわ』」
「にゃんデレラ、かわいそう……」
　女の子の潤んだ瞳に、綾花は、にこり。
「『そのときでした。ひとりぼっちでおそうじをするにゃんデレラのまえに、ねこのまほうつかいがあらわれたのです……！　まほうつかいは、いいました』」
　セリフにはもちろん、感情を込めて。
「『かわいそうなにゃんデレラ。この、にじいろのくびわと、ドレスをみにつけて、しゅうかいにおいきなさい……ただし、よるの１２じをすぎるまえに、かえらなくてはなりませんよ』『にゃんデレラは、おおよろこび！　まほうつかいにおれいをいうと、かぼちゃのばしゃにのって、ねこのしゅうかいへでかけていきました』」
　美しく着飾ったにゃんデレラは、集会で素敵な猫の王子さまに見初められ、優雅にダンス。素晴らしいひと時を過ごすことができました。
　けれど楽しい時間はあっという間に過ぎて、にゃんデレラは握った王子の手を離し、逃げるように駆け出します。虹色の首輪から外れて落ちた、虹色に輝くタグを残して。
　その後はもちろん、子どもたちも良く知るあのお話のように、ハッピーエンドを待つばかり！
「『おうじさまは、にゃんデレラのくびわへ、にじいろのタグをかちりとくっつけました』『ああ、あなたこそが、ぼくのさがしていたねこだ。ぼくと、けっこんしてください！』『こうしてにゃんデレラは、おうじさまとけっこんして、すえながくしあわせにくらしたのでした』　……おしまい」
　きらきらな、子どもたちの笑顔。それに、教室を満たす拍手に混じり、ぱちぱちと手を叩く珪先生の姿には、綾花自身もまた、胸がぽかぽかとあたたかくなるのを感じました。

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