ストリーミング・ドリーマー｜リアクション

ストリーミング・ドリーマー

　スポーツ選手に不可欠なのは質のいい食事と質のいい睡眠。
　幼いころからの目標を叶える為に、青物といきはスポーツマンとしてしっかりと生活管理を行っている。
　流れ流れて、小物屋での購入品だという香をゲットした彼女は猫の様にうんと小さく伸びをしてせっせと焚く準備を行っている。
「はあ、いい成績出して浅井センセに褒められたいなあ……」
　相変わらずの朴念仁な浅井幸太先生にはといきとて前途多難な道のりには溜め息が出てしまう。
　香を焚き、健康的な時間に布団の中へと滑りこんだ彼女はうつらうつらと夢の世界へ落ちて行き……。

「ファイットー！」
　何処からか聞こえるホイッスルの音色に目を擦りといきはやけにリアリティのある夢だと目を擦る。
　グラウンドを駆け回る少年たちのユニフォームが風にはためいた。周囲から聞こえる声援は女子マネージャー達のものなのだということを認識した時に、といきは一つ『大きな事に気付いた』
（……って、アレ、浅井センセ！！？）
　といきが知っている年代よりも少しばかり若い頃なのだろうか。幼さの残る顔立ちは今とさほど変わりないのだろう。
　ボールを追う幸太らしき人物はチームメイトのパスを受け「ナイス！」と明るい声音で返している。
　望んだ夢を見せるという香を意識せずに手に入れてしまったといきが入りこんだのは、学生時代にサッカーをしているという夢だったのだろう。若い幸太は懸命に声を張り上げ、シュートを決めている。
「先生の昔って奴を見てるのかにゃ……」
　ぽつりと呟いたといきは転びそうになりながらもボールを追い掛ける幸太の姿にエールを送る。
　胸が騒ぐのは危なっかしいプレイを見た瞬間だ。同時に、胸が熱くなり、鼓動が大きくなるのを実感する。
（サッカーしてる！　がんばれ、先生！）
　声援を送る女子マネージャ―達が「浅井くーん！」と呼ぶそれに手を振った幸太にちくりと胸が痛んだ。
　女子マネージャーに囲まれるなんてモテている証拠だとといきが緊張に晴天色の瞳を瞬かせる。
　風に揺られた染めた髪を抑え、幼さを残すそのかんばせに様々な感情の色を乗せたといきは「チャンスにゃー！」と手を振った。
　大きくなったホイッスルの音にシュートを決めた幸太がぴょんと跳ねあがる。
　練習試合が終了したのだろう。タオルを持った女子マネージャーが走り寄り「お疲れ様ァ」と甘ったるい声音で話し掛けている。格好良かったよ、すごかったよ、と口早に褒めるマネージャー達に耳まで赤くした幸太が幼さを残したかんばせに照れを滲ませる。
「あは、赤くなった。浅井くんって可愛いよねえ」
　マネージャー達の言葉に居てもたっても居られなくなってといきは走り寄る。
「あ、浅井せんせ――浅井先輩！　かっこよかったですよ！」
　満面の笑みを浮かべ、瞳を輝かせたといきに「ありがとう！」と嬉しそうに返した大学生の幸太。
　その笑みに見とれたといきがもう一声掛けようと口を開いた時、「あの」と零した声は現実世界に飲み込まれた。
「ん、ん……？　はあ、やっぱ夢だったかにゃ」
　眠気眼を擦り、見慣れた自室を見回すといきは肩を竦める。
　女子マネージャーに囲まれて笑っていた大学生時代の想い人。勢いよく起きあがり大きな伸びをしてといきは気合を漲らせた。
「といきは負けないにゃ！」