１２月の★ハッピーバースデー｜リアクション

１２月の★ハッピーバースデー

★天之川麗仁のＢＤ前日

　１２月２３日。夕食を済ませた天之川麗仁は、星ヶ丘寮の自室で自分のスケジュール帳をチェックしていた。

　明日はクリスマス・イブであり、麗仁の１６歳の誕生日でもある。１つまた大人になるその日。麗仁はただ歳を重ねるだけではなく、内面的にもきちんと大人に近づきたい―――そんな想いから、人生初のアルバイトを経験する予定だった。明日と明後日、イブとクリスマスの２日間、洋菓子店『Raton』で働くのだ。
（きっと、凄く忙しくなる）
　『クリスマス』と印刷されているスケジュール帳の日付を見ながら、麗仁は身が引き締まる思いだった。
（……大きな充実感を得られる特別な誕生日になるといいな）
　そもそも彼が実家を出て、この寝子島で生活を始めたのも、いわゆるお坊ちゃま育ちの自分の視野をもっと広げたかったからだ。
　今年１年、本当に様々な事を体験した。そして明日からは初めてアルバイトという形ではあるが、外で働く。寝子島で暮らし始めたあの時の気持ちを思いだし、初心に帰るつもりで、同じ店で働く仲間やお客さんたちとの出会いを大切にしよう。
　１つ大人になることへの想い、働くことへの期待と決意で、麗仁の胸は大きく膨らんでいた。

　その時、部屋のチャイムが鳴った。インタホンを確認し、麗仁は応対に出る。ドアを閉めた時、彼の手には小さめな箱があった。その送り状を確認し、麗仁の顔がほころんだ。
　荷物は、実家からだった。送り状の品名の所に『プレゼント』とあり、思わずくすりと笑ってしまう。どうやら宅急便で１日早く、両親が誕生日兼クリスマスプレゼントを送ってくれたようだった。
　麗仁はソファに座ると早速荷物を開けてみる。箱の中にはラッピングされたもう１回り小さな箱があり、その包装を解くと、中から腕時計が出てきた。艶やかに煌めくその時計の文字盤には、世界的にも有名な高級時計のブランドが刻印されていた。
「素敵だな……」
　麗仁は思わず呟いた。いつも両親がくれる物は高価な物だ。しかしそういう値段的な事を実感出来るようになってきたのは、１人暮らしを始めてからだ。今までもしっかりと生きているつもりだったが、外に出て初めて、両親に守られていたんだなと分かる事が麗仁にはたくさんあった。そして、こうして離れていても自分の誕生日を忘れずにお祝いしてくれる両親の気持ちがとても嬉しかった。

（電話しなくちゃ）
　麗仁はお礼のため、早速実家に電話をかけた。久々に聞く、受話口越しの両親の声。
「……うん、うん……大丈夫だよ。明日は頑張るから」
　矢継ぎ早に両親は麗仁の暮らしぶりなど色々訊いて、心配してくる。何だか両親が目の前にいてくれる気がして、麗仁はちょっと胸が熱くなった。
「……それじゃあね」
　たくさんの話をし、麗仁は電話を切る。しばらく電話をしていたスマホを見つめていた麗仁は、両親に贈られた腕時計を手に取った。
（ありがとう……）
　両親の優しさが、ありがたさが身に染みる。久々に声が聞けてよかった。明日からのアルバイトも一層頑張れる気がする麗仁だった。