【演目その１３　『スーパーレジェンド伝説ko-ha-gy　外伝』】

「いよいよ、小萩の出番ですね！」
　どどん！　ついにここ、スターヒルシアターの舞台へと降り立つ……降り立ってしまう、超ド級の生きたスーパーレジェンド女子高生、本条 小萩ちゃん！
「ぬー、この超大作をこんな大舞台で披露してしまったら……観客の涙で、滝が出来てしまうかも知れませんね！」
　割りと本気でそう思ってる、小萩ちゃん！
　照明や音響のお手伝いをお願いした劇場スタッフさんたちが、ちょっぴり戸惑いながら乾いた笑顔を頬に貼り付けておりますけれど。全然まったく気付いてないぞ、小萩ちゃん！
「それじゃ皆さん、よろしくお願いしまーす！　さー、劇場を感動の拍手と喝采で埋め尽くしちゃいますよー！」
　フリフリ衣装で、くるりとひと回り。スカートを翻せば、その可愛らしさには、スタッフさんたちもこれがけっこう、満更でも無さそうではあったりするのでした。
　パワー全開、ノリノリで舞台へ突撃だ！　小萩ちゃん！



「はいはいご来場の紳士の皆々様、ご注もーく！　お待たせいたしましたー、お次は美少女ちゃんの一人舞台なのよん！」
　ハルさんがぴらりんと振るったのは、ちっちゃな子向けの、おもちゃのステッキみたいなものです。
　かちっとスイッチを入れましたら、ぺかぺかぺか！　カラフルに電飾が瞬いて、きゅるぴかーん！　何かに変身できてしまいそうな効果音が響きました。
「えっとね、何だっけ、そうそう！　『スーパーレジェンド伝説ko-ha-gy』っていうマンガのワンシーンをね、演じてくれるんだそうです。でもごめんねー、お姉さんマンガにはちょっと疎くって、有名な作品なの？　みんな知ってる？　知らない？」
　会場の皆さん、揃ってフルフルと首を横に……と思いましたら。
　あっ、結構知ってる人、いらっしゃる！　小萩のお友だちな人々も、今日は結構、来場していたりするのでした。
「へえーワリと有名なのかしら？　お姉さんもこれからは、要チェック！　したいと思いますーっ、というわけで、行ってみましょー！　本条 小萩さんがお送りする……」



「『スーパーレジェンド伝説ko-ha-gy　外伝　～ko-ha-gyとnya-coの夜想曲（ノクターン）～』！！」

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　本条 小萩は、一見、普通の女子高生。
　毎日普通に学校に通って、普通に勉強をして、普通にお友達とおしゃべりをして……そんな普通の生活を送る、普通の女子高生。
　でも実は、小萩には秘密があるんです。
　そう！
　小萩の前世は、遠い昔に失われてしまった、超・古代文明のお姫様だったのです！
　そしてその力で、小萩は、変身できちゃうんです。
　素敵でミラクルな魔法少女！　その名も……『ko-ha-gy』に！

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　ここは舞台というより、もう、小萩のためのステージ！
（ふふー。みんな、思いっきり楽しんでいってくださいね！）
　切り裂くようなスポットライトが走り抜け、現れた彼女の身を包む衣装は、清楚な純白のビスチェドレスに、小萩の好きなイメージカラーである水色をアクセントとしてふんだんに散りばめた、フリフリ・ヒラヒラ！　なフリルが可愛らしい、魔法少女のコスチュームです。
　空を舞うような爽やかでノリの良いバックミュージックに乗って、たたんっ、と軽快なステップ。大胆に開いた胸元で、たわわに実った丸い双丘がたゆんと揺れれば、観客たちも良く分からないままにとりあえず、うおー！　っと歓喜の声を上げました、主に野太い声で。
　光を浴びて、小萩は軽快なダンスを披露。その華やかなパフォーマンスはまさしく、アイドルのごとし！　全身をめいっぱいに使って動かして、軽やかに朗らかに、楽しそうに彼女は踊ります。

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　季節は桜咲く、うららかな春！
　魔法少女ko-ha-gyこと小萩は、ある日一匹の、迷子の子猫と出会いました。小さな小さな、とっても可愛らしい子猫です。
　小萩はもちろん、子猫をお家へ帰してあげることにしました。魔法少女の務めですね！
　でも、小萩が実は魔法少女であるように。子猫もまた、普通の子猫では無かったんです。
　何と、その子は……小萩の前世、今は亡き古代文明のお姫様だった頃に可愛がっていた、ペットの『nya-co』が、現代に転生した姿だったのです！
　小萩……いいえ、ko-ha-gyとnya-coは、遠い時を経ての再会を喜び合いました。小萩たちは前世の昔から、とってもとっても仲良しだったんです。
　嬉しさのあまり、小萩のお胸ははちきれそうなほどに、いっぱいになりました。
　ああ、なんて素敵な巡り合わせでしょう！

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　と。激しく、鮮烈な色の光が乱れ飛んでいた派手なステージから一転、ＢＧＭのリズムが少しずつゆっくりと、スローテンポなものへと変化していきます。同時に小萩のパフォーマンスも、切なげな表情を浮かべて、キレのあるダンスからしっとりと落ち着いた、ゆったりとした動きに変わって行きます。
　一瞬、伏せた睫毛を震わせて。小萩は再び、すうっと瞳を開くと、
「でも……小萩は知っていました。今のnya-coはもう、普通の子猫。新しい家族に迎えられて、幸せな暮らしを送っていることを……」
　小萩の演技、先ほどまでの明るさとの、ギャップの演出によるものでしょうか？　観客たちは意外な泣きのシーンに、ちょっぴり、うるるんっと来てしまったり。
「小萩は、nya-coをお家へと送り届けます。それが、二度目のお別れになることを知りながら……」
　そっそんな……！　ko-ha-gyィー！　nya-coォー！！
　なんて、そんな声が届きつつ。中にはハンカチで、そっと目元を拭う人までも現れました。
　泣きの演技だってイケちゃうぜ、小萩ちゃん！

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　でも。小萩は、思うのです。
　nya-coが新しい家族にお迎えされて、幸せに、幸せに暮らしているのは、悲しいことじゃないんです。きっと喜ばしいこと。とてもとても、嬉しいこと！
　だから小萩は、祈ります。この桜の下で、nya-coの新しい毎日が、幸せに満ち溢れていますように、と。
　小萩は思い出します。nya-coとの、あの楽しかった日々を。懐かしい思い出の数々を。
　二人でたくさん、たくさん、色んなことをしました。長い時を、一緒に過ごしました。それはそれは、素敵で幸せなひとときを。
　今度は新しい家族と、nya-coはたくさん、思い出を作っていくんです。
　それはきっと、素敵なこと！
　小萩は……ko-ha-gyは今日、nya-coと再会して。そしてもう一度、お別れを告げました。
　幸せを祈りながら……！

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　バックにはスクリーン。映像は舞い散る桜吹雪、咲き乱れる満開の桜！
　再び小萩は、全開のアイドルパフォーマンス！　ＢＧＭもアップテンポへ、ノリにノって。スポットライトだってぎゅんぎゅん閃いて、きらきらと輝きながら、小萩は踊ります。
　くるんと回ってスカート翻し、フリルを揺らしてステップ、ジャンプ！　たゆんっとお胸が揺れるまでがお約束。
　小萩の入魂自作まんが、『スーパーレジェンド伝説ko-ha-gy』、これが初の舞台化。知ってるお友達も、知らないお客さんも、みんなみんな巻き込んで。
　最後はくるりんっと背を向けて、見返りからの、ぱちっとウィンク！

　フィニッシュをキメて、小萩は思ったということです。
（ぬー。留まるところを知らない小萩の才能……ちょっと自分でも怖いくらいです！　小萩ってば絵を描くだけじゃなくて、アイドルとしてもバッチリ、やっていけちゃいますね！）

＜『スーパーレジェンド伝説ko-ha-gy　外伝　～ko-ha-gyとnya-coの夜想曲（ノクターン）～』　終＞

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「すまん！　俺も、原作のマンガは知らなかったりするんだが。けど、楽しいステージだったな！
　ガンガンに鳴り響く音楽に乗って、まぶしいライトを浴びながらのパフォーマンス。小萩ちゃんもアイドルの卵だったりすんのかい？　ダンスもイケてたぜ！
　……ん？　なんかカンペが……おお！　原作は、小萩ちゃん自作のマンガなのか、そりゃすげえ！　ぜひ今度読ませてくれよな！　話も作れて絵も描けて、踊って演技も出来るってんだから、大したもんだぜ。
　新しいストーリーを作る時には、『san-ma』ってキャラクターを出してくれても、いいんだぜ？」



　ええ。もうぶっちゃけ正直申しますと、ちょっぴり残念な女の子です、小萩ちゃん。才能だけは確かにバッチリ持ち合わせがありましたものの、彼女の極まりまくって高い自己評価はいささか玉に瑕、ではありまして。
　けれどそんな彼女の舞台も、何はともあれ終わってみれば、これがけっこう大盛況！　だったりするのでした……本人的にはそれも、当然の結果ではありましたけれど。
　もういっそ、清々しいほどのナルシズム。そのまま突っ走ってくださいね、小萩ちゃん！
「これでまたひとつ、伝説を作ってしまいましたねー……おや？」
　意気揚々と舞台裏へ戻った小萩ちゃんが見かけましたのは、先ほど舞台の上で見たお顔。ネミッサ・ネモローサちゃんです。
　ネミッサは小萩に気付いて、
「あら……楽しい舞台だったわ、ミス本条。Little Robin Redbreast sat upon a tree♪」
「？　ありがとうございます！　ネミッサさんでしたっけ、そちらの舞台も、不思議な魅力があって面白くて……あっ、そうでした！」
　と、小萩が荷物から取り出したのは、ネミッサの舞台から飛んできたものを小萩が受け取った、あの赤毛の人形でした。
　お返ししますよ！　と差し出された人形を、ネミッサはひとつ眺めて。
「いいえ、差し上げるわ、ミス本条。ネミッサはもう、飛び立ってしまったから。自由になったから。それはもういらないの」
「？　そうですか、ならいただいておきますよー。ありがとうございます！」
　不思議な空気を醸し出すネミッサの言葉は良く分かりませんでしたけれど、小萩は人形を受け取っておくことにしました。確かに、今日の記念に持っておくというのも、悪くは無いかもしれません。
　二人は何となく一緒に、お互いの舞台について感想を述べたりしながら、舞台裏から立ち去っていきました。