【終業式】始めようと思ったときが始まり｜リアクション

【終業式】始めようと思ったときが始まり

【一年の汚れを駆逐せよ〔部室編〕（１）】

　一年の汚れが降り積もっているのは何も各学年教室だけではない。
「はわわ。いつのまにか原稿を書くために持ち込んでいた私物が一杯なのです。わざとじゃない。わざとじゃないんですー」
　部室棟の一角にある新聞部の部室では、一年生部員の椿美咲紀が目の前にうず高く積まれた『私物』について、誰にというわけでもなくぶつぶつと言い訳を繰り返していた。
「毎日、きちんと整理しておかないからこうなるのではないですか……？」
　同じく新聞部の部員である常闇月が、その圧倒的な物量に若干引き気味に言う。
「ううっ。常闇さんの机は片づいていていいですね……」
「極力、私物は持ちこまないようにしていますので」
　てきぱきと片づけながら至極正論を述べる月に、美咲紀はもはや返す言葉が何もない。
「新聞部は比較的片づいてる方だと思うのだ。仕事柄、紙は多いけど、それは仕方がないことなのだ～♪」
　と、やはり同じく新聞部員の後木真央は、『通信簿など存在しない』という趣旨の謎の歌を歌いつつ、反故になった紙などの整理などを続けている。
「……後木さん。先程からときどき何かを思い出したように震えているようですが、大丈夫ですか？」
「だっ、大丈夫なのだ！　赤点なんて嘘なのだ！　まして０点とかありえないのだ！　ただの見間違えなのだ！　それゆえにゲンコツもないのだっ！」
　真央は力強くそう力説したが、微妙に目の焦点が合ってなかった。
「……それにしても、凄い量の資料写真ですね」
　月はそれ以上は成績には触れないことにして、真央が整理していた写真のうちの一枚を手に取って呟く。
「新聞部のこれまでの活発な活動が目に見えるようです。それに写真に写っている皆さんもとても楽しそう」
　月は新聞部に入部してからまだ日が浅い。
　だからこそ、積極的に片づけに参加して、少しでも部に貢献したいと思う。
「さて、それではまずはゴミの分別からですね。紙やダンボールはこちら。プラスチック類はこちら……おや、このノートは」
「あ、と、常闇さんっ、それは見ちゃ駄目ですっ……！」
　美咲紀がガタッと椅子を鳴らして立ち上り、月を制止しようとする。それは美咲紀が記事制作の合間の息抜きに妄想を書き散らした創作ノートで、誰にも見られたくない代物だった。
　が、時はすでに遅かった。
「……」
　月はなんとなしにパラパラとノートをめくり、呆然とした顔つきで目を瞬かせた。
　それから、月は居たたまれなくなったような表情になり、
「……見なかったことにしましょう」
　と、美咲紀にノートを返した。
「ふ、ふぇえええええっ！？」
　見られてはいけないものを見られてしまった美咲紀はもう涙目だった。
「くっ……。この悲劇を繰り返さないためにも、シューくんが、ぶちょーが生徒会室から戻ってくるまえに諸々のブツを片づけないと！」
　美咲紀は悲劇のヒロインのように片づけの決意を新たにするが、悲劇の内容が内容なのであまり泣けなかった。
「はっ……！？　これはストックしておいたクッキーや、栄養補助バー！　探してたんですよね、やったぁ☆」
　思わぬ発見をして、美咲紀は嬉しそうな声をあげる。
「これは非常食ＢＯＸ（笑）にしまっておきましょう。修羅場のときに役立ちますからねー」
　美咲紀はいそいそと非常食ＢＯＸという名のおやつ入れにクッキーやら何やらを収納する。
「よーし。やる気出てきましたよ！　それじゃあシューくんが来る前に私達で全部片づけちゃう勢いで頑張りましょう☆」
「ええ、頑張りましょう」
「なのだ！」
　こうして新聞部の片づけは続く。