【雫紅と子どもたち】

　満を持してのご登場、三夜 雫紅の出番です。
「『ララちゃんのりんご』、はじまりはじまり～♪」
　表紙には、ほんわか、可愛い女の子。彼女は乳母車を押していて、中にはお人形と、たくさんの林檎が乗っています。
「『げんきいっぱいな女の子、ララちゃん。今日も、なかよしのおにんぎょうといっしょに、とおくのまちではたらくお父さんのところへ、おいしいりんごをとどけてあげることにしました』『まっててね、おとうさん！』　みんな、応援してあげてね～？」
　雫紅はプロの絵本作家『しずくのみや』ですけれど、普段から弟妹たちへ読み聞かせをしてあげているおかげで、慣れっこです。
「『ララちゃんがあるいていると、たびびとが、みちのまんなかにうずくまっています』『おなかがへって、こまったな……やあ、これはおいしそうなりんごだね』　おとうさんにあげる大事な林檎だけど、みんなならこんな時、どうするかしら～？」
　なんて尋ねてみますと、子どもたちの反応も様々です。あげるー！　あげないよ、だっておとうさんのだもん！　でも、たびびとさんかわいそう……なんて、ひとしきり聞いた後に、
「『やさしいララちゃんは、たびびとに、りんごをわけてあげました』」
　絵の中の林檎はひとつ減り、からころと乳母車を押して、ララちゃんは歩き続けます。
　優しいララちゃんは、転んで泣いている子どもを見つけては、林檎をあげて慰めてあげました。
　頼んでいた林檎が届かない！　と困っている料理人にも、林檎を分けてあげました。
　そうして、困っている人たちにりんごを分けてあげながら歩いていると、
「『日がしずんできて、うすぐらいもりの中。ララちゃんは、おなかをすかせたおおかみとであいます』『おおかみさんにも、りんごをあげるね。あれぇ？』『けれど、うばぐるまのなかに、りんごはもうありません……このままじゃ、たべられちゃう！』」
　わああ……どうなっちゃうの？　ララちゃん、にげてー！　なんて、感情移入もバッチリな子どもたちの前で、雫紅はページをめくり、
「『そのときでした。ぱーん！　おおきなおとがして、おおかみが、ぱたんとたおれました』『だいじょうぶだったかい？』」
　先ほどの旅人……いいえ、狩人が、間一髪！　狼をやっつけてくれました。それに、心配してやってきてくれたのは、林檎をあげた子どものお母さんに、先ほどの料理人。彼らは美味しい料理や、ララちゃんの林檎で作ったアップルパイをごちそうしてくれました。
「『ララちゃんはこうして、りんごのおかげで、ぶじにお父さんに会うことができたのでした』　めでたし、めでたし～♪」
　ぱちぱちぱち！　笑顔がいっぱいの子どもたちの顔を眺めて、雫紅はほんわか。ぽやぽや。改めて、思うのでした。
（こんなに喜んでもらえると、もっと書きたくなっちゃうわね～。さあ、次はどんなお話にしようかしら～？）



【美咲紀と子どもたち】

　トリを務めるのは、椿 美咲紀。子どもたちにも負けじと、にこにこ笑って、元気満タン！
「さ！　読むのですよー。『花の見た世界』！」
　ピンクの装丁を、ぱらり。ページをひらくと、ほうっ……とため息が、子どもたちの口から漏れました。
　美咲紀もまた、決して、絵が達者なほうではありません。製本だって、画用紙をステープラーで閉じて、厚手の紙を巻いてその針を隠したくらいです。
　けれど現れた光景……色鉛筆でふんわりと描き上げた、草原と青空のコントラスト、そこに咲く一輪の花は、幻想的な絵画のよう。
「『ある日、そうげんにさくお花が、そらをとぶことりさんに、いいました』『わたしも、いろんなせかいが見てみたいわ。ねえ、いっしょにつれていって！』『しんせつなことりさんにくわえられて、お花は、そらへとたびだちます』」
　それでも絵には自信が無い美咲紀は、せめて喋りでカバー！　とばかり、
（恥ずかしがってちゃいけないのです！　子どもたちを、お話の世界に引きずり込む勢いでっ！）
　ばっちりハキハキ、堂々たる読み聞かせっぷり。
「『ことりさんにつれられて、お花はそらから、いろんなけしきを見ることができました。みどりがきれいなもりや、とうめいな水がながれる川、たくさんの人たちがくらす、むらやまち』」
　ピンク色の枠に彩られた、鮮やか、真っ青な空の中を飛ぶ、小鳥と花。ページをめくるたび、そこには美しい光景があふれ……美咲紀の絵がどうであれ、少なくとも子どもたちには、そのように見えていたことでしょう。何しろ小さな瞳にはこれでもかと、輝きが満ちておりました。
「『お花は、ことりがよくたちよる、まちの中のえさばで、ちょっぴりひと休み。そこへ、こえがきこえてきました』『ツグミさん、きょうもきてくれたのね……あら、まあ？　なんてきれいなお花なのかしら！』」
　お花をそうっと両手ですくいあげたのは、上品そうなご夫人です。餌場の管理をしている夫人は、お花を家の中へ連れていき、窓際にある一輪挿しに活けてくれました。夫人には、旦那さんや子どもたち、たくさんの家族がいて、賑やかに楽しく日々を暮らしています。彼らはそれから毎日、窓際へやってきては微笑みながらお花を眺め、水を換えてくれました。
　お花は、窓から見える餌場へ、今日もごはんを食べにやってきた小鳥さんとおしゃべり。幸せそうな家族の暮らしに感動して、言いました。
「『すてきなところにつれてきてくれて、ありがとう、ことりさん！　せかいには、しあわせがいっぱいなのね！』」
　読み終えた美咲紀が、最後のページをぱらり、めくりますと。子どもたちは、わあっ……！
「こうして、お話を聞いているみんなのことも、お花さんは、見ていたんですねー！」
　そこには、綺麗なピンク色。コスモスの押し花が、子どもたちを優しく見守っているのでした。



「さあ、今日のお話し会は、これでおしまい！　みんなどうだったかなー、楽しかったかなー？」
　日野 満が言うと、子どもたちはもちろん声を揃えて、
「「「たのしかったー！！」」」
「それじゃ最後に、楽しい絵本を読んでくれたお兄さんやお姉さんに、みんなでお礼を言おうか？　せーの！」
　あーりーがーとーうーごーざーいーまーしーたーーー！！
　元気いっぱい。巻き起こった拍手には、親御さんや先生がたも加わって盛大に、ぱちぱちぱちぱち！
　心に残るのは、何も子どもたちにとっての思い出だけでは無かったことでしょう。今日の読み聞かせ会に参加した彼らの胸にもまた、たどたどしい拍手やあどけない満面の笑みは、きっと胸に、あたたかい感触を残してくれたはず。
　『たのしい絵本の読み聞かせ会』は、こうして大成功の内に、幕を閉じたのでした。