ストリーミング・ドリーマー｜リアクション

ストリーミング・ドリーマー

　アジアンテイストを感じさせる香というアイテムは旧き日本らしさも感じさせる。
　日本らしくて好きだと入手したジェレミア・ベルトーニは掌の上でころりと香を転がした。
　彼の近くで小さく欠伸を噛み殺した灰色の毛並みのすみはころりと丸くなった茶トラのこはくの上にどすりと乗る。ジェレミアの膝の上で安眠地帯を確保したるちるは尻尾をゆらりと揺らし主人に睡眠を促す様に小さく鳴いた。

「うん。そろそろ眠ろうか」
　愛らしい猫達に眠りに誘われジェレミアは柔らかに笑みを浮かべる。細められた碧眼に小さな猫は嬉しそうに擦り寄った。
　焚いたかおりは心地よく眠りへと誘う。傍らのぬくもりを享受したジェレミアは奇妙な浮遊感を感じとり瞼を押し上げた。
「なんや、また今日も来たんかいな」
　オーソドックスな関西弁を喋るトラ猫が「飽きへんもんやな」と呆れた様に彼へと語りかける。
　彼にとっては慣れ親しんだ猫集会の場所の公園は、夢の中でも変わりない。ぱちくりと瞬いたジェレミアが現実世界では無いと理解できたのは『猫達と意志疎通が出来る』という立派な願望が叶ったからだろう。
「こんにちは。お邪魔させていただくよ」
「まあ、ええけどやな……」
　短い尻尾をぴくりと揺らしたトラ猫は柔らかな陽光を受けて気持ちよさそうに髭を揺らして居る。
　明確な意思は夢だと理解しているのだが――これは好機だ。猫が好きなジェレミアにとってはここの猫達の生育環境をしっかりと把握する立派な手段として成り立っている。
「君達がどんな暮らしをしているのかとても興味があって」
「物好きやなぁ」
　不遜なトラ猫に苦笑を漏らしたジェレミアは「ちゃんと食べ物は確保できてるかい？　体調が悪いとか、ケガや痛い所はないかい？」と以外にも大人しいトラ猫の頭を撫でつける。
「ボチボチでんなあ」
　打っても響かないとは正にこの事か。欠伸を噛み殺す猫は尻尾では上機嫌を表して入るが、対応は少しばかり冷淡だ。
「最近近所の猫達はどう？」
「せやなあ……冬やさかい、寒さで親子連れが困ってるみたいや」
　おいちゃんは困ってへんけどなとでっぷりと太った腹を見せたトラ猫にジェレミアは悩ましげに眉を寄せた。
「温かい寝床で良い所が見つからないんやね」
「なるほど……」
　掌に擦り寄ったトラ猫はボスらしさを見せずに素直に甘えてくる。彼がくれた情報は現実世界でも共通していそうだ。夢であることは重々理解しているが、これがボス猫の見ている夢と共通して居ればと願う様に彼は猫の頭を撫でた。
「ウチの庭に段ボールで寝床を作っておくから、本当に困ってるようなら教えてあげてね」
　冬の間だけでもきちりと診て上げると告げれば、不遜な猫はおおきにと小さく告げた。
　目が覚めたら庭の一角に段ボール製の猫ハウスを置こう。
　出張・獣医をこなしてやらなければとジェレミアはぬくもりの中、考えた。