――ざあ、と風が吹く。
『それ』を風だと認識したのは、恐らく、五感が正常に反応しているからだ。
暗澹とした世界は鼓膜が開く事を拒絶しているから。
ささめきごとを語るが如く聞こえた音は聴覚を過敏にさせた。
頬を撫でた感触に触覚が擽るなよと悲鳴を上げるようで。
ああ、そんな事をしているから鼻先に草木のかおりが感じられるではないか。
目を開けてごらん――目を、ほら、はやく。
誘う様に聞こえた声に、これが夢の中だと識った。
●
寝子島の旧市街、耳福池の近くにこじんまりと居を構えた『宵緋堂(よいあけどう)』。
変わり種を取りそろえた小さな和雑貨の店だ。数年前にはカフェを開こうとしたのかその様な痕跡が軒先には広がっている。
変わった商品を入荷したのだと風の便りを耳にして気紛れにこの場所へと訪れた
勅使河原 悠はミステリ研究会にも十分に役立つ商品の数々を柔らかなブラウンの瞳でちらりと見遣る。
「噂を聞いたのかい」
店舗の奥にどっしりと腰を下ろした店主は「奇奇怪怪、面妖なモノばっかり揃っちまった」とひとりごちた。
「今回、入荷したのは夢の世界に入れるってもんだよ。
こんな寂れた店じゃねぇ、客足も遠のいて堪りやしないんだ。よかったら使うかいな」
――誰の夢にだって入れるのさ。
囁く様に彼女は云う。無論、夢は夢だ。現実世界に影響を及ぼさない――『空想』の世界。
目が醒めれば忘れてしまう淡い泡沫の刻。
「夢、ですか……?」
「そうだ、夢だ。ちょっとした香を焚いて眠れば望んだものを見せてくれる。
夢だってプライバシーってモンがあってねえ、夢の持ち主が鍵を開いてくれにゃ入れやしない」
世知辛いねと老婆がくつくつと咽喉で笑う。
曖昧な言葉にこてりと首を傾げた悠へと老婆は持って帰んなせいとひとつつみ手渡した。
『望むモノ』を見に行くのも一興。『誰かの夢』を望むのとてまた一興。
さあ、見たい物はなんだい、と。老婆はしゃがれた声で小さく告げた。
初めまして、日下部あやめと申します。
勅使河原 悠さんはガイドへの御出演有難うございました。
夢は夢。楽しい夢も、怖い夢も其れは十人十色。ご覧になりたい空想の世界へ浸って下さいませ。
目が覚めた時にさっぱり忘れてるのか、ぼんやりと覚えているのか、しっかりと覚えているのかはPC様方次第です。
●『夢見の香』
宵緋堂に新入荷された謎のアイテム。どうやら、別の商品の入荷時に紛れこんでいたようです。
香を焚く事で見たい夢の世界へと招き入れる事が出来るようです。寝る時にご使用ください。
使えば誰でも夢の中へGO、です。
●夢の世界
※参加者様以外のPC様については描写致しません。
※NPCに関してはどのNPCのどの様な夢かをご指定ください。
また、NPCの夢を選ぶ場合は、そのNPCに相応しい夢にして頂けますようご配慮下さい。
NPCの夢は、内容によっては大幅に変更する可能性が御座います。あらかじめご容赦ください。
辛い夢も、楽しい夢も、全部ひとまとめに『自分が望んで見たい夢』を見る事が出来ます。
誰かの夢にお邪魔するのは双方での合意が必要となります。勝手に覗けないのです。
覗く場合は必ず【GA】を組んで下さいませ。
例:例:ともだちAの夢に私が遊びに行きます。Aの夢で二人で楽しく遊びます。
公序良俗に反さない範囲でのトリッキーな夢でも構いません。
沢山甘い物を食べるぞ!や幼いあの日を覗きに行くぞ、と言うのも夢の中ですので大丈夫です。
ただし、起きた時にはさっぱり忘れてるorぼんやり覚えてるorしっかり覚えているとそれぞれなのも夢としての一興です。
●宵緋堂
耳福池の近くにこじんまりと居を構えた古い雑貨屋。和雑貨を中心に取り揃え、一昔前はカフェを経営していた名残が見られます。
店主の名前は勝俣 ひなこ。すっかり腰の曲がった老婆です。
いつからこの店があり、彼女が何者であるかは語られていません。只、噂話に聞く店です。
ちなみに彼女の夢は若い頃の様に肉を盛りだくさん食べるという豪快なものです。
皆様方に、良い夢見が訪れます様に。