＜寝子温泉よりSOS＞温泉が出なくなりました……｜リアクション

＜寝子温泉よりSOS＞温泉が出なくなりました……

「おー調査隊の人たち見つかったみたいだね」
　ねこったーを見ながら桜庭円が言った。温泉街はいよいよ観光客がわんさか押し寄せてくる時刻。登ってくるロープウェイも座れない人が増えてきている。
「あとは冷却装置の復旧を待つだけですね……」
　梅戸有留と御巫時子はスコップを持ち出し、周辺に残っていた汚れのない雪たちを広場に集め、かまくらや雪だるまを作り景観を装飾している。
「お、にゃーくんも作るか、ミニかまくら」
　雪をしゃりしゃり鳴らすのが楽しいのか、にゃーくんも雪の冷たさに驚きながらも両手で雪を掻いている。
「ふー結構な運動量だな」
　突っ立てたスコップに寄っかかりながらしばし休憩をとる有留。額には汗びっしょりだ。
　気がつけば数組の家族連れやカップルが集まり、各々雪で遊んでいる。
「これで時間はもちそうですね……」
「うん、いいアイデアだったね」
　一時ほっとする有留と時子。やれることは何でもやって、お客さんたちの気持ちを惹き付けることが、彼らの任務。
「足湯のほうも評判いいみたいだよー」
　時子と円の発案で作られた足湯コーナーはささやかな行列ができるくらい好評になっている。ハイキングや移動を終えて訪れた観光客の疲れを手軽に癒せるスポットだ。
「お、さらに団体客のおでましだぞ」
　車道から姿を現す大型バス。観光協会の誘導で駐車場に停まると、中からわんさか人が出てくる。すぐさま協会から事情を受けると、どよめきが沸き起こっていた。この一連の流れを先ほどから何度も見ていた。
「さて、営業営業っと」
　足湯への案内を知らせに円が走っていく。

　温泉客が集う共同の広い室内休憩スペースでは真境名アリサが自前の芸を披露。
「ほっほっほっ」
　テニスボールを3つ使ってのジャグリング。基本的な動きから、高く上げてみたり、股の間から投げ上げたり。得意のダンスも交える。こちらの評判も上々で、観客からは断続的に拍手が起こっている。
（事前にたっぷり練習した甲斐があったわ）
　休憩スペースの別の一角では、恵御納夏朝が物産展を開いている。『こねころころ』といった愛らしいお菓子がメインだ。
「寝子島の名産、たくさんありますよー。試食もどうぞ！」
　観光協会の大奮発に温泉客も大喜びだ。
　さらにお土産の並ぶ棚の上にテレビを設置。夏朝のスマホに接続して、お気に入りの寝子島の猫動画を放映。これは猫好きにたまらない。
「寝子島の名物といえば猫！　三毛ちゃん黒ちゃんサバ猫ちゃん、場所によって色んな柄の子がいるので、寝子島観光がてら探してみてくださいね」
　アリサのパフォーマンズに劣らず、こちらも賑わっている。
「実際の猫を触りたい方はこちら！」
　ここで颯爽と登場は円とにゃーくん。
「にゃーくんは人慣れしてるから、大勢の人に囲まれても平気だよね」
「にゃ〜」
　たくさんの人に撫でくりまわされるにゃーくん。つまらなそうに休憩場でくつろいでいる人のとこへ寄っては、にゃあと一声かけてみたり、ひざの上へちょこんと乗ってみたり。
「足湯とペットのダブル癒し効果だ」
　ついでにお正月用に覚えさせてみたカルタもやらせてみる。こちらは完璧にはこなせないが、にゃーくんの一挙手一投足にみんな満足のご様子。

「はー助かった」
　一汗かいたアリサはしばしの休憩。
「ジャグリングとダンスだけじゃもって数十分、あたしの体力もお客さんの興味も」
「お疲れさま、疲れた体にこねころころが効くよー」
「うん、ありがとう」
　夏朝から直接、爪楊枝に刺さったこねころころをもらう。
「うん、ちょうどいい甘さで美味しい。お土産に買って帰ろうかな」
「寝子温泉特価でお得だよー」
　バイト仲間にも営業する夏朝。
「まああたしも元はお客さんだし……」
　それにしても。タオルで額の汗を拭いつつ、アリサは嘆く。
「早く温泉に入りたいわあ」
「刀くんたち、ちゃんとやってるかなあ」
　窓外の九夜山を見上げる円だった。