【終業式】始めようと思ったときが始まり｜リアクション

【終業式】始めようと思ったときが始まり

【一年の汚れを駆逐せよ〔教室編〕（１）】

　大掃除は一年生の各教室でも始まっていた。
「よし、まずは一年分の溜まった埃を落そう」
　恵御納夏朝はそう言うと、借りてきた椅子の上に乗ってせっせとロッカーや用具入れなどのハタキかけを開始した。
　可能なら背の高い男子に任せてしまうのが理想だが、掃除にもグループわけがあり、結果としてやや背の低い夏朝にもハタキの仕事がまわってきたわけだった。
「大丈夫。椅子に乗れば僕だって届くよ牛乳もちゃんと飲んでるし！」
　そう意気込む夏朝は大変心強そうだった。
　だが、しかし。
（……と、届かない！）
　いくら椅子で嵩上げしても、届かない場所があるのも事実だった。黒板の上のスピーカーの埃とか。
「あー。恵御納。いいよいいよ。そこは俺がやるよ」
「あ、うん。ありがとう。じゃあお願いするね」
　クラスの背の高い男子が変わってくれると言うので、夏朝は素直にハタキを渡す。
（うーん。ちゃんとカルシウムも取ってるはずなのに……。もう少し量増やした方がいいのかな？）
　椅子に乗ればあっさりと高所に手が届く男子生徒の背中を少し羨ましげに見る夏朝は真剣に牛乳の摂取量の増加を検討した。
「あ、夏朝ちゃん。ちょっと雑巾洗ってきてくれる？」
「わかった。行ってくるね」
　クラスの女子に頼まれて、夏朝は廊下の向こうの流し台に向かう。
（あ……。人が一杯……）
　ところが、流し台にはギトギトに汚れた雑巾を手にした生徒達による長蛇の列ができていた。
（そういえば、一年生って凄くたくさんいるもんね）
　夏朝は妙に納得した。
　むしろ、いつもはどうして教室がパンクしないのか、ときどき不思議に思うこともあるのだが、最近はもう全部神魂のせいだと思うことにしていた。
　と、そのとき、夏朝は列のすぐそばに、友人の後木真央の姿を発見する。
「後木さん。こんにちは」
「あ、夏朝ちゃん。こんにちはなのだ！」
　後木真央は今日も元気が良かった。
　ただ待っているのも暇だったので、夏朝は世間話に成績の話題などを振ってみることにする。
「後木さん、通知表とかどうだった？　僕は期末テストで一つ赤点があったんだけど、」
「え？　し、知らないのだ。通信簿なんて存在しないのだ。通信簿なんて虚構なのだ。うっかり屋さんが見間違えたのだ！」
　真央はどこかで聴いたような節回しで、全力で通信簿の存在を否定をした。
「……あ、う、うん、そうだね。そ、掃除は捗ってる？」
　触れてはいけない話題だっただろうか、と夏朝は慌てて話を変える。
「……！　掃除はみんな頑張ってるけど、なかなか綺麗にならないのだ！　一年分の汚れまじパネェのだ！」
　真央はホッとしたように息を吐くと、拳を握り固めて力説した。
「うん。特に高いところに積もった埃とか大変だよね」
「まったくなのだ！」
　小柄系女子トークに花を咲かせつつ、二人は列に並んで順番を待つ。
　寝子高の大掃除はまだまだ続いていく。