ストリーミング・ドリーマー｜リアクション

ストリーミング・ドリーマー

　萌ミステリーリポートの萌タンこと鬼河内萌としては『夢見の香』の効能はしっかりとリポートしておきたい。結い上げたハニーブラウンの髪を揺らし、萌は八重歯を覗かせる。
　巨大な桃色のリボンが柔らかく揺れ、寝る準備を整えながら彼女は最近、よく心にちらつく野菜原ユウの事をぼんやりと思い浮かべた。
「本当に夢の中に入れるのかなぁ？」
　じ、と見つめた香は駅前のショップでも買えそうな何ら変哲のない物だ。白磁の指先でふりふりと揺らしてみては、香をじっと見つめる萌はこてりと首を傾げる。
「試せばいいかなっ！　よーし、ユウくんの夢の中へMMR出動だよ」
　てへっ、と愛らしい擬音が付きそうな茶目っ気溢れる笑みを浮かべた萌はいそいそと布団の中へと潜り込む。部屋の中に広がってゆくかおりに心を落ち着かせ、瞼をゆっくりと下ろせば――そこには『ユウ』がいた。
「こんばんは！　ユウくん、萌だよ。遊びにきたよ☆」
　満面の笑みを浮かべた萌が夢の扉をノックする。何時もと変わらぬ愛らしい笑みを浮かべた彼女の声音にびくりと肩を揺らしたユウが男の子の矜持（意味深）を護るようにオーバーリアクションをとった。
「大丈夫だよっ！　ユウくんのことだから、やっぱりハイテンションな夢だろうなって予想してるから！」
「待て、良く考えろ！　俺だって思春期の男子だぜ！？」
「じゃあ、ブラジャーの夢とか？」
　こてんと首を傾げた萌に引き攣った笑みを浮かべるブラジャーのトラブルメイカー・ユウ。
　思春期少年だからとプライバシーを護ろうと大慌てのユウがブラジャーの夢を見るのではと予測される信頼のなさは常の行動からくるものなのだろうが、可愛らしい顔で言われれば堪ったものでもないだろう。
　染めた髪に、ピアスと言った一見して『チャラい』少年はめげずに自身の社会的地位をしっかりアップしようとしている。
「そうだよね、え、でも、どうしよう。ユウくんも男の子だよね……。
　思春期の男の子だったら（らっかみ倫理に触れる）な夢を見るのかな？　も、もし、そうだったらボク……」
　ユウの悲痛な叫び（社会的地位アップ）は萌の耳には届いてはいない。
　夢の内容はさておいて萌が夢の中に入りこんだ事は思春期少年（トラブルメイカー）にとっては危険極まりない。ユウの行動の邪魔にならないように配慮して観察に励む萌は全ての事柄が裏目に出る少年が大きなトラブルに巻き込まれぬように小さく祈っていた。
「ユウくん！　あぶないっ！」
　らっかみ倫理に触れないようにガードするMMRの萌タンは思春期少年がレッドカードを出さぬ様に確りとガードを行っている。大きなリボンが派手に揺れ、滑り込んだ萌は迫りくる脅威に気付かなかった。
　――ここは夢。
　ぐるりと振り返った萌へと襲い掛かった超常現象は思春期少年が何時の日か見た幻想を思い返させた。
「ひゃっ――」
「ま、待て！　ちょっと待て！？」
　四散してゆく衣服を抑える様に身を丸めた萌。デジャヴを感じながらも目を逸らせなかったユウといえば……。
　ブホッ、と大きな音を立てながら赤い噴水を作りだして居たのだった。
　彼女達が夢を憶えているのかは、起きてみなければわからないのだろうが――。